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第七章 製造と販売
シークレット・プレイス
しおりを挟む「どうしましょう、イングウェイさん。盗賊さんたちは壊滅してますし、お仕事完了ってことには……」
「ならないだろうな、たぶん。 依頼者がこの不死者の惨状を知っていて、依頼した可能性もある。例えば、盗賊の口封じとしてだ」
「ど、どうしましょう?」
やれやれ、面倒なことになった。俺たちに余計な火の粉が降りかからねばよいのだが。
「とりあえず奥に進んで、もう少し情報を集めるしかないだろうな」
「≪聖光≫!」
俺が唱えたのは、破邪の光で道を照らす呪文だ。アンデッドの活動力の源である黒マナと反発する、白き光。
敵を即座に浄化とはいかないが、動きは鈍るし狙われることも少なくなる。
「先に進むぞ、サクラ」
「はいっ!」
俺たちはてくてくと奥へ向かい、歩いていく。急いではいるが、焦って失敗するのが一番のバカだからだ。
そう、急ぐ時ほど、落ち着いて。
「右ヨシ!」
俺は現場時代に培った技術、指さし呼称を駆使して、複雑な迷宮を降りていく。
「すごいですね、その、右ヨシ!ってやつ。これをするだけで、どっちから来たか頭の中にするする入っていきます」
当然だ、それは数多の作業員たちの積み上げてきた、努力の結晶なのだ。
たまに襲ってくるゾンビたちを≪火球≫で掃除しつつ、さらに奥へ進む。いくつかの階段を降りたとき、急にあたりからゾンビたちの気配が消えた。
短い廊下の先には、明らかに雰囲気の違う、石造りの門があった。
「この先が、話に聞いていたダンジョンか」
「進みますか? イングウェイさん」
俺は少し考え、やめておくことにした。
盗賊たちが壊滅した原因は、おそらくこのダンジョンだろう。ダンジョンから何かが出てきたのだ。
となると、探すべきはダンジョンの中ではなく――
「この付近の階を重点的に捜索するぞ」
「わかりました!」
原因は拍子抜けするほどあっさりと見つかった。
その部屋は、少し大きめの部屋だった。元は何だったのかはわからないが、壁際に机や椅子が乱雑にどかされてあり、中心部に書かれているのは、魔法陣。
書かれていた文字は、血のように真っ赤だった。
サクラが隣で息を飲むのがわかった。少々刺激が強かったか。
警戒しつつ部屋の扉を閉める。錆びた蝶番が立てる、ぎいという音が、やけに大きく響いた。
「悪いがサクラ、扉の方を警戒していてくれ。調べる間、誰も入らないように」
サクラは無言でこくこくとうなずいた。
白桃のような着物を着たサクラは、暗闇の中でもよく見える。
これは……、召喚魔法陣か。多少違いはあるが、基礎理論は俺が知っているものと同じようだ。
ささげるのは、血と心臓、そして、麦。いや、麦を発酵させているな。
ふむ、それをさらに蒸留を続けている、なんだこの狂気にまみれた手順は。
そうしてできるのは、エタノールと呼ばれる化学薬品に近い。そして、とある真っ赤に熟れた果実。
これを混合してできるのは、
「ブラッディー・マリーか」
「ぶら、……なんです、それ」
「ウォッカという酒にトマトの果汁を混ぜた酒だ。ウォッカはアルコールそのものとも言える澄み切った味を持つ酒だが、トマトの果汁はその純粋さを邪魔しない。アルコール度数の微調整をすることで、強さに見合わぬ飲みやすさを持った酒に変わる。女性を酔わせるのに使われることもあるが、これを使うくらいなら素直に甘ったるい適当なカクテルを飲ませた方が心象も良いだろうな。サクラ、お前は弱いから特に気を付けておけ。ウォッカ自体は味のクセが少ない酒だが、逆にそれが苦手なやつもいる。俺は味自体は苦手ではないが、さほど好きではない。やはり酒は独特の香りがあって欲しいと思うからだ。しかし、香りが”無くてはならない”と自分で酒の道を狭めるのもよろしくはない。飲んでみて苦手なら強くはすすめないが、飲む前から嫌うのももったいないからな。じっくりと飲んでみれば、ほのかな麦の香りが感じられるはずだ。そのままがきつければ、多めの水で割るといい。そして、ゆっくりと飲むんだ。口の中に入れて深呼吸をするとわかるさ」
「はあ。 ええーと、じゃあこの魔法陣で呼び出されたのは……?」
「吸血鬼だろうな。盗賊たちはおそらく、自分たちの呼び出した吸血鬼に、全滅させられたのだ」
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