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第七章 製造と販売

ぜんっぜんわかってないんですけど!

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「というわけだ、マリア。俺は反省しているので、サクラの機嫌を直す方法を教えてもらえないだろうか。俺としては、埋め合わせとして次回のダンジョン探索に連れていくのが一番だと思うのだが――」

 とてかん、とてかん、と軽快なドラムのビートが響く。
 今日も俺は、夜な夜な、マリアの鍛冶レベル上げに付き合っている。レイチェルは酔って寝てしまったため、二人きりだ。

「あのさー、イングウェイ、それって本気で言ってるの?」
「ん、どういうことだ?」

 マリアは手を止め、じっと俺の目を見て続けた。

「ほんっとーに、サクラが、ダンジョンに連れてってもらえなかったことを怒ってると思ってるの?」

「……違うのか?」

 はーあ、とこちらにまで聞こえる大きなため息をつき、マリアは立ち上がる。そばにあった白いワイシャツを手に取る。
 彼女が愛用している、男物の少し大きめのやつだ。

「着替えるから、少し後ろ向いててくれる?」

「ん? ああ、わかった」
 静かな工房に、さらさらと衣擦れの音が響く。
 次いで、とくとくと酒を注ぐような音。マリアが焼酎の水割りを布に染みこませ、細部を消毒しているのだろう。
 揺らめく炎が、壁にぼんやりとした影を映し出している。ほっそりとした体の線が見え、なんとなく気まずくなり目を逸らす。

「もういいよ、こっち向いても」

 マリアは、素肌の上から白いシャツを直に着ていた。
 そういえばこの世界ではブラは付けないのが普通だったな。マリアは魔力が少ないため、服のしわに隠れているのが幸いだ。
 それよりも、うっすら透けて見える縫い目が痛々しい。
 俺は優しくシャツの上から撫でてやる。回復呪文(ヒーリング)は不得意だが、何もしないよりはましだろう。

「インギー、そういうところだよ。『わかってない』っていうのは」
 マリアに珍しくインギーと呼ばれてしまった。しかし、何のことやら、俺はまだわからない。

 汗ばんだ体にシャツが張り付き、ぺっとりと素肌が透けていた。
「すまない、気遣いが足りなかったようだ」

 俺はマリアが使っていた芋焼酎を一口拝借した。芋臭さが苦手なものもいるが、この香りなくしては芋焼酎とは言えない。
 マリアのカップが空になっていることに気付き、少しだけ注いでやる。ゆっくり口を付けると、マリアは少しだけ震えた。

「寒いのか?」と俺が聞くと、マリアは「少しだけ」と答えた。
 夜だし、汗をかいたことで体を冷やしたのだろうか。さっきまでは火のそばだったからな。

 俺は≪温水ホット≫の魔法をマリアのカップに唱えた。

 湯気とともに立ち上るアルコールが、鼻と喉を優しく包んでいく。芋の香りはさらに奥深く広がり、一口飲むだけで熱が全身を回っていく。
 麦も米もそれぞれの良さがあるが、ことお湯割りとなると、芋は別格である。森の奥深くにある、澄んだ泉を思わせる芳香。疲れた心と体を優しく包み込んでいく。
 素晴らしき癒しの酒、芋焼酎。

「あったかいね」
「ああ、そうだな」

 そのまま、静かな時が流れていく。
 マリアが少しだけ身を寄せてきた。まだ少し寒いのだろう。薄手のシャツ越しに、ゾンビの控えめな体温が伝わってくる。
 肩を抱き寄せる。白い布がくしゃりと紙のように折れ曲がり、



 ――がたん、ばたっ、どたっ。
 突然扉の向こうでやかましい音がした。

「ふひー、いんぐうぇーさーん、いっしょねよー?」

 レイチェルか。お風呂上りらしく、ぽかぽかの体。しっとり濡れた黒髪。
 そして、可愛らしいしゃれこうべ模様のパジャマ。

「仕方ない、マリア、今日はここまでだ。俺はレイチェルを連れていくぞ」
「あ、うん、お休み……」

 レイチェルに近寄ると、彼女は首に手を回すようにしがみついてきた。
「むにゃむにゃ、いんぐうぇー、すきー」

 胸がきついせいで、彼女は大人用の少しぶかっとしたパジャマを愛用している。
 おいおい、袖から手が出ていないではないか。これではこけてしまうのも無理はない。
 どうせさっきも、ズボンの裾を踏んでこけたのだろう。

 俺はレイチェルを抱きかかえ、ベッドに連れて行った。
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