私のことなど、どうぞお忘れくださいませ。こちらはこちらで幸せに暮らします

東金 豆果

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「シャーロット、ブローチは?」

「…忘れてしまって」

「10歳になってせっかく魔法が使えるようになったというのに、忘れるなんてバラトレ魔法学園生としての自覚が足りませんよ。ブローチがないと魔法が使えないのは分かっているでしょう?取ってきていただけますか?」

「…はい」

シャーロットは有無を言わさないレナータ先生の態度に頷くしかなかった。本当は忘れてなどいない。私のブローチはまず存在しないのだ。シャーロットは自分の情けなさにとっさに嘘をついてしまった。

この世界では魔力を使うためにブローチを使う。貴族ともなれば代々伝わっているような格式高いものを。10歳の誕生日プレゼントとして親から魔法のブローチが与えられ、魔法を使えるようになるのが常識なのだが、シャーロットは貰えなかった。

魔法のブローチを貰えないなんて貴族の娘としてはありえない。

本当はシャーロットも10歳の誕生日にブローチを受け継ぐはずだった。妹のメアリーさえいなければ。

*** 

「メアリー、誕生日おめでとう。少し早いけどブローチをあげよう。大切にするんだよ。」

「本当に私に?大変光栄ですわ」

お父様がまだ9歳のメアリーにブローチを渡す。
綺麗なジュエリーがたくさん散りばめられた魔法のブローチを嬉しそうに受け取るメアリーと笑顔で見守るお父様とお母様。
ローズマリー家に伝わる由緒正しいブローチは、姉の私ではなく妹のメアリーのものになろうとしていた。

「どうして私にはないのですか?」

「メアリーにあげるのがふさわしいからよ。シャーロットにはもったいないわ」

お母様はメアリーに向ける笑顔とは一転して、険しそうな顔で私に言い放つ。
ずっと昔に私にブローチをあげるのが楽しみだわと仰っていたことはきっと覚えていないのだろう。

今日は私とメアリーの誕生日。
いつからか忘れ去られて、メアリーだけの誕生日になった。

妹のメアリーはいくつもの華やかなドレスとジュエリーをプレゼントされていて、私には本当に最低限のものしか用意されないことが当たり前になっていた。

それでも代々ローズマリー家に伝わる魔法のブローチだけは長女の私が頂けると思っていたのは、とんだ思い上がりだった。本当に恥ずかしくなる。

これまで家のために役に立ちたいとマナーや勉強を頑張ってきた。ローズマリー家として恥じることがないように努力してきたのに全て無駄に思えてきた。

「代わりのブローチもいただけませんか?」

「シャーロットにブローチなんていらないわ。どのみち大した魔力ではないのだから」

私は自分の魔力を確かめることすらさせてもらえなかった。



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