賢者、二度目の転生――女性しか魔術を使えない世界だと? ふん、隠しておけば問題なかろう。(作中に飲酒シーンが含まれます、ご注意ください)

鳴海 酒

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第10章 ドキドキ☆ラブ・ライトニング!

スペランカー

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――黒蛇の迷宮――

「ちょっとインギー、大丈夫ですの?」
「あ、ああ。すまない、少しぼーっとしていた」
「飲み過ぎですよ、まったくもう!」

 俺はキャスリーとサクラとともに、レベル上げのためにダンジョンに潜っていた。
 今日はどうも朝から調子が悪いようで、集中力に欠ける。
 自分一人ならまだしも、仲間の前で情けない様子を見せるわけにはいかない。

「イングウェイさん、強がるのはダメなんですよ? いざというときに動けなかったら、大変なんですから」

 サクラが優しく背中を撫でてくれる。本来なら安心するはずの行為のはずなのに、なぜか今日は落ち着かなかった。

「もう大丈夫だ、行こう」

 俺は前を見据え、狭い廊下を再び歩き始める。と、その時。

 ふああーん

 周囲が鈍い光を発し、俺たちは別のフロアへと飛ばされる。

「んもう、またですの? まったく、これじゃ今どこにいるか、さっぱりわかりませんことよ!」

 キャスリーのイライラももっともだ。
 蛇の名を冠する、狭い通路の入り組んだダンジョン内。俺たちは何度目かもわからないワープゾーンに、完全に翻弄されていた。

「はい、じゃもう一度目印置いとくよー」
 サクラが白っぽい石を、通路の脇に置く。洗濯機用の石鹸だ。
 本当なら削って売りたいのだが、この際仕方がない。

「石の中に飛ばされないだけ、マシと思うしかないな」
 方向を決め、再び歩き出す。敵は少ないものの、探索は遅々として進まない。
 最悪の場合、魔術で壁に穴をあけることも考えるべきだろうが、まだその時ではない。

「ねえインギー、本当にこれでいいんですの?」
「ああ。踏破できない迷宮なんかないさ。このやり方をしっかり覚えておいてくれ」
「あ、やっと見つけたよ。これ、何回目の目印だっけ?」
「ちょっと待て、今地図を広げる」

 ワープするたび目印を設置し、新しい用紙に地図を書く。目印があれば、その地図を組み合わせていく。
 地道だが、確実な方法だ。
 ダンジョンの面積が無限ということはない。――魔術でのループが組み込んであれば、気付くはずだ。
 おそらくモンスターが少ないのも、倒した死骸自体を目印にされないようにという意図だろう。

「どう? 何かわかったかしら?」

「やっと1つループを潰しただけだからな。これだけじゃなんとも言えん。もう少し進むぞ」
「はーい」
「仕方ないですわね」


 それから数時間は歩いただろうか。キャスリーはもちろん、体力があるはずのサクラまで、疲労の色が見えてきた。
「少し休むか?」
「はい、そうですね」
「見張りを順番に――」
「いいから二人とも寝ていろ。俺だけで十分だ」

 俺は強引に二人を休ませる。二人はこんなに長くダンジョン内でさまようのは、初めてだからな。まったく、気丈に振舞っているが、無理をしているのが見え見えだ。

 二人を休ませている間、俺は地図をにらみ、まだ合わさっていない部品をいろいろと組み合わせてみる。
 と、奇妙に欠けた部分が出てくる。
 なるほど、おそらくここか。

 こういう術式は、人為的に組み込む以上、必ず術者の癖が出る。全てマッピングし尽してしまえばそれが一番確実だが、ある程度歩いたところでアタリを付けていくのが普通だ。
 勉強熱心で博識なキャスリーだが、こういう冒険者の裏知識はまだまだだ。くわえて、経験もない。
 起きたらいろいろ教えてやらなければな。

 寝ころぶと、バッグの中からスキットルを取り出す。
 中身は焼酎だ。マリアから少しだけ拝借していたものだ。

 少しだけ口に含むと、すぐに眠気が襲ってくる。
 なに、モンスターの少ないダンジョンだ。少しくらい油断しても大丈夫だろう。

 そう考えて、俺はまどろむ。
 眠るつもりはない。少しだけ目を閉じて、休むだけだ。
 そう、ちゃんと起きている。何か物音がすれば、すぐに目を開けて確かめる。
 絶対俺の方が早い。
 攻撃より、瞼を開けるほうが早いからだ。
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