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№9 Bloody Hammer
Alcoholbreath
しおりを挟む「確かに私は、サクラ・チュルージョです。その名前をどこで知ったのですか?」
サクラは問い詰めるように言うが、その口調に先ほどまでの棘はない。
「ダイヴしたときに、パーティーを組んでいた」
「ダイヴ、ですか。……知りませんね、それはどんな魔法です?」
サクラは眉間にしわをよせ、再び疑うような表情でこちらを見る。
沈黙。耐えられず、今度はイングウェイから聞く。
「こちらからも聞きたいことがある。このドラゴンはなんなんだ? それと、お前が使っていた魔法も」
「ドラゴンはドラゴンでしょう。カルポス山脈にはまだ生息していますし、たまにはぐれたものが人里に迷い込む。まさか、見たことがないと?」
「ああ、ないね。……少なくとも現実では」
「魔法も?」
「それは見たことがある。≪電撃≫だろう? 俺もよく使っていた」
「やっぱり、知っているんじゃないですか」
微妙にかみ合わない会話に、イングウェイはイラつきを隠さなかった。
我慢なんてせずに、怒鳴り散らした。
「だから! それはダイヴ内での話だろ? 俺は現実の話をしているんだ! このクソでかい化け物はどこから来た? お前のライトニングは、どんな武器を使った? 俺はまだダイヴ中なのか? 夢でも見てんのか? こんなクソみたいな現実の夢を!」
一気にまくしたてると、荒くなった息を整える。
しまったと思ったが、遅かった。サクラの表情に、再び警戒の薄布がかかる。
「クソが」
唾を吐き、トラックへと戻る。一切振り返らずに。
女は追ってこなかったし、声もかけてはこなかった。
イングウェイはトラックに戻ると、すぐに車を出す。道を戻り、デイヴの店へと向かうのだ。
ガタガタと上下に揺さぶられるうち、現実がゆっくりと戻ってくる。
そうだ、あんなのは夢の中だけで十分なのだ。
道は記憶通りに続いており、店もちゃんとそこにあった。
錆びついた看板、放置されて埃にまみれたコンテナ。やる気のない店主。
いつも通りの景色、いつも通りの店だ。
車の音を聞きつけてか、デイヴが面倒そうに中から出てきた。
「ようインギー。湿気た面してどうしたよ?」
いつもの声、いつものデイヴだった。
その酒臭い吐息に、イングウェイはやけに安心した。
彼はかつて、ダイヴから追放された人間だ。彼がここにいるということこそ、現実の証明なのだ。
「変な女に会ったんだよ」
女だって? デイヴは変な顔をして、そしてケタケタと笑った。飲みかけの酒瓶を差し出してくる。
「そらお前、酒が足りんのさ。とうとう干上がったばあさんどもが女に見えてきたか。重症だな」
「違う、そうじゃない。若い女さ、ドラゴンと戦ってやがった」
「ほう、ドラゴンを? とうとうPCBに脳みそを焼き付かせたか。うらやましいぜ、そうなりゃどこだって楽園だ」
「黙れよデイヴ。俺は本気で言ってんだよ」
デイヴとは長い付き合いだ。その言葉が導火線に火をつけることを、イングウェイが知らなかったわけではない。だが、興奮のあまり忘れていた。
デイヴの顔は一気に耳まで赤くなり、握りしめたこぶしがわなわなと震えた。
「本気、だと? おいインギー、お前こそ自分が何言ってんのかわかってるか? 俺にダイヴの話をするな、クソの話を聞かせるな。わかってんだろ?」
デイヴの首の穴は、ふさがれていた。
イングウェイはすぐに自分のミスを悟り、少したじろいだ。
「すまん」
それが精いっぱいの言葉だった。嘘は吐きたくなかった。
デイヴは首を振る。この話は終わりだということだ。
デイヴがいつも通りに酒を出してきて、荷台へと積みこむ。
イングウェイはくしゃくしゃになった紙幣で金を払い、頭を抱えたままトラックに乗り込む。
デイヴが聞いてくる。
「おい、まだその頭痛、治らねえのか?」
「治るようなもんじゃねえよ、ごまかすだけだ」
「そうか。そうだったな。ああ、俺もそうだった」
デイヴは頷き、酒瓶に口を付けた。
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