賢者、二度目の転生――女性しか魔術を使えない世界だと? ふん、隠しておけば問題なかろう。(作中に飲酒シーンが含まれます、ご注意ください)

鳴海 酒

文字の大きさ
上 下
51 / 200
第六章 女神の洗濯

ショッピング・ロード

しおりを挟む

 宗教団体の潜入から抜け出した俺たちは、とりあえず商店街を歩いていた。
 ちょっと考えたくらいでどうなるわけでもない。帰って皆に相談してみよう。

 その前に、レイチェルの提案で商店街を歩きながら帰ることになった。たまには羽を伸ばしたいということだが、お前はいつも伸ばしっぱなしだろう。まあいいが。
 考えてみれば、レイチェルと二人きりというのは久しぶりだな。

「えへへ、イングウェイさん、私もインギーって呼んでもいいですかー?」
「好きにしろ」

 レイチェルはもたれかかるように腕を組んできた。足取りはしっかりしているようだが、まだ酔っているようだ。まったく、一人で歩けないほど飲むなと、いつも言っているのに。

 歩くうちに道は白く整備された石畳に代わり、王城がずいぶん近くに見える。
 食料品の並ぶ市場はよく見て回るけれど、よく考えたらこっちの通りは珍しい。
 通りには服やアクセサリといった類の店が並んでいる。アクセサリといっても魔力のこもったやつではなく、ただの純粋な装飾品だ。


「まるでデートみたいですねー」
 レイチェルはウキウキで、さらに腕に絡みついてくる。胸が当たって歩きにくいが、言わないでおこう。
 なにせ、女性に胸の話は禁句なのだ。デリケートな話題である。
 特にマリアあたりに魔力量の話なんて振った日には、夕食のスープの具に指がごろごろ入っているなんてことになりかねない。

「あ、インギーさん、あれ食べたいですー」
「ん。なんだこれ、焼き鳥か?」
 どうやら鳥のひき肉を丸めて、焼いたものらしい。大きな串に、肉団子が三つほどついている。
「あ、カップルサービスがあるそうです、一つ肉団子プラスですって!」

 ふむ、買ってみるか。

「へい旦那、べっぴんな嫁さん連れてるねえ。ちょっと待ってな、すぐ作るぜ」

 渡された串には、確かに団子が四つついていた。ついてはいたのだが……

「ぐびり。うん、ぬるいビールはまずいですねー。まあ飲みますけど。 さて、これ、どうやって食べたらいいんでしょう……」
「うーむ、困ったな。 ぐびり。焼き鳥にはビールだと昔先輩に言われたのだが、やはり文化が違えば勝手も違うな」

 紙袋で渡されたので気付かなかったが、四つの団子は串全体を覆い隠すように連なっており、持ち手もない。

「そうだ、こうすればいいんですよ!」
 レイチェルはぱんと手を叩き、おもむろに団子にかぶりつく。そして少し行儀が悪いが、俺の方に団子を突き出してきた。

「あ、なるほど」
 俺は逆側から団子をもぐもぐと食べていく。
 レイチェルと目が合い、少し気まずい。顔が赤いのはきっとアルコールのせいだろう。

 もぐもぐと食べ進めるうち、俺たちは二つ目の団子に入る。
 二人の顔がさらに近づく。


「あー、あのおにーちゃんとおねーちゃん、ちゅーしようとしてるー!」

 ごほ、むぐ、げほっ、ぐはっ。

 唐突に幼女の声がして、驚いた俺たちは串で喉を突きかける。

「こら、アヤ、しーっ! 青春のじゃましちゃいけません!」
 お母さんが幼女を手を引いて、小走りで去っていく。

 ふと見回すと、幾人かがぱっとごまかすように不自然に目をそらす。
 いかん、ムダに注目されてしまっていたようだ。


「……いんぎーさん、帰りましょっか」
「ああ、そうだな」

 俺たちは小走りでその場を後にする。二人の手は、いつの間にかしっかりと握られていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――

金斬 児狐
ファンタジー
 ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。  しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。  しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。  ◆ ◆ ◆  今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。  あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。  不定期更新、更新遅進です。  話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。    ※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

おっさんの異世界建国記

なつめ猫
ファンタジー
中年冒険者エイジは、10年間異世界で暮らしていたが、仲間に裏切られ怪我をしてしまい膝の故障により、パーティを追放されてしまう。さらに冒険者ギルドから任された辺境開拓も依頼内容とは違っていたのであった。現地で、何気なく保護した獣人の美少女と幼女から頼られたエイジは、村を作り発展させていく。

処理中です...