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第七章 製造と販売
ハヴ・ガン、ウィル・トラヴェル
しおりを挟むホームに帰ってきた俺たちは、ギルドへの報告に行く前に、皆を集めて相談することにした。
「ということで、ギルド・ミスフィッツは現在、トラブルに巻き込まれつつある。とりあえず普通なら冒険者ギルドに報告した後、依頼主へ会いに行くことになるが……」
「もし揉めたとき、どうするかってこと?」
「ああそうだ、商人ギルドはともかく、盗賊ギルドがここを襲撃してきたりする可能性があるかもな」
「ああ、そうなると、ボクは戦力外だから足手まといになるなあ。ごめんね」
「あら、それを言うならあたちもでちゅわ」
「二人とも、それは違うにゃん。たしかにみーやサクラと比べて、二人はケンカには弱いにゃん。でも、みーたちが安心して戦えるのは、二人のおかげ。ミスフィッツは全員でミスフィッツにゃん。それに、相手は誰で何人かもわからない。常に警戒し続けるのはみーたちだって無理だし、大勢で来られたら誰だって勝てないにゃん」
「じゃあ、どうすれば?」
「あら、決まってますですの。こういうときは単独行動は避け、必ず複数で行動するんですの」
防犯意識の高さは、さすが貴族の娘というべきか。サクラやレイチェルは、「なるほっどー」と呑気に感心している。
「説明してくれてありがとう、フィッツ」
俺は礼を言った。
こういう説明は、一人の人間がいつもしていると、どうしても他のメンバーの意識が薄くなってしまう。頭は理解しているつもりでも、気持ちはなかなかついてこないものだ。
フィッツはぷいと横を向き、「あいつらが人質に取られたらめんどくさいからだにゃん」とか言っていた。顔は赤い、照れているのはバレバレだ。
帰ってきてすぐにホーム自体に結界魔法をかけ、情報遮断は済ませている。認識阻害の類だ。存在感を薄くさせ、そこにいるのに気付かれにくくなる。
相手の魔術の腕次第だが、すぐにばれることはなかろう。
くわえて、サクラに頼んで保存できる食料品などを多めに買いこんである。本当はレイチェルに頼んでいたのだが、あいつが買ったのは自分のぶんのビールだけで、俺のウイスキーもマリアの焼酎も買ってくれなかった。文句を言ったら、「売り切れでちた」の一言だ。
ともかく、防御と酒を整え、ひとまず今できる限りの備えはした。
あとは依頼の件だ。
「ギルドには、わたくしとインギーで行きますわ」
キャスリーは、かちゃりとピースメーカーを胸に構えて言った。
「え、でも依頼受けたの私だよ?」
サクラのつぶやきに、キャスリーは答える。
「わかってますの。だからこそですわ。ダンジョンのことを知っているのは、インギーとサクラさんだけ。なら、仮に依頼主とトラブルになって何かあった時、誰が情報を引き継ぐんですの?」
「ああ、そっか」
「あとは、バランスの問題もありますの。わたくしたちの中で、前衛タイプはフィッツさんとサクラさんの二人。フィッツさんのみだと、買い出しに行くとき、ホームを守る人がいなくなりますわ」
「なるほど、そういうことか。わかった、任せるよ、キャスリー」
「任せられましたわ」
サクラは納得したようだ。
互いに信頼しあい、俺抜きでもミスフィッツは回っている。そのことが嬉しかった。
ギルドについた俺たちは、受付のアリサを通じ、簡単に報告を済ませる。
「ななん、なんと、あそこの盗賊たちを壊滅させたんですかーっ? すっご!」
「いや違う、行ったらすでに壊滅していたんだ。それで、吸血鬼が逃げ出している可能性が高いと」
「でも、そんな目撃証言ありませんけどねえ。考えすぎじゃないです?」
「いや、魅了系の呪文とかもあるだろう。人間社会に溶け込むのが奴らの得意技だぞ、ちゃんと上に報告しておいてくれ」
「はーい! それよりイングウェイさん、私の血も吸いませんかー? おいしいですよー」
さて、報告も終わったし、次は依頼主の商人のところだ。
メイドに連れられて入った執務室には、でっぷりと太ったメガネの中年男性。
「ようこそ。儂は商人ギルドをまとめておる、ジム・ローフという。盗賊ギルドの件はご苦労だったな。正直、こんなに早く解決するとは意外だったぞ」
ジムは葉巻を吸いながら嫌らしい笑いを浮かべる。
メガネをかけたメイドが、紅茶の入ったカップを持ってくる。
「ところで、そちらのお嬢さんはどこかで見たことがある気がするが――」
ぴくり、とキャスリーが動いた。胸元からピースメーカーを取り出し、ジムに突きつけようとする。が、俺は即座にその手を止める。
むにゅんとした感覚がした。
「キャスリー、大丈夫だ、ここは俺に任せろ」
「ふむ、名前はキャスリーというのか。もしかして、キャスリー・レノンフィールドか?」
「あなたに名乗る名など、持っておりませんことよ」
ジム・ローフめ、やはり貴族であるキャスリーの顔を知っていたのか。
「少し黙っていてくれないか、キャスリー。…あなたもだ、ローフさん。俺は仕事の話をしたいだけなのだが?」
ジム・ローフは傲慢な態度を崩さずに言う。
「ふん、ふざけるなよ。盗賊たちをゾンビにしたのはわかっている。誰がやったんだ? 後ろの金髪か、それとも他に仲間がいるのか?」
「はあ? なにをおっしゃるの、あんたたちでしょう、盗賊たちのアジトで吸血鬼を呼び出したのは」
ん? なんかおかしいな。
お互いの話が食い違っている。ジムはジムで、俺たちがギルドをつぶすために吸血鬼を呼び出したと思っているようだ。
このままではらちが明かんな。
じっと腕を組んでやり取りを聞いていた俺は、口を開く。
「吸血鬼は厄介な魔物だ。強さはもちろんだが、知性と人間たちに紛れ込むその能力が、特にだ。お前が疑うのも仕方ないが、俺たちがアジトを訪れた時、すでにそこはアンデッドの巣だった。本当だ。どうだ、こちらも情報を渡す。そちらはそちらで、吸血鬼のことを調査してもらえないか?」
「ふむ……」
ジムは、しばらく目を閉じて考える。そして。
「わかった、いいだろう。君の言うことを信用し、報酬は約束通り払おう。しかし、吸血鬼がこの街に紛れ込んでいるなら、なんとかしなければいけない。秘密裏に、迅速に、だ。協力してもらえるだろうね?」
仕方ない、乗り掛かった舟だ。俺は申し出を了承すると、ひとまず帰ることにした。
――キャスリーとイングウェイが商人ギルドを去った後、執務室の片づけをしつつ、メイドは主人に聞いた。
「よかったのですか、あのまま二人を帰しても」
「そう言われてもな、あいつを敵に回すのはやばい。これは、元冒険者としての勘なのだ」
「しかし、あの娘、そんなに強いようには見えませんでしたけど」
ふう、とジム・ローフはため息をつく。
「バカめ、そちらではなく、やばいのは男の方だ。あいつは腕を組んだまま、即座に動けるように魔力を高めていたぞ」
「そんな、まさか――」
「どんな強力な魔道具を持っていたのかは知らんが、あの鋭い魔力、一体何者だ? まさか奴らの末裔というわけでもなかろうに」
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