9 / 200
第二章 ギルメン募集、部屋なら空いてます
ザ・ネクロマンシング
しおりを挟むレイチェルの慌てようはただ事ではなかったが、この世界の魔法事情に疎い俺には、いまいちそのヤバさがわからない。
俺はサクラに聞く。
「なあ、男が魔法を使うって、そんなにおかしいことなのか?」
サクラはむーんと難しい顔で考えていたが、すぐにあきらめ、桜色の髪をぽりぽりとかきながらあっけらかんと答えた。
「わっかんないですねー、私のところはそもそも魔術師自体がほとんどいませんでしたから」
あー、そういえばそうだった。聞く相手が間違っていたか。
「魔法を使える男がいないわけじゃありません。ご存じの通り、魔力自体は生き物なら誰だって持っていますし。ただ、”本格的な”魔法を行使できる魔術師となると――」
「やはり、珍しいか」
「珍しいなんてもんじゃないですよ。ってゆーか、それが問題なんですっ! いいですか、女性並みに魔法を使える男性は、伝説に語られる魔王と、その眷属くらいだと言われているんです!」
ああ、なるほど。ようやく合点がいった。つまり男が魔法を使った時点で、人類の敵と見なされてしまうわけか。
ん? そういえば。
「レイチェルとか言ったな。そこまで魔法に詳しいお前が、なぜ俺のことを怖がらない? 魔族かもしれないだとか、考えないのか?」
「だって、サクラさんといっしょにいるじゃないですか」
即答だった。
どういうことだ?
やっぱり意味がわからない。俺がよっぽど変な顔をしていたのか、レイチェルはため息をつくと、優しい声で説明をしてくれた。
「あなたが良い人だってことくらい、よーくわかりますよ。サクラさんがそんなに心を許せる男性なんて、今までいなかったんですから」
ああなるほど、そういうことか。
しかし気持ちは嬉しいけれど、その考えは危険だ。世の中、そんなに甘い奴らばかりじゃないのだから。
「ありがたいが、そんなに簡単に初対面の男を信用するもんじゃないぞ。俺がサクラを洗脳したり魔法で操っている可能性も考えろ」
すると、レイチェルは言った。
「ほら、やっぱりいい人だ。本当に悪い人なら、そんなこと自分で言いませんよ」
「いや、しかしちょろすぎ――」
優しく微笑むレイチェルを見て、俺は言いかけた言葉を飲み込んだ。
レイチェルが≪回復呪文≫をかけると、青白い光とともに、うずいていたわずかな痛みがすっと引いていく。
やはりプロは違うな。
とはいえ、気になることもある。
「今の魔法の腕を見る限り、レイチェルは腕がいい回復術師だと俺は感じたのだが。その、言いにくいのだが、なぜこんなさびれた病院にいるんだ?」
レイチェルはぶすっとむくれて答えた。
「さびれててすみませんね。これでもここ、私の実家なんですけどー。……まあいいか。イングウェイさん、私の職業、なんだと思います?」
「医者じゃないのか?」
「職業としては、そうです。ただし、クラスは違います。……こういうことですよ。――おとーさーん!」
ガラリ、と音がして、家の奥から出てきたのは一体の骸骨だった。
「なっ!?」
急に出てきたモンスターに身構える。が、よく見ると殺気はない。
武器も持たず、カタカタと音をたてながら律義にお辞儀をしてくる。
「えへへー、実は私、回復魔法の才能がとがり過ぎててですねー。クラスとしては、死霊術師なんですよ」
「なるほど。しかし……俺の生まれた国では、死霊術は禁術だった」
俺は微妙な顔をしていたことだろう。
レイチェルは寂しそうに言った。
「このアサルセニアだって、そうですよ。表向きは三流の回復術師。私が死霊術師であることを知っているのは、サクラさんと、あとは数名の親戚くらいのものです」
「良かったのか、俺にそんな大切な秘密を話しても」
「ええ、大丈夫。言ったでしょ、サクラさんが連れてきた人なら、信用します。それに、私だけ秘密を隠しておくのも、フェアじゃないかなって」
なるほど、彼女が実力を隠し、こんなところで貧乏ぐらしをしている理由が少しだけわかった気がした。
「レイチェル、君もうちのパーティーに入らないか?」
「え?」
「君は魔法に詳しそうだし、きっと力になってくれると思のだが」
おお、名案! と後ろでサクラも同意していた。
「冒険者になれ、ってことですか?」
俺とサクラは頷いた。
「無理強いはしないがな。死霊術師というのを隠していたせいで、今までパーティーを組めなかったんじゃないか? 俺たちなら、そのあたりをうまく隠しつつやっていけると思うんだが。もちろん、君が良ければだ。冒険者なんて、ろくでもない職業だからな」
俺は前々世のことを思い返す。そうだ、冒険者なんて好き好んでやるやつらは、みんなろくでなしだ。
ろくでなしだが、だが、いいやつばかりだった。
もしレイチェルが細々とこの治療院をやっていくつもりなら、それでいい。ただ、彼女にもしも夢があるなら、それを助けてやりたい。そう感じたのだ。
「私の気持ちなんか全然話していないのに、あっさりとバレちゃったみたいですね。……あの、私でお役に立てるかどうかわかりませんが、よろしくお願いします」
その瞳はまっすぐに未来を見据えていた。
俺は、右手を差し出す。
「よろしく、レイチェル・ヘイムドッター」
「ええ、イングウェイ。こちらこそ」
1
お気に入りに追加
92
あなたにおすすめの小説
Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――
金斬 児狐
ファンタジー
ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。
しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。
しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。
◆ ◆ ◆
今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。
あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。
不定期更新、更新遅進です。
話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。
※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。
1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!
マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。
今後ともよろしくお願いいたします!
トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕!
タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。
男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】
そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】
アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です!
コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】
*****************************
***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。***
*****************************
マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。
見てください。
おっさんの異世界建国記
なつめ猫
ファンタジー
中年冒険者エイジは、10年間異世界で暮らしていたが、仲間に裏切られ怪我をしてしまい膝の故障により、パーティを追放されてしまう。さらに冒険者ギルドから任された辺境開拓も依頼内容とは違っていたのであった。現地で、何気なく保護した獣人の美少女と幼女から頼られたエイジは、村を作り発展させていく。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。
転生をしたら異世界だったので、のんびりスローライフで過ごしたい。
みみっく
ファンタジー
どうやら事故で死んでしまって、転生をしたらしい……仕事を頑張り、人間関係も上手くやっていたのにあっけなく死んでしまうなら……だったら、のんびりスローライフで過ごしたい!
だけど現状は、幼馴染に巻き込まれて冒険者になる流れになってしまっている……
2回目の人生は異世界で
黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる