賢者、二度目の転生――女性しか魔術を使えない世界だと? ふん、隠しておけば問題なかろう。(作中に飲酒シーンが含まれます、ご注意ください)

鳴海 酒

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第三章 王都炎上

復興、アサルセニア

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 こうして、マリア・ラーズは、無事ゾンビになって復活した。
 平和な日常が戻ってきたわけだが、当然長くは続かない。魔族の脅威は残っているのだ。

 冒険者ギルドも再編が進み、モンスター退治やダンジョンの調査依頼などが急増したらしい。
 俺たちのような戦闘特化型のパーティーには美味しいことだが、さすがに危険な依頼が増え過ぎて、新米冒険者たちの死亡率も急増していると聞いた。
 実際俺たちも、新米冒険者の護衛依頼などを引き受けたりもしている。

 うちで一番忙しくなったのは、レイチェルだろう。
 ケガ人の治療に、ポーションの作成。加えて、マリアの体のメンテナンス。

「ゾンビの体は、魔力で定期的に浄化してやらないと腐りやすいんですよ」
「なるほど、新陳代謝が滞るせいか」
「え? ちんちんでんしゃ?」
「新陳代謝、だ。身体のさいぼう…身体を作る部品が、どんどん入れ替わっていくことだな。マリアは死んでいるから、古い部品がそのまま残り、腐っていくんだろう」

 ん? 気付けばマリアが、ドン引きという表情で俺を見ている。
 なんか変なこと言ったか、俺?

「なっ、なんでそんなこと知ってるんですか、イングウェイさんっ!? それ、死霊術師ネクロマンサー業界でしか知らないよーな極秘情報なんですっ、企業秘密ってやつですよ!?」

 なんだその縁起が悪そうな業界は。

「そんなこと言われてもな、常識だろう。少なくとも前に住んでいた国では、当たり前のように子供でも知っていた」

「はぁ、もういいです。イングウェイさんと話していると、自信がなくなっちゃいます」
 レイチェルはため息をつきながら、マリアの体に魔力を流している。
 柔らかな聖なる光が、ゆっくりとマリアの体を循環していった。

「ねえ、ボクも一応エルフだし、聖属性の魔力も組めるんだけどさ。自分じゃできないの?」
 治療を受けていたマリアが、不思議そうにレイチェルに聞いた。
 確かにもっともな疑問だ。そもそも定期的な治療が必要だということは、レイチェルがいなくなったらマリアの命まで危ないということになる。それはまずい。

 しかし、レイチェルは首を横に振って言う。
「ムリね。魔力量の問題じゃなくて、魔力で浄化する場所の問題だもの。体の隅々まで行きわたらせないといけないし、そのためにはやっぱり医術の知識がいるわ」

 腐る、そして隅々まで……?

「レイチェル、ようするに腐らないようにすればいいんだよな」
「え? ええ、そうですけど」

 俺は魔導冷蔵庫からビールを取り出す。あの混乱でも盗まれず壊れなかった、幸運のアイテムだ。

「これを飲んだらどうだ?」

 マリアとレイチェルは意味がわからず、顔を見合わせた。
 あ、もしかして。俺は聞いてみた。

「なあ、なんで物って腐ると思う?」

 マリアがすぐに答える。
「そんなの、闇属性の魔力が自然発生して、生命の元の聖魔力を食べちゃうからでしょ? 子供でも知ってるよ」
 隣のレイチェルも、うんうんと頷いている。

 やはりそうか。それは、間違った知識だ。

 俺は優しく彼女らに教えてやる。
「いいか、物が腐るのは、空気中にいる小さな生き物が、食べ物をエネルギーにして毒素を発するからだ。じゃあ、腐らないためには、どうするか。その小さな生き物を殺すとか、寄せ付けなければいい。そして、奴らはアルコールに弱い。俺の前にいた国では、病気の予防などにも使われていた」

「えっと、つまり?」

 俺はテーブルにグラスを置く。こん、と軽快な音。
 ビールの瓶を開け、とくとくとついでいく。かきむしるようなしゃーしゃーという音は、炭酸ガスのせいではない。早く飲ませて欲しいと心がきしんでいる音だ。

「酒を常時愛飲していれば、問題なかろう」

「すごい! 過去の死霊術師ネクロマンサーたちが長年考え抜いてもわからなかった疑問の答えを、こんなにあっさりと。天才の発想だわ」
「すごいよ、これならボク一人でもできるし、簡単だ! お酒がない世界なんてないから、旅にだって出られる!」

 おい、あんまり浮かれるな。前例がないことをするのなら、慎重にやらなければ。

「今日はこれしかないが、明日からは米焼酎を飲むと良いだろう」
「え、それはなんで?」

「まず第一に、ビールよりもアルコール度数が高いからな。より腐りにくくなるはずだ。そして安価なこと。温めても常温でもいけるから、寒かったり旅に出た時も飲みやすい。あとは、ウイスキーは色がついているものが多いからな。縫い目を消毒するときは、無色の焼酎の方が見た目にもいいだろう? 米を使うのは、その――」
 女性だからな。匂いにクセがある芋よりは、万人受けする米が良いだろう。俺はどんな匂いだろうが、気にしないのだが。
 最後の一言はなんとなく気まずくて、飲み込んでしまった。

 気付くと、マリアは両目に涙をためていた。
「ありがとう、イングウェイさん。本当に、何から何まで……」

 やれやれ、泣き虫キャラがもう一人増えてしまったな。
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