賢者、二度目の転生――女性しか魔術を使えない世界だと? ふん、隠しておけば問題なかろう。(作中に飲酒シーンが含まれます、ご注意ください)

鳴海 酒

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第七章 製造と販売

ザ・ディスインティグレイターズ

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 洗濯機の試作品を作り続ける、俺とマリア。
 トライ&エラーだ。失敗は悪いことではない。ダメだということがわかったぶん、前進しているのだから。

 とはいえ、俺は飽きた。開発の続きは、マリアに任せることにする。あくまで一時的な処置だ。
「休んで来ていいよ、インギーは他にもやることは多いんだし。ボクは一人でもう少しやってみるから」
 優しいマリアに甘えて、俺は工房を後にした。

 庭でサクラが素振りをしている。
 ぶんっ、ぶんっ。威勢の良い音が聞こえてくる。

 気まぐれから、声をかけてみる。
「サクラ、明日は俺と二人きりでダンジョンに潜らないか?」

 ぶんっ、ぶんっ、……ぴたり。
「え、二人きりで、ですか?」
 サクラはきょとんとした表情で俺を見る。

 桜色に染まった頬。荒くなった吐息。うっすら汗ばんだ体からは、いい匂いがしている。
「あの、ほーんとに、二人きり? レイチェルとかフィッツとか抜きで、私とイングウェイさんだけ?」
「そうだ、こないだはダイスのせいとはいえ、仲間外れにしてしまったからな。その埋め合わせだ」
「いく! いきます! 私、頑張りますよぉ!」

 と、そこに乱入してくるミリリッ太。
「旦那、旦那、あっしも行きやすぜ。お供します、モンスター退治ならお任せくだせえ!」
「えー、ダメだよミリリッ太。イングウェイさんが二人きりって言ってるんだから」
「旦那、大丈夫っす。あっしは元はスキットル、人としてはカウントされやせん! 依然二人きりですぜ!」

 次の瞬間、サクラは躊躇なくミリリッ太を蹴っ飛ばす。かっこーん、と良い音をさせて宙を舞うミリリッ太。
 彼はそのまま塀の向こうへと消えた。

「ミリリッ太は用事があるので行けないそうです。さあ、行きましょう。修行の成果、見せてあげますっ!」
 ここまで満面の笑顔を浮かべるサクラを、俺は見たことがなかった。



 俺たちはギルドで依頼書を眺める。ちょうどいい依頼、ちょうどいいダンジョンはないものか。

 ダンジョンと一口に言っても、難易度も扱いも様々だ。凶悪なモンスターが湧いて周辺住人に迷惑をかけるような、討伐されるべき対象から、適度なモンスターと素材が採れて資源として活用されているものまで。

 今回目を付けたのは、王城のすぐ近くにある地下迷宮。
 厳密に言うとダンジョン化しているのは深部であり、依頼はその手前部分に住む盗賊の討伐だ。

「依頼主は、商人ギルド。担当は、ジム・ローフか。……少し気になるな、気を付けておけ」
「はい! って、なんで気を付けるんです? 商人が盗賊に警戒するのって、普通のことじゃありませんか?」

 まあ、いたって普通の考えだし、それはそれで間違っちゃいない。
 だが、世の中というのはそう単純でもないのだ。

「確かに個の商人にとっては、そうだな。しかし商人ギルドとなると、すこし話が違う。盗賊と商人というのは、裏表の存在なのさ。盗賊は盗品を流す相手が必要だし、商人側もきれいごとだけで商売が成り立つわけではない。それに、お互い刺激し過ぎても、報復の連鎖が始まるだけだ。持ちつ持たれつ、浅く深く付き合ってるもんだ」

「ほー、さっすが、イングウェイさん」

「それが雑魚盗賊とはいえ、こうしておおっぴらに討伐を頼むとは。何か裏があるかもしれないと勘繰るのも、また普通のことだ」

「すごいですねー。よし、じゃあこの依頼にしましょう!

 ……おい、話を聞いていたか?

「だって私たちが受けないと、何も知らない冒険者が引き受けちゃうかもしれないでしょ? それで引き受けた人がケガとかしちゃったら、かわいそうじゃないですか」

 なるほど、そういう考えもあるのか。サクラめ、損する性格だが、そういうのは嫌いじゃないぞ。

 実はもうひとつ懸念があった。依頼主であるジム・ローフという人物について、俺は聞きおぼえがあった。
 受付のアリスに昔、注意されたことがあるのだ。こいつは裏でなにやっているかわからない、悪い噂の絶えないやつだから気を付けろ、と。

 もっとも、怪しいといっても、今の状態では推測に過ぎないのも確かだ。
 俺もサクラもそこらの盗賊に負けるような腕ではない。何かあってもなんとかなるだろう。
 俺たちはこの依頼を引き受けることにした。
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