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あなたは私の大切な思い出でした ⑥ <完結>
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店を出ると付近は閑静な夜に包まれていた。行き来する車の音が心地よく響く。冷えた空気。点灯する信号機だけが道しるべになっている。
三上はかなりのぼせた様子で道に座り込んだ。手を差し伸べると、大丈夫だと右手で制した。
近くの自販機で水を買って三上に差し出した。ありがとうと受け取ると、ゆっくりと口に運んだ。
「奥さんのためにもう会わない方が良いだろう」
遠くを眺めて三上が話す。口調が学生時代に戻っていた事に気付いた。
「今日は会えて良かったよ。自分のためにもな」
その時は適切な返事も浮かばず無言で聞いていた。
「私と会う事は話してきたのか?」と三上は尋ねる。相変わらず視線は合わせず遠くを見つめたままだ。
うーん、と頭をかいて答えた。
「大事な人に会ってくるよって伝えてあるよ。昔、好きだった人なんだよって」
だから日付が変わる前に帰らないとなんだけどな。照れ隠しにそう付け加えた。
「ああ、そうなんだ」
三上は少し意地悪そうな笑顔でこちらを見てた。それから、何か言いたそうにそわそわしてたが、結局うまく頭でまとまらなかったようで力いっぱい背中を叩かれた。
三上は少し歩いて距離と取ると、
「私も言っておきたい事がある」と振り返った。
別れ際のかしこまった三上の姿。多分、ずっと忘れないだろう。背筋を伸ばし、正面で手を重ね、軽い会釈をした。
「登田に会えて私、良かった。高校生活の事だけじゃない。私の人生の中でも、きっと大切な思い出になりました」
そう言って手を緩め、最高の笑顔を見せてくれた。その声は、いつかを思い出させるような、少しだけ涙声の入った優しい声だった。
「ありがとう」って。
三上はかなりのぼせた様子で道に座り込んだ。手を差し伸べると、大丈夫だと右手で制した。
近くの自販機で水を買って三上に差し出した。ありがとうと受け取ると、ゆっくりと口に運んだ。
「奥さんのためにもう会わない方が良いだろう」
遠くを眺めて三上が話す。口調が学生時代に戻っていた事に気付いた。
「今日は会えて良かったよ。自分のためにもな」
その時は適切な返事も浮かばず無言で聞いていた。
「私と会う事は話してきたのか?」と三上は尋ねる。相変わらず視線は合わせず遠くを見つめたままだ。
うーん、と頭をかいて答えた。
「大事な人に会ってくるよって伝えてあるよ。昔、好きだった人なんだよって」
だから日付が変わる前に帰らないとなんだけどな。照れ隠しにそう付け加えた。
「ああ、そうなんだ」
三上は少し意地悪そうな笑顔でこちらを見てた。それから、何か言いたそうにそわそわしてたが、結局うまく頭でまとまらなかったようで力いっぱい背中を叩かれた。
三上は少し歩いて距離と取ると、
「私も言っておきたい事がある」と振り返った。
別れ際のかしこまった三上の姿。多分、ずっと忘れないだろう。背筋を伸ばし、正面で手を重ね、軽い会釈をした。
「登田に会えて私、良かった。高校生活の事だけじゃない。私の人生の中でも、きっと大切な思い出になりました」
そう言って手を緩め、最高の笑顔を見せてくれた。その声は、いつかを思い出させるような、少しだけ涙声の入った優しい声だった。
「ありがとう」って。
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