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第二章 ギルメン募集、部屋なら空いてます
平穏の代償
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こうして、俺たちは三人でパーティーを組むことになった。
かたかたかたっ、くけくけくけっ。
ん?
音がしたので振り向いたら、レイチェルのお父さんがカタカタと動いていた。
きっと、娘のことが心配なのだろう。任せておけ、悪いようにはせん。
「さて、じゃパーティーもできたということで、まずは決めることを決めちゃいましょうか」
発言したのはレイチェルだ。パーティーができたら最初にすることは決まっている、リーダーの選出だ。俺の中ではすでに決まっている。
「ああそうだな、俺はレイチェルで良いと思うぞ。この国のことにも魔法のことにも詳しいし」
「え? 何言ってるんですか、イングウェイさんのことですよ」
なんだと?
俺は意味がわからず聞き返した。ははあ、となるとパート決めか。しかし困った、俺は楽器はうまくはない。この世界に疎いぽっと出がいきなりボーカルというのも、バンド内に亀裂が走る。
俺は瞬時に考え、無難な答えを導きだした。
「ミハルスならなんとかなると思う、幼少期に使った経験があるからな」
「イングウェイさん、ミハルスってなんですか? っていうか、なんの話をしているんでしょうか」
「知らないのか? カスタネットとよく混同される楽器だ。……すまん、今君たちはなんの話をしている? リーダー決めの話し合いではなかったのか?」
サクラが横から口を出す。
「リーダーはイングウェイさんに決まってるじゃないですか。強いし、かっこいいし、強いし!」
「私も同感です。洞察力もあるし、任せて問題ないと思います。っていうか、私はそういうの向いてないですから。だいたい知識なんて、わからないときには知っている人に聞けばいいだけなのですよ」
どうやらリーダーは俺らしい。二人の中では最初から決まっていたようだ。
やれやれ、あんまり目立ちたくはないのだが。
「わかったよ、引き受ける。だが、他に何を決めるというんだ?」
レイチェルはぐっと俺の顔を覗き込む。
黒髪が俺の顔にかかるほど近い。そして酒臭い。
深い谷間が見えるが、気にしている様子はなかった。冒険者は俺のような高潔な男ばかりではない。あまり他の男に隙を見せなければいいのだが。
そんなことを考えていると、レイチェルは指をぴっと立て、一言。
「もちろん、イングウェイさんの魔法を、どうやって隠すのか、です」
そうか、知らなかった。そんな面倒なことが残っていたとは。
「どっちか選んでください。男として魔法を使えない人間を装うか、それとも魔法が使える女として装うか」
女として、だって?
俺は自分の顔を頭の中で思い浮かべた。確かに、前の世界の基準でいうと、そこそこの美形な気もする。
童顔で子供みたいな顔だなーとは思っていたが、そもそも戦いに顔なんか関係ないので、気にもしていなかった。
しかし。
「……おい、もっとましな選択肢をよこせ。だいたい俺に女装なんてできるわけないだろう。おいサクラ、お前も何とか言え」
「えー、そんなことないと思うけどなー。イングウェイさんって、めっちゃ美形だし、ちょっとこうして――」
しれっと裏切るサクラ。
どこから取り出したのか、櫛で俺の髪をちゃちゃっと整え、リボンでまとめる。
レイチェルまで奥から服を持ってきて、ノリノリだ。「ちょっとだけ、先っちょだけだから」っとか言って、俺に着せてきた。
「ほら、出来ました! 美人さんですよー」
鏡を見ると、そこには確かに女性に見える俺がいた。
しかし目つきはきついし、背も女としては高いほうだ。
「おい、レイチェル。やっぱりムチャだろ。――っておい?」
レイチェルはぽけーっと呆けた表情で、俺の顔を見ていた。
「……はっ、はいっ! すみません、思わず、そのー」
どうやら女装姿は失敗だったようだな。あきれて言葉も出ないだなんて、よっぽど似合わなかったのだろう。
少しはいけてるんじゃないかと思ってしまった俺が恥ずかしい。
俺は、がっくりと肩を落として言った。
「やっぱりぶさいくでひどい顔だったんだろ? だからムチャだろと言ったんだ。しかし、そこまで呆れた顔をされると、さすがに俺もへこむぞ」
「あ、いえ、そんなんじゃっ! その、……ごにょごにょ」
頼むからそんなに顔を真っ赤にしないで欲しい。そこまで必死でフォローされると、逆につらいだけだ。
「いいさ、俺は男の姿のままでいく。他の冒険者に魔法がバレるようなヘマはしないから、心配するな」
もともと戦闘魔術師として、近接戦闘もある程度はこなしてきた身だ。自由に魔法が使えないことくらい、平穏な生活の代償と思えば、たいしたことはない。
それに、そもそも前世である日本では、ろくに魔法を使っていなかったのだから。
「えー、かっこいいお姉さんって感じで、良かったのになあ」
サクラがフォローしてくれるけれど、こいつはひいき目があるからなあ。
俺はなんとも言えない微妙な空気の中、レイチェルに上着を返す。
レイチェルはぽーっとした顔で上着に顔を埋めると、深呼吸していた。
じゅるり、とよだれをすする音も。
……大丈夫か、こいつ。
赤い顔の死霊術師を見て、俺はため息をついた。
かたかたかたっ、くけくけくけっ。
ん?
音がしたので振り向いたら、レイチェルのお父さんがカタカタと動いていた。
きっと、娘のことが心配なのだろう。任せておけ、悪いようにはせん。
「さて、じゃパーティーもできたということで、まずは決めることを決めちゃいましょうか」
発言したのはレイチェルだ。パーティーができたら最初にすることは決まっている、リーダーの選出だ。俺の中ではすでに決まっている。
「ああそうだな、俺はレイチェルで良いと思うぞ。この国のことにも魔法のことにも詳しいし」
「え? 何言ってるんですか、イングウェイさんのことですよ」
なんだと?
俺は意味がわからず聞き返した。ははあ、となるとパート決めか。しかし困った、俺は楽器はうまくはない。この世界に疎いぽっと出がいきなりボーカルというのも、バンド内に亀裂が走る。
俺は瞬時に考え、無難な答えを導きだした。
「ミハルスならなんとかなると思う、幼少期に使った経験があるからな」
「イングウェイさん、ミハルスってなんですか? っていうか、なんの話をしているんでしょうか」
「知らないのか? カスタネットとよく混同される楽器だ。……すまん、今君たちはなんの話をしている? リーダー決めの話し合いではなかったのか?」
サクラが横から口を出す。
「リーダーはイングウェイさんに決まってるじゃないですか。強いし、かっこいいし、強いし!」
「私も同感です。洞察力もあるし、任せて問題ないと思います。っていうか、私はそういうの向いてないですから。だいたい知識なんて、わからないときには知っている人に聞けばいいだけなのですよ」
どうやらリーダーは俺らしい。二人の中では最初から決まっていたようだ。
やれやれ、あんまり目立ちたくはないのだが。
「わかったよ、引き受ける。だが、他に何を決めるというんだ?」
レイチェルはぐっと俺の顔を覗き込む。
黒髪が俺の顔にかかるほど近い。そして酒臭い。
深い谷間が見えるが、気にしている様子はなかった。冒険者は俺のような高潔な男ばかりではない。あまり他の男に隙を見せなければいいのだが。
そんなことを考えていると、レイチェルは指をぴっと立て、一言。
「もちろん、イングウェイさんの魔法を、どうやって隠すのか、です」
そうか、知らなかった。そんな面倒なことが残っていたとは。
「どっちか選んでください。男として魔法を使えない人間を装うか、それとも魔法が使える女として装うか」
女として、だって?
俺は自分の顔を頭の中で思い浮かべた。確かに、前の世界の基準でいうと、そこそこの美形な気もする。
童顔で子供みたいな顔だなーとは思っていたが、そもそも戦いに顔なんか関係ないので、気にもしていなかった。
しかし。
「……おい、もっとましな選択肢をよこせ。だいたい俺に女装なんてできるわけないだろう。おいサクラ、お前も何とか言え」
「えー、そんなことないと思うけどなー。イングウェイさんって、めっちゃ美形だし、ちょっとこうして――」
しれっと裏切るサクラ。
どこから取り出したのか、櫛で俺の髪をちゃちゃっと整え、リボンでまとめる。
レイチェルまで奥から服を持ってきて、ノリノリだ。「ちょっとだけ、先っちょだけだから」っとか言って、俺に着せてきた。
「ほら、出来ました! 美人さんですよー」
鏡を見ると、そこには確かに女性に見える俺がいた。
しかし目つきはきついし、背も女としては高いほうだ。
「おい、レイチェル。やっぱりムチャだろ。――っておい?」
レイチェルはぽけーっと呆けた表情で、俺の顔を見ていた。
「……はっ、はいっ! すみません、思わず、そのー」
どうやら女装姿は失敗だったようだな。あきれて言葉も出ないだなんて、よっぽど似合わなかったのだろう。
少しはいけてるんじゃないかと思ってしまった俺が恥ずかしい。
俺は、がっくりと肩を落として言った。
「やっぱりぶさいくでひどい顔だったんだろ? だからムチャだろと言ったんだ。しかし、そこまで呆れた顔をされると、さすがに俺もへこむぞ」
「あ、いえ、そんなんじゃっ! その、……ごにょごにょ」
頼むからそんなに顔を真っ赤にしないで欲しい。そこまで必死でフォローされると、逆につらいだけだ。
「いいさ、俺は男の姿のままでいく。他の冒険者に魔法がバレるようなヘマはしないから、心配するな」
もともと戦闘魔術師として、近接戦闘もある程度はこなしてきた身だ。自由に魔法が使えないことくらい、平穏な生活の代償と思えば、たいしたことはない。
それに、そもそも前世である日本では、ろくに魔法を使っていなかったのだから。
「えー、かっこいいお姉さんって感じで、良かったのになあ」
サクラがフォローしてくれるけれど、こいつはひいき目があるからなあ。
俺はなんとも言えない微妙な空気の中、レイチェルに上着を返す。
レイチェルはぽーっとした顔で上着に顔を埋めると、深呼吸していた。
じゅるり、とよだれをすする音も。
……大丈夫か、こいつ。
赤い顔の死霊術師を見て、俺はため息をついた。
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