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№9 Bloody Hammer
Hide and Seek
しおりを挟むイングウェイは聞いた。
「なぜお前らは俺の前に現れる? なぜ俺を殺そうとする?」
リーインベッツィは言った。
「わしらのことを、狭間の存在じゃと思っとるんじゃろう?」
答えになっていなかった。少なくとも、イングウェイの求める答えではない。
穴からウイルスに感染したんだ。そう言われた方がまだ理解できる。けれど現実とは理解できないものだし、きっとリーインベッツィの方が正しいのだろう。
まともな答えなどない。そもそも最初から狂っていたのだから。
「クソ野郎だ、お前もサクラも。俺の死骸にエビのように群がって食いつくす。払っても払ってもまとわりついてきやがる」
「助けてやったというのに、ずいぶんな言い草じゃのう」
けたけたと楽しそうな笑い声が、夜の闇に響いた。
イングウェイは、唾を吐くことで必死に正気にしがみつく。
「幻影だ、お前らは脳みそに入り込んだ虫だ、頭痛も全部お前らのせいだ」
「それじゃそれ、わしらを幻影だと思っとるんじゃろう? それがそもそもの間違いじゃろうに」
何をバカな。
息を整えて、はっきりと口にする。
「……幻影は幻影らしく、消えるべきだ」
リーインベッツィはイングウェイの瞳の奥を一瞬だけのぞき込むと、悲しそうにうつむいた。
「おぬしらにとっては息抜きのダイヴだろうが、わしらにとっては冷酷な現実じゃ」
「ああそうさ、だからお前たちは――」
「だからこそ、じゃ。わしらは一度きりの現実を生きておる。危なくなっても逃げればいい、そんなことを考えているおぬしらが、わしらと競うつもりか? それが、そもそもの間違いじゃろ」
イングウェイは何も言い返せなかった。
「中途半端なのは、ぬしらのほうじゃ」
崩れ落ちそうになるのを必死で耐え、イングウェイは考えた。どうすればいいかを。
何をすればいい? どうすれば抜け出せる?
「探すんじゃの、嬢ちゃんを」
「誰だよ、巨乳の女か?」
「違うわ、アホ。サクラ・チュルージョとかいう女じゃ」
ぞくりと脊椎が震える。
「あいつが? しかしあれは……」
「そっちじゃない、本物のサクラをじゃ。お前の知っとる嬢ちゃんは、最初からあんな女なのか?」
即答はできなかった。迷っていたからではない、頭の中の靄がまだ邪魔をしているのだ。
俺は、サクラを知っているのだろうか。サクラを見付けられるのか。自信はない。
「かくれんぼみたいなもんじゃ、気軽にやるがいいさ。――さて、ここまでくればもういいじゃろ?」
イングウェイが顔を上げると、デイヴの店が遠くに見えた。
リーインベッツィはばさりと漆黒の翼を広げると、大きく羽ばたきながら飛び上がる。
じゃあの。
それだけ言うと、さらに高く。
東の空が白み始めていた。
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