94 / 200
第10章 ドキドキ☆ラブ・ライトニング!
ドキドキ☆ラブ・ライトニング!
しおりを挟む「じゃあね、佐倉」
「うん、また明日ね」
いつもの曲がり角で礼ちゃんと別れた私は、そのまま自宅とは別方向へ歩きだす。
向かう先は、インギー君のマンションだ。
礼ちゃんのことなら、だいたいわかる。おしゃれで新しいものが好きで、かっこいい男の子に弱いのだ。
インギー君はすっごくタイプのはずだから、いつかこういう日が来ると思って準備していたのだ。
とあるコンビニで少し待つ。ここは、彼の通り道。
冷たい風が吹き抜ける。中で待とうかと少し考えたが、彼を見逃しても嫌なのでやめておく。
マフラーに顔をうずめて礼ちゃんの笑顔を思い出していたら、やっと彼がやってきた。
「ああ、佐倉じゃないか」
「インギー君!」
「待っててくれたのか?」
「ええ。誰にも見られてない?」
インギー君は笑いながら、慣れた手つきで私の肩に手を回した。何を勘違いしているのだろう、こいつは。
吐きそうだ。
礼ちゃんとの時間を削ってこんな男と会っているだけでも嫌なのに、服越しとはいえ、私の身体に触れてくるなんて。帰ったらすぐにシャワーを浴びないと。
「別にいいじゃないか、見られたって」
「もう、言ったでしょう、うちはこういうの厳しいんだから。何かあったら、インギー君にも迷惑がかかるわ」
「オレは別にかまわないけどな。どう、少し家に寄って行かないか?」
「ダメ。今日は委員会のことがあったから、これ以上遅くなるとまずいわ」
「なら、ムリして待っててくれなくても――」
私は半歩だけインギー君の方に移動して、首を傾けた。
「いいじゃん、ちょっと顔が見たかったんだもん」
これが限界だ。これ以上は、私の理性がもたない。
「……他の女の子に告白されても、付き合っちゃダメだよ?」
「わかってる」
「じゃあね、また明日、学校で」
私は時間を確かめ、慌てるようなそぶりで彼から逃げ出す。
角を曲がる前に、もう一度だけ振り返る。彼はあんなに小さくなっているのに、まだ手をぶんぶん振っている。バカみたいだ。
私も右手を上げ――
ガコンっ。
「きゃっ」
鈍い金属音。私はよろけ、転びかける。何かを蹴飛ばしてしまったようだ。
目の前には、奇妙な一斗缶。側面と底からは、四本の棒――まるで手足だ――が伸びている。顔らしき部分には、レンズまで。
なにこれ、ロボット?
「あいてて、前くらい見て歩くでやす! 気を付けるっすよ!」
なにこれ、喋った? 最近のおもちゃはこんな高性能なのだろうか?
戸惑う私を、一斗缶は上部に付いたレンズでじろじろと眺める。ウイーンと小さく聞こえるのは、モーターの駆動音かしら?
こいつ、まさか録画とかしてないでしょうね? 警戒する私。
ロボットは唐突に立ち上がり、側面の棒――やはり腕だった――で私の手を握り、ぶんぶん振りながら言った。
「も、も、もしかして、サクラの旦那じゃないですか! あっし、ずいぶんと探したんでやす! よかった、ほんとうに良かったでやす!」
意味がわからない。確かに私は佐倉だが、なんでこいつは私の名前を知っているのだ。
それに旦那ってなんなんだ。私は女だ。
そもそも、なんだこの状況は。
「誰よ、あんた」
「ミリリッ太でやす、覚えてないんでやすか? あんなに愛しあったのに!」
「知らない」
愛し合った? 冗談だろう。私は平凡な女子高生だ。男子と付き合った経験どころか、キスもしたことがない。
それを、ロボットが?
私は無視して逃げることにした。
「サクラの旦那! 待ってくだせえ!」
追いかけてくる一斗缶。
なんだこいつ、結構足が速い。短いくせに。
――あ、あれだ。
右側に橋が見えた。私は橋の方へ曲がるとすぐに立ち止まり、欄干をしっかりと持つ。
迫りくる一斗缶。
「うおおっ! ぶつかるっすー!」
せこせこと短い足で走ってくる一斗缶は、急には止まれない。
「せーのっ!」
私は、迫ってくる一斗缶を、思いっきり蹴り飛ばす。 べっこんっ!
「あうちっ!」
変な悲鳴がしたが、ええい、知ったことか。
一斗缶はよろけると、そのまま欄干の隙間から、スローモーションのようにゆっくりと下へと落ちていった。
「あーーー、またでやんすかーーーっ!!」
ばっちゃん。
派手な水音。
一斗缶はそのままぷかぷかと浮きながら、流されていった。
0
お気に入りに追加
92
あなたにおすすめの小説
レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。
玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!?
成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに!
故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。
この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。
持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。
主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。
期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。
その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。
仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!?
美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。
この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。
Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――
金斬 児狐
ファンタジー
ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。
しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。
しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。
◆ ◆ ◆
今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。
あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。
不定期更新、更新遅進です。
話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。
※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。
おっさんの異世界建国記
なつめ猫
ファンタジー
中年冒険者エイジは、10年間異世界で暮らしていたが、仲間に裏切られ怪我をしてしまい膝の故障により、パーティを追放されてしまう。さらに冒険者ギルドから任された辺境開拓も依頼内容とは違っていたのであった。現地で、何気なく保護した獣人の美少女と幼女から頼られたエイジは、村を作り発展させていく。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!
マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。
今後ともよろしくお願いいたします!
トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕!
タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。
男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】
そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】
アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です!
コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】
*****************************
***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。***
*****************************
マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。
見てください。
転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。
みみっく
ファンタジー
どうやら事故で死んでしまって、転生をしたらしい……仕事を頑張り、人間関係も上手くやっていたのにあっけなく死んでしまうなら……だったら、のんびりスローライフで過ごしたい!
だけど現状は、幼馴染に巻き込まれて冒険者になる流れになってしまっている……
俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜
早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。
食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した!
しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……?
「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」
そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。
無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる