賢者、二度目の転生――女性しか魔術を使えない世界だと? ふん、隠しておけば問題なかろう。(作中に飲酒シーンが含まれます、ご注意ください)

鳴海 酒

文字の大きさ
上 下
12 / 200
第二章 ギルメン募集、部屋なら空いてます

こんにちは、ブラックスミス

しおりを挟む

「おいてめえ、いい度胸してんじゃねえか。こんなナマクラ売り付けるなんてよう!」
「ナマクラだって? お前こそ、腕のなさをボクのせいにするんじゃないよ! どうせ無理な使い方をしたからぽっきり折れたんだろ?」

 道の真ん中で、青い髪のエルフと大柄の男が、何やら言い争いをしている。
 男は筋骨隆々とした大男で、装備品から見るに冒険者のようだ。

 男は荒い声で怒鳴った。
「なんだとこいつ――」
「きゃっ」
 振り上げられた拳を見て、俺は思わず手を出してしまう。
 がっしりした筋肉のついた腕を、横から抑える。
 固く引き締まった腕から、男がずいぶんと鍛えているのがわかった。カッとしやすいのはよくないがな。

「横からすまない、関係ないのはわかっているのだが。女の子が殴られるのを、だまって見ているわけにもいかなくてね」
「ちっ、関係ないなら下がってろ」
 男は腕を振りほどくと、若干バツの悪そうな顔を浮かべ、こちらを舐めまわすように見る。
 心中はともかく、話を聞くくらいの冷静さはあるようだ。やはり、ただの乱暴ものというわけではないようだ。

 レイチェルはあわあわと慌てていたが、無視して俺は仲裁に乗り出す。

「俺でよければ話を聞くぞ。一体どうしたんだ、まったく。事情を話してみろ」
「仕方ねえな。こないだ俺がこの店で剣を買ったんだが、これがまた押しても引いても全然切れねえのよ。それどころか、普通に使ってただけでぽっきりと真ん中から折れちまいやがってさ。完全に不良品だ」
「ふむ、腕が悪いのか」
「仲裁に出てきてケンカ打ってんのか、てめえは!?」
 まったく言いがかりも甚だしい。前世でまったくちっとも魔力のこもっていない包丁を使っていた身としては、刃がついていて切れぬというのは、甘えにしか聞こえなかった。

「しかし、刃はしっかりついているぞ。これで文句を言っても、言いがかりとしか思えんな」
「言いがかりじゃねえよ。いいか、売る前のデモンストレーションで、この姉ちゃんはすぱっと丸太を真っ二つに切ったんだぜ? この細腕でよう」

 俺は、青い髪のエルフと、男の太い腕を見比べる。
「魔力じゃないのか? 筋力アップだとか、あとは剣自体に魔力を通すとか」
「バカ言うな。その胸でか?」
 男の鋭い指摘。俺はエルフの胸を見返した。――かわいそうに。いくら魔力操作に長けていても、その胸ではたしかに焼け石に水だろう。
 口には出さなかったが、俺の憐れむような視線で、エルフの女は何かを察したようだ。
「っっふざけんな、お前までーっ! バカにしやがって、こいつーっ!」
 ばたばたしながら抗議するエルフ。おい、落ち着け。お前はまだ、成長途中かもしれないじゃないか。
 暴れるエルフ、まあまあとなだめるレイチェル。一度は落ち着きかけたエルフだったが、レイチェルの胸を見て、なぜか余計にエキサイトしてきたようだ。

「おい、お前ら」
 話に割り込んでくる男。俺は男の前に立ち、ゆっくりと彼の腕に手をかけた。
「まあまあ。とにかく、ここは抑えてくれないか?」
 こいつは見た目ほど弱くもバカでもない。これで察してくれるだろう。

「……っ!!」

 男はびくっとして握られた腕を引っ込めると、「お、おう」と力なく頷き、そのままおとなしく去っていった。

「え? あれ? ちょっとお兄さん、なんであの人、いきなり帰ってっちゃったのよ!?」
 俺は武器屋の娘に言った。
「お前な、あの男は言うほど弱くないぞ。あれで俺との力量差を察したなら、そこそこ強い方だろ」
 意味も分からず首をかしげる、女二人。
 俺がしたことは、単純だ。一瞬だけ力を逆方向にかけ、男の関節を外しかけたのだ。
 別にケンカをしたいわけではないので、寸止めだが。
「まあいい、俺はイングウェイ・リヒテンシュタイン。お前の名は?」
「ボクは、マリア・ラーズ。職業は鍛冶屋ブラックスミスだ」
 鍛冶屋だって? 俺はマリアの尖った耳を見て驚いた。
「お前、エルフじゃないのか?」
「なんだよ、エルフが鍛冶屋をしちゃ悪いっての?」
「いや、そういう意味じゃないのだが」

 普通なら、鍛冶はドワーフ、魔法はエルフと相場が決まっているもんだ。
 鍛冶屋を職業にするエルフもいないことはなかろうが、珍しいのは間違いない。
 ちなみにスミスとは、鍛冶屋全般のことを指す。
 ソードスミスやガンスミスなど、作るものによってわけられることもあるが、扱う金属によって区別する場合もある。例えば、ゴールドスミス、シルバースミスといったように。
 ブラックスミスは主に鉄を扱う鍛冶屋であり、武器や防具を扱う。この世界で、冒険者と一番近い関係にある職業の一つだ。

「助けてくれてありがとう。とりあえず礼は言っとくよ」
 うむ。お礼をきちんと言えるのは、とてもいいことだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――

金斬 児狐
ファンタジー
 ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。  しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。  しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。  ◆ ◆ ◆  今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。  あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。  不定期更新、更新遅進です。  話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。    ※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。

おっさんの異世界建国記

なつめ猫
ファンタジー
中年冒険者エイジは、10年間異世界で暮らしていたが、仲間に裏切られ怪我をしてしまい膝の故障により、パーティを追放されてしまう。さらに冒険者ギルドから任された辺境開拓も依頼内容とは違っていたのであった。現地で、何気なく保護した獣人の美少女と幼女から頼られたエイジは、村を作り発展させていく。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 ***************************** ***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。*** ***************************** マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。

みみっく
ファンタジー
どうやら事故で死んでしまって、転生をしたらしい……仕事を頑張り、人間関係も上手くやっていたのにあっけなく死んでしまうなら……だったら、のんびりスローライフで過ごしたい! だけど現状は、幼馴染に巻き込まれて冒険者になる流れになってしまっている……

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

処理中です...