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バーべキュウ

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「お肉はステーキ肉が良いかな? それともスペアリブが良いかな?」
 優心にこ活美かつみはスーパーへ買い出しに来ていた。山猫号は軽トラなので二人乗ったらあとは荷台に乗るしかないので(もちろん荷台に乗るのは星河せいがだが)彼はキャンプ場でお留守番となっていた。

「う~ん、この豚のスペアリブ安いわね、でも味的にはステーキ肉も捨てがたい、ここは両方買っちゃいましょう」
「あっ! モロコシも美味しそう」

 見かけた美味しそうなものは片っ端から買い物かごに入れていくので、もう一杯になっていた。

「優心ちゃん嬉しそうだね」
「嬉しいわよ、活美が元気になってくれたんだもの」

「それだけじゃないよね? 優心ちゃん星河君と結ばれたんでしょ?」
「えっ! そ……そんなこと」

 突然の直球の質問に優心は赤面した。一瞬で耳まで赤くなった。
「二人を見てればわかるよ。おめでとうだね優心ちゃん」

「ええっ! ええっとぉ……」
「初エッチはどうだったの?」
「そんなの言えないわよ」

 活美は完全に小悪魔顔になっている。優心も今のセリフで事実を認めてしまっているのだが、本人は気が付いていない。

「いつもの冒険譚ぼうけんたんみたいに教えてよ」
 そう言われると誤魔化しにくい。

「い……いいわ……そうねぇ、星河は全然ヘタレだったけど、まあ童貞だからしょうがないわね」
「星河君は童貞じゃないよ。中三の時私としたから」

「えっ! ええええっ!」
 衝撃の事実に、思わずひっくり返りそうになる。
「あのドスケベ~まさか活美に手を出しているなんて、許せん!」

「それは違うよ優心ちゃん、私からどうしてもって頼んだの」
「そ……そうなの?」

 なんとなく恐縮したように小さくなってしまう優心。いつもはデカい態度を取っているが、実は恥ずかしがり屋の女の子なのだ。

「でも、やっぱり星河君は優心ちゃんを選んだのね」
「そうなのかな? わかんないけど」
「お互い好きだって言い合ったんでしょ?」
「それは……そうだけど」

 確かにお互い好きだと言い合ったけど、あれも今思えば吊り橋効果とも言えるような気もしたが。

「活美の時はどうだったの? やっぱりあいつは好きだって言ったんじゃないの」
「その時はね……私のこととっても大事な友人だと思ってる……そう言ったの」

 俯く活美の瞳は少しだけ潤んで揺れているように見えた。

 ☆
 
「と言うわけで星河の釣った主イワナはラタトゥイユと一緒にホイル蒸しで食べます」
「やんややんや」

 イワナは内臓を抜き、たっぷりの油で表面を焼かれトマトと野菜たっぷりのラタトゥイユと共に炭火コンロに置かれた。

「バーべキュウパーティの始まりよ」
「かんぱ~い」

 コーラで乾杯する。炭火とランタンの光が混ざって幻想的な雰囲気を作っていた。人は焚火を囲むと本能的に安心するのかもしれない。日がだいぶ落ちてきて、夏のわりには少し涼しかった。

「お肉もバンバン焼いていきます」
 スペアリブやステーキ肉が次々とコンロに並べられていく、香ばしい焼肉の香り。

「活美にこれ……つい渡しそびれてたけどお祭りのお土産」
 そう言って取り出したのはりんご飴だ。優心は飴を渡し活美はちっちゃな手で可愛らしいラッピングを解いた。

「わあぁ……ありがとう、うん美味しい」
「来年こそは一緒にお祭りへ行くわよ」
「うん、絶対一緒に行こうね」

「活美ちゃんの浴衣姿も見たいしね」
「コラッ! スケベ星河」
 優心のげんこつが星河の頭に炸裂した、コツンと良い音が鳴った。

「いったぁ! 何だよ急に、殴る事ないだろ」
 星河は猛然もうぜんと抗議した。頭に血が上って顔がトマトだ。

「そ……そうね……ちょっとやり過ぎたかもしれないけど……でも、星河がスケベだからいけないのよ」
「スケベって僕が一体何をしたんだよ」
「何って……ごにょごにょ……だからよ」

「何だって?」
「あ~うるさい! とにかく存在がセクハラなのよ」
「ひ……ひどい」
 星河はわりと本気で泣きそうになった。

「今のは優心ちゃんが酷過ぎるよね……ヨシヨシ」
 活美が星河の頭を撫ぜながらそっと抱きしめた。
「活美がそうやって甘やかすから」

「あっ! お肉焼けてる、星河君に食べさせてあげるね……ほら、あ~ん」
「うん、むぐむぐ……美味しい」

 肉一切れですっかり機嫌を取り戻す星河、そのくらいバーべキュウは美味しかった。
「まあいいわ……主もそろそろ蒸しあがってるかしらね」

 ホイルをほどいて中の様子を確認する。ふわりと蒸気が立ち昇り鮮度の良い魚とトマトの蠱惑的な香りがした。

「よしっ! 優心ちゃん印の主のラタトゥイユ蒸しの完成よ。粉チーズと岩塩をかけて召し上がれ」

 切り分けられたイワナの切り身をまずは活美に取り分けてあげる。もちろんチーズをたっぷりとかけてあげた。

「わぁぁ……美味しい……こんな美味しいお魚初めて食べたよ」
 そうでしょ? と言わんばかりのドヤ顔を優心は見せた。

「まあ、一応主を釣り上げたのは星河だからね。分け前を上げるわよ喜んで食べなさいよね」
「ハイハイ……って! これかなり美味いな」

 あまりのイワナの美味しさに思わず小躍こおどりをしてしまう星河と活美、優心も一口食べて嬉しそうに頷いた。満足できる味だった。

 その後三人は食材を次々と炭火にかけては平らげていった。とても、とても楽しい時間が過ぎていく。

「ふ~う……もう食べられないよぉ」
「食った食った、大満足だよ、ありがとうな優心」
「どういたしまして、活美が満足したんならそれで良いわ」

 すっかりお腹いっぱいまで食べた活美と星河、優心は節制しているせいか、腹八分目と言うところで止めたようだ。

「夏の夜のお楽しみはご飯だけじゃないのよっ! これもやらなくちゃ!」
 そう言って優心が掲げたのは花火セットだった。

「ねずみ~ねずみ~……あはっ! 面白い」
 早速花火セットからネズミ花火を取り出して点火した活美、くるくる回るその様を玩具で遊ぶ仔猫の様に跳ねながら楽し気に見つめた。

「この手持ち花火も良い感じだな~なごむよね」
 星河は色が変わる手持ち花火の赤や緑や青く輝く火花をしみじみと見つめた。

「そんなん全然ちゃっちいわね、花火と言えばこれよっ! ドラゴンファイヤー!」
 優心が点火した吹き出し花火、それがシューシューと音を上げる。ダイナミックな火花がバチバチと散り、夜の闇の中で美しく輝く。

「わぁ、わぁ……凄い、凄い」
 優心は次々と色んな花火に点火して、派手に夜のキャンプ場を飾った。

 最後は線香花火を皆でやった。
「チリチリチリチリ……あはぁ……綺麗だね」
 火薬の焼ける匂いがする、懐かしく胸が痛くなるような匂い。活美の笑顔が線香花火の小さな明かりに浮かぶ。

 僕達は過去を取り戻したのだろうか? 子供の時の楽しい時間を、ふと星河はそんなことを思った。

 この日の最後はテントの中で三人が川の字の様に横になり、色々なことを話した。いつもの冒険報告、鬼になった悟志さんとの戦いと別れ、屍鬼切りとの思い出と黄泉の洞窟、どんどん現実離れしていく。かと思うと優心は縁日の様子を面白可笑しく伝えた。

「あはっ! 凄い、凄い、執筆がはかどるよう」
 踊るように軽快な指使いでノートパソコンに文章をタイプしていく活美。

「執筆はその辺にしときなさいよ。明日もまだ遊ぶんだから」
「うん……でも、もうちょっとだけ」
 そう言って無言で指を動かしていった。

「優心ちゃん……星河君……本当にありがとうね」
「なによ、改まっちゃって」
「私幸せだなって……そう思ったの」
「これからもずっと続くわ幸せな時間が」
 しばらくして、活美のタイピングの手が止まる。

「うん、私もう寝るね」
「あたしも寝るわ」
 じっと黙って横になる三人の静かな寝息だけがテントの中にあった。
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