賢者、二度目の転生――女性しか魔術を使えない世界だと? ふん、隠しておけば問題なかろう。(作中に飲酒シーンが含まれます、ご注意ください)

鳴海 酒

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第六章 女神の洗濯

わかっているんですのよ

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 ダンジョンと普通の洞窟には、明確な区別がある。それは、『コア』の存在だ。

 この世界のギルドでは、魔石を核としてダンジョンが生まれるという説明を受けた。
 だが、それは事象の半分しか捉えていない。

 確かに高純度の魔力性物質は、周囲をゆっくりと汚染していく。汚染された物質はそれ自身も魔力線を出し始め、それが更に周囲を汚染し続ける。
 これがダンジョン化と呼ばれる現象だ。

 魔石や魔道具マジックアイテムなどは確かに『高純度の魔力性物質』の代表だが、人や魔物、植物なども核になりうる。
 生物がダンジョンコアになるには、相応の魔力量、強さに加え、長期間その場を離れないことなど、色々な条件が必要だ。
 非常に珍しいことではあるが、決して前例が無いわけではない。

 そしてその成り立ちから、生物をコアとしたダンジョンは、強力で攻略難易度も高いものが多い。

 暗く影のあるフィールドに包まれていたり、陰湿な悪い呪いを内包していたり。
 レイチェルを襲った記憶喪失アムネジアの呪いなどは、まさにそれに当てはまる。



 事情を説明すると、フィッツとキャスリーは深刻そうに顔を見合わせる。

「結局、解呪するには、ダンジョンコアをつぶしてダンジョンブレイクするしかないのかにゃん?」
「おそらく、それが一番早い。しかし――」
 俺は言葉に詰まった。

 この規模のダンジョンなどいくつもつぶしてきた。経験上、核となるモンスターの強さにも、ある程度見当はついている。
 二度の転生を経て魔力が落ちている俺でも、一対一で戦えば、まず問題なく勝てるだろう。

 しかし、皆を守りながら戦うとなると。

 迷っている俺を見て、我慢できずにキャスリーが言った。
「単刀直入に聞くわ、イングウェイ。わらわたちは、あなたの足手まといですの?」

 いや、そんなことはない。彼女らを安心させる言葉を吐くのは簡単だ。
 しかし、それでいいのか俺。

 気づくと、キャスリーのピースメーカーを持つ手が、かすかに震えていた。

「わかってるんですのよ、インギー。あなたがわらわたちの安全を一番に考えてくれているのは。でも、少し過保護過ぎじゃなくって? わらわたちは仲間であって、一方的に守られる関係じゃないんですのよ?」

 キャスリーのセリフに、フィッツも腕を組み、うんうんと頷いていた。

 ふっ、どうやら俺が間違っていたようだ。
 年下の女の子に教えられるとは、まったく、俺もまだまだだ。

「いいだろう。奥に進むぞ。だが、ボスは俺一人でやる。みんなはレイチェルを他のモンスターから守ってやってくれ」
「はい!」
「はいにゃー」

 さっきまでの張りつめていた空気は嘘のように消え、明るい声がダンジョンにこだました。

「行くぞ、レイチェル!」
 俺は隣で飲んでいるレイチェルに声をかける。

 レイチェルの記憶喪失アムネジアの呪いはさらに進んでいる。私たちの記憶や事情は失われているものの、死霊術ネクロマンシーは問題なく使えているようだ。
 この様子からすると、どうやら最近の記憶から順に失われているのだろう。

「あ、はいー、待ってください、ついていくからもう一本ビールくださーい。ひっく、うまー」

 ……やはり普段とあまり変わらない気がしてきた。
 ただ単に酔っているだけだという可能性も、いまだ捨てきれない。
 
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