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二日目夕食

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「今日の晩ご飯はちょっと手が込んでるね」
 ガスバーナーにはクッカーのフライパンがかかっていて、ホイルに包まれた鶏肉が蒸し焼きにされている。
優心にこちゃん特製鶏肉のレモン蒸し~」
 優心が自慢気に声を上げる。

 夜見山キャンプ場、時刻は午後八時くらい、辺りには闇の帳が落ち始めている。調理用の作業台に乗ったLEDランタンが辺りを照らしていた。
 ホイルの中にはブナシメジ、椎茸しいたけ、鶏肉にレモンの薄切りが入っている。良い匂いが漂ってきた。

「そろそろ良いかな? じゃ~ん御開帳」
 ホイルを開くと蒸気が立ち昇る。鶏肉は美味そうに蒸しあがっていた。

「仕上げにポン酢をかけてっと……出来上がりー! ささっ食べるわよ」
 事件現場からの帰り際買ったバゲットが薄く切られハムを挟んでチューブバターを塗られて食事台の上の皿に置かれている。これを主食にしながら鶏のレモン蒸しを食べるのだ。
 まずはキノコを一口。

「うんっ! 上手く蒸しあがってる」
 シャキシャキ、しっとりとした歯ごたえに鶏の油とレモンの風味がキノコに優しく沁み込んでいて、ポン酢ともよく合う。

「そしてこの鶏がたまらないのだっ!」
 優心が鶏肉を一口食べ、むふふと嬉しそうに笑った。続いて星河せいがも一口、やっぱりむふふと笑った。

「美味しいものを食べると元気が出るよな。優心も料理の腕を上げたよね」
「当然ね、キャンプ飯は冒険家の基本スキルだもんね」
「う……うま……うま、美味い」
 ついついはしが止まらなくなる星河。このレモン蒸しはクセになる美味さだ。

「今日の調査はまだ終わってないんだから、あんまり満腹にしちゃ駄目よ」
「そうだった……今日も洞窟を探して山を歩くの?」
 バゲットをもりもり食べながら星河が訊いた。

「う~ん、実はこないだの第二の殺人事件があった別荘を見てみたいのよね」
「あそこにはまだ警官がいるんじゃ? 見つかったらたぶん、かなり怒られるよ。図書館で会った玲子れいこさんみたいな警官ばかりじゃないんだから」
 と一応釘をさしておく、そんな忠告を優心が聞くとは思わなかったが。

「近づけなかったら遠目に見るだけでも良いのよ。とにかく何か発見があるかもしれないじゃない?」
 とか言いながら優心は薄切りレモンをかじって、酸っぱさに目を細めた。

「とにかくっ! ご飯食べたら別荘地帯に乗り込むわよ」
「うん……それは良いけど、鬼を見かけたら逃げるとしても、護身用の武器とか気休めでもあった方が良いかもね」
「そうね……一応武器になりそうなものはいくつか持ってるわよ」

「おお……見せてもらって良いかい?」
「もちろんよ。まずはこのマグライト、柄の所が警棒けいぼうになるのよ」
「どれ、どれ」

 マグライトとはアメリカのマグ・インストルメント社が製造した金属製の懐中電灯である。そのライトとしての性能の高さや頑強さから警察などでも利用されている。
 手に取ってみるとずっしり重く、柄の長さも三十センチ以上あり、けっこう立派な武器だった。

「この光るライトの部分を握って、肩で担ぐようにして光でビカーって目をくらまして、それからぶんっと叩くわけ」
「フンフン……なるほど」
 実際に振ってみると思ったより使いやすい。重心の位置が丁度良く気持ちよく振れる、威力もありそうだ。

「これを使うんなら僕かな」
「まあそうね……星河が接近担当で肉の壁ね」
「うん……言い方はイヤだけどその担当でいいよ」
 もちろん実際に危険があったら星河は優心の壁になって守るだろう。

「じゃあ後衛のあたしはこれかな」
 と言って優心が取り出したのはごついパチンコだ。
「スリングショットってやつね、ゴム銃……意外に威力があるんだから」

「うん、これは心強いね。熊と遭遇した時にも撃退に使えそう」
「弾は鉛と粘土とあるけど、粘土は猿とか追っ払う用ね。鉛にすると人間でも大怪我する威力よ」
 優心はゴムを引っ張って撃つ真似をして見せた。風を切って唸りを上げるゴム、確かに威力がありそうだ。

「あと万能ナイフ……これはサブ武器って感じかしら」
 料理やらなにやらに活躍しているナイフだ。ワインの栓抜きから缶切り、爪楊枝までと色々ついているが、武器としては刃渡りも刃の厚さも貧弱で心もとない。よく手入れされていて切れ味は悪くないから、一応武器にはなりそうだが。

「一応アーミーナイフだから見た目以上には頑丈だけど、身の丈三メートルの鬼には効きそうもないわね」
「うん……でも無いよりましだよ。それは優心が持っているといいよ。愛用品だしね」
 うんと頷きながら優心はナイフを懐にしまった。

「あとこれ、星河のサブ武器に」
 そう言って優心が取り出したのは先がとがった真っ黒のボールペンだった。
「これ、タクティカルペンっていってアメリカの拳銃メーカーが作った護身用のボールペンなの」
 キャップを外してみると確かに中からボールペンが出てくるのだが、ごつくかなり頑丈そうな武器だった。

「これ……どうやって使うんだろう?」
「こう、逆手に持って突き刺すようなかんじで」
 優心が使い方を実演して見せる。けっこう様になった動きだ。星河もペンを受け取り見よう見まねで振ってみる。

「そう、そう、そんな感じ上手いわよ」
「うん……これは使えそうだ。借りとくよ」
 星河はそう言うとタクティカルペンをポケットにしまった。

「最後の遠距離武器はこれね」
 優心が取り出したのは射程距離十メートルの蜂用殺虫剤だった。
「殺虫剤か~目つぶしとかになるのかな?」

「これ、灯油系の殺虫剤で良く燃えるのよ。これをこのジッポのライターでファイヤーっ! ってやるのよ」
「優心……それは最後の手段にしてくれな……間違ってもそこらでぶっ放したりしないでくれよ」
「分かってるわよ。まあ武器はこんなもんね」

 マグライトにスリングショット、万能ナイフにタクティカルペン、殺虫剤とライター。
 身の丈三メートルの鬼に通用するのかはともかくとして、護身用としては結構な戦力である。
 星河はもう一度マグライトを振ってみる。何度か繰り返しているうち、段々様になってきた。

「あたしもちょっと練習しようかな」
 そういうと付近から小石を拾ってきて、ちょっとはなれたところに空き缶を置いた。
 優心がギリギリとスリングショットを引き絞る。次いで放つ、小石が唸りを上げて飛んでいく。

 カンと甲高い音が鳴る。小石は見事十メートルほど先に有った空き缶へ命中していた。
「弾自体は飛ぶけど、有効射程は十メートルくらいかしらね」
「それでも結構使えると思うけどな」

 的が大きければもうちょっと離れていても当たりそうだった。暴徒鎮圧用にも使われることがあるくらいだから人間くらいの大きさの標的ならもう少し遠距離からでも狙えそうだ。
 優心はしばらく、空き缶相手に練習していたが、何発も撃ったことで感触が掴めてきたのか、ウンウンと頷くとスリングショットをポケットにしまった。

「できればそんな大きな獣とは戦いたくはないけど、全く無防備ってわけにはいかないわよね」
「でもこんなものを持ってるところをお巡りさんに見つかったら、補導されそうだな」
「まあ、一応軽犯罪ね。でも探偵ごっこをしているだけの学生をむやみにパクったりしないわよ」
「そうだと良いけどね」

 お巡りさんは出来るだけ避けようと星河は心にちかった。
 晩御飯の後片付けをして、顔を洗って気合を入れなおし、冒険の準備を整えて、二人は第二の事件現場である別荘地帯に向かった。
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