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№9 Bloody Hammer

the Five Guildmates

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 イングウェイはトラックから降りると、ゆっくりと歩く。
 放置された農地は、中途半端な緑に覆われていた。
 草いきれに吐きそうになりながら、時折紛れている蛇に注意して荒れ地を進んだ。

 まず目についたのは、横たわる竜、苦し気にごうごうとうなるのが聞こえる。
 腹はまだ、ゆっくりと上下していた。死にかけているのだろう。起き上がる力はないようだ。

 女は女で、不思議な格好をしていた。東洋風の服装に、薄いピンク色の髪は後ろでまとめてあり、凛とした表情でこちらを見ている。
 見たところ、服に破れはない。土汚れくらいか。
 それよりも腰に差しているものが気になる。あれはたしか、カタナとかいう武器ではないのか?

 女はイングウェイに警戒しつつ近づく。
 イングウェイから口を開く。

「あー、お前は、誰だ? 言葉はわかるか?」

「……ええ、あなたは誰ですか?」

 ――この辺の奴じゃねえな。
 女の言葉は汚く、なまりだらけの喋り方だった。
 人に名前を聞くときは、まず貴様から言うもんだ。喉のすぐそこまで出てきたセリフを、げっぷとともに飲み込む。

「イングウェイだ。イングウェイ・リヒテンシュタイン。お前は?」
「……チュルージョと言います。この竜を追ってやってきたのですが、帰り道が分からなくなって。ここはどこです?」

 言葉こそ丁寧なものの、女がイングウェイを信用していないのは明らかだった。
 決して一定以上に近づかず、彼から目を離そうともしない。足運びは妙なリズムで、おそらくすぐに動けるように警戒しているのだろう。
 その態度は、イングウェイのムカつきを効果的に増幅していた。

 俺の土地で何をしている。きったねえドラゴンの死体は誰が片付ける。お前は誰だ。聞きたいことは山ほどあるが、まずはそのクソみたいな態度はなんだ?

「何様のつもりだ? 同じ名前のくせに、あいつとは大違いだな」
 思わず口を突いて出た。そこでまた、頭痛が走る。

「あいつ? 誰ですか、それは」
 女は聞いた。冷たい声だが、表情には少しばかりの変化があった。

 イングウェイは頭を押さえたまま、考える。
「あいつ? そうだ、俺は誰の事をいっている――」
 自分が言ったセリフを反芻する。なぜあんなことを言う? 俺は誰の事を思い出したんだ?

「もしかして、私の名に心当たりが?」
 その言葉で、イングウェイの脳内で一枚のガラスが割れるような感覚があった。
 頭の中の霧が、少しだけ晴れる。

 ああ、そうだ、確か――。……サクラか。サクラ・チュルージョ。カタナを持ったアホな剣士だ。
 
 記憶は濁流のように流れ出す。強烈な既視感があった。

「そうだ、俺は5人の仲間と冒険をしていた。サクラ、マリア、レイチェル――」

 そこまでだった。イングウェイは再び割れるような頭痛に襲われ、意識は闇に落ちていく。
 必死でもがこうと、手を伸ばす。

「ちょっと、大丈夫ですかっ! ねえ、しっかりしなさいっ!」

 思わず駆け寄るチュルージョ。彼女はイングウェイの横にかがみ、背に手をやり、さすろうとした。

 そのとき。

 むにぃぃい。

 もがくイングウェイの手は、チュルージョの胸に偶然触れる。
 胸は柔らかく、やさしく彼の手を包み込んだ。熱量が、腕を通じて流れ込んでくる気がした。

「ひゃぁっっ!」
 慌てるチュルージョをよそに、イングウェイは意識を右手に集中した。頭痛が収まるのが分かった。あれだけうっとおしかったあの頭痛が。
 じくじくと傷口を焼いたナイフでえぐられる痛みはすっと引き、暖かさが胸を満たした。

「サクラ、君は、――サクラ・チュルージョかい?」

「その名を、どこで……」
 サクラ・チュルージョは驚き、イングウェイの瞳を深く覗き込んだ。
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