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キャンプ初日
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お見舞いの後、キャンプ場へ行く前にスーパーマーケットで買い物をした。キャンプ場暮らしには冷蔵庫なんてものはないから生の食材は小まめに買い足さなければならない。もちろん行動食なんかに保存の利く食べ物もいくつか用意してあるが、そう言った食べ物だけだと栄養が偏る。この日はカロリービスケットのほかサラダ用のカット野菜とレトルトのカレーと茹でうどんを買った。
山猫号で夜見山キャンプ場に乗り入れる。事件の影響なのだろうか、キャンプ場にいたのは優心と星河の二人きりだった。
時刻は午後六時すぎ、まだ日没までには一時間ほどあったが、樹木で囲まれたキャンプ場は少し薄暗く、夕焼けの差し方がどこか幻想的であった。気温はそこそこ高く、ここ数日快晴だったので空気のやや乾いた気持ち良い夕方だった。
「まずはテント張っちゃうね。もしかしたら星河も来るかもって思って少し大き目のテントにしておいて正解だったわ」
優心はテキパキとテントをあっという間に組み立ててしまう。その手際の良さはちょっと普通じゃなかった。
「優心は凄いな」
「このくらい冒険家を目指してる人間にとっては当然よ」
とやっぱり胸を張って威張る。
「星河、調理用の作業台、わかるかな?」
星河が山猫号の荷台に目をやると、折り畳み式のそれっぽいテーブルが見える。
「ちょっと取って」
「うん、これだね」
テントに作業台、その上にLEDのランタンが明るく周囲を照らす。俄然キャンプの雰囲気が出てきた。
「夕食は簡単に済ますけどオーケー?」
「うん、大丈夫」
「じゃあ……今日の夕食はカレーうどんよ」
優心がレトルトのカレーを掲げて見せた。ロングセラー商品の定番のカレーだ。次いでクッカーの中にカレーと少しの水を加える。
「ここに……優心ちゃんブランドの特性カレー粉を入れてっと」
優心は自分で調合したスパイスやハーブ塩の入った小箱を開け、何種類かある小瓶の中からカレー粉の入った瓶を取り出して、クッカーの中に加えた。
「さすが優心、うん……良い感じだ」
「でしょ? これ簡単ご飯だけど美味しいのよ」
ふつふつとカレーが煮えてきて、食欲を誘うスパイシーな香りが立ち昇った。
優心は昔から料理がとても得意だった。普段は男に生まれたかったと言いながら、色んな所が女の子らしい。
うどんをほぐしながらクッカーにいれ、カレーに馴染ませる。
カレーを煮込んでいる間に、皿にサラダを盛りわけドレッシングをかける。ドレッシングは優心特製のコールスロードレッシングだ。これがキャベツを主体としたカット野菜にかけると緑と白がよく映える。
「出来上がりー、今よそってあげるからねー」
クッカーセットの中の使っていない鍋に星河の分のカレーを半分こにして分ける。トロリとしたカレーがうどんに良く絡んでいて、見た目にもとても美味しそうだった。
「出来たよ。はい、召しあがれ」
「いただきまーす」
まずはサラダを一口。酸味のきいたドレッシングがパリパリのカット野菜を贅沢な味に仕上げていた。噛むと瑞々しい野菜の風味がする。
優心のコールスロードレッシングは御酢が程よく利いていて、自家製マヨネーズの旨味が素晴らしい。チェーン店などで食べるコールスローと一味も二味も違った。
「このドレッシング美味しいね」
「でしょ~夜見の里のとあるビストロのシェフから教えてもらった作り方なんだよ」
本当に優心は誰とでもすぐ仲良くなる。昔からの取柄だ。
「カレーうどんも……うんっ! 美味いっ!」
食べなれた定番カレーの味が特製スパイスによって本格的なスパイシーカレーに仕上がっている。
料理を褒められると、少し恥ずかしそうに優心は笑った。
食べているうちに段々と日が陰ってきた。ランタンの明かりが優心の横顔を照らして、整った顔が暗がりに映し出されていた。優心は本当に綺麗になったな、と星河は思った。
「そういえばいつからキャンプをしてるの?」
「夏休み始まってからよ」
「なんだ。まだ幾日もたったわけじゃないんだ」
「うん。夜に山を歩いて、朝になったら活美のお見舞いに行って……それだけ」
「そっか……」
そうすることで何かが変わったのだろうか? ふとそう思う、そして僕は二人の何かを変えることが出来るんだろうか? と星河は考えた。
食べ終わったご飯を片付けると、優心はクッカーでお湯を沸かし始めた。
「今、お茶を淹れてあげる。あと星河の身体を拭くタオル、沸かしたお湯で温めてあげるね」
そう言うとまたテキパキと働き始めすぐにタオルとお茶が出てきた。
「背中……拭いてあげる」
「サンキュー」
星河は汗ばんだTシャツを脱ぐと優心はささっと星河の身体を拭いた。
「山歩くとさ、また汗かくから、近くに温泉あるから明日にでも入りにいこ」
「うん」
「あとで洗濯紐出すから、拭き終わったらタオル洗っておいて」
「了解」
全身拭いてさっぱりとした星河はキャンプ場の炊事場へ向かって行き、ささっとタオルを洗う。
「あたしもテントの中で拭いてくる」
そう言うと優心はそそくさとテントの中に入って行った。
タオルを絞って星河はティーバッグで淹れた緑茶をすする。
「お……このお茶美味しいな」
「でしょ~近所のお茶屋さんの特製ティーバッグ」
何もかもありふれているようでいて、みんな一味違った。
優心がテントから出てくる、頭も拭いたのか髪が少し乱れていた。
「夜の山歩くの、思ったより大変だからね。覚悟して」
「どうして夜なんだ? 危なくない?」
「う~ん、星河は反対?」
星河は少し考えてから答えた。
「反対ってほどじゃないけど、昼間じゃダメなのかな?」
「昼間歩くこともあるよ。ただ明るいうちはよくお見舞いに行ってるから」
「そうなんだ」
何か隠している様な気がした。でも星河も詮索はしなかった。大事な話は必要があれば必ず優心は話してくれる。それこそ今日山を歩くときにでも話してくれるだろう。
「夜の山って、けっこう怪談っぽいイベントが起きるのよ。良いじゃない? そういうのって、小説のネタになるでしょ」
「う~ん、確かに……」
あまり怪談っぽいイベントには遭遇したくはなかったが、良いネタにはなりそうだと思った。
「そういえば野犬もいるんだっけ?」
「ああ……ジョーのこと? う~ん……たぶん野犬」
「たぶんってなんだよ。たぶんって」
ちょっとあきれ気味な星河。
「首輪とかはしてないんだけどさ、妙に人懐っこくて。もしかしたらどっかの家で放し飼いにしてるのかも」
「そうなんだ」
「野犬の割には妙にきれいだしね。でもどっかの飼い犬より野犬の方がカッコいいでしょ?」
「そういう問題かな?」
「恩を売っておけばピンチの時に助けてくれる的な? そういう感じのイベントキャラよ」
「ゲームじゃないんだから」
思わず笑みがこぼれた。やっぱり優心は優心らしい。
お茶を飲んだ後さらっと歯磨きをしてから「そろそろ行くよ」と優心が言った。
「今日の行動食はジョー用のドライサラミとアメリカンなチョコバーです。楽しみにしていてね」
そういって優心は米軍のレーションセットにも入っているあのチョコバーを掲げて見せた。チョコは溶けないだろうか? 少し心配になった。
「それじゃあ探索開始よ……星河、覚悟は良い?」
「うん……大丈夫だよ」
星河が頷くと優心は歩きだす。トレッキングコースにもなっている林道の中へ二人は進んで行った。
山猫号で夜見山キャンプ場に乗り入れる。事件の影響なのだろうか、キャンプ場にいたのは優心と星河の二人きりだった。
時刻は午後六時すぎ、まだ日没までには一時間ほどあったが、樹木で囲まれたキャンプ場は少し薄暗く、夕焼けの差し方がどこか幻想的であった。気温はそこそこ高く、ここ数日快晴だったので空気のやや乾いた気持ち良い夕方だった。
「まずはテント張っちゃうね。もしかしたら星河も来るかもって思って少し大き目のテントにしておいて正解だったわ」
優心はテキパキとテントをあっという間に組み立ててしまう。その手際の良さはちょっと普通じゃなかった。
「優心は凄いな」
「このくらい冒険家を目指してる人間にとっては当然よ」
とやっぱり胸を張って威張る。
「星河、調理用の作業台、わかるかな?」
星河が山猫号の荷台に目をやると、折り畳み式のそれっぽいテーブルが見える。
「ちょっと取って」
「うん、これだね」
テントに作業台、その上にLEDのランタンが明るく周囲を照らす。俄然キャンプの雰囲気が出てきた。
「夕食は簡単に済ますけどオーケー?」
「うん、大丈夫」
「じゃあ……今日の夕食はカレーうどんよ」
優心がレトルトのカレーを掲げて見せた。ロングセラー商品の定番のカレーだ。次いでクッカーの中にカレーと少しの水を加える。
「ここに……優心ちゃんブランドの特性カレー粉を入れてっと」
優心は自分で調合したスパイスやハーブ塩の入った小箱を開け、何種類かある小瓶の中からカレー粉の入った瓶を取り出して、クッカーの中に加えた。
「さすが優心、うん……良い感じだ」
「でしょ? これ簡単ご飯だけど美味しいのよ」
ふつふつとカレーが煮えてきて、食欲を誘うスパイシーな香りが立ち昇った。
優心は昔から料理がとても得意だった。普段は男に生まれたかったと言いながら、色んな所が女の子らしい。
うどんをほぐしながらクッカーにいれ、カレーに馴染ませる。
カレーを煮込んでいる間に、皿にサラダを盛りわけドレッシングをかける。ドレッシングは優心特製のコールスロードレッシングだ。これがキャベツを主体としたカット野菜にかけると緑と白がよく映える。
「出来上がりー、今よそってあげるからねー」
クッカーセットの中の使っていない鍋に星河の分のカレーを半分こにして分ける。トロリとしたカレーがうどんに良く絡んでいて、見た目にもとても美味しそうだった。
「出来たよ。はい、召しあがれ」
「いただきまーす」
まずはサラダを一口。酸味のきいたドレッシングがパリパリのカット野菜を贅沢な味に仕上げていた。噛むと瑞々しい野菜の風味がする。
優心のコールスロードレッシングは御酢が程よく利いていて、自家製マヨネーズの旨味が素晴らしい。チェーン店などで食べるコールスローと一味も二味も違った。
「このドレッシング美味しいね」
「でしょ~夜見の里のとあるビストロのシェフから教えてもらった作り方なんだよ」
本当に優心は誰とでもすぐ仲良くなる。昔からの取柄だ。
「カレーうどんも……うんっ! 美味いっ!」
食べなれた定番カレーの味が特製スパイスによって本格的なスパイシーカレーに仕上がっている。
料理を褒められると、少し恥ずかしそうに優心は笑った。
食べているうちに段々と日が陰ってきた。ランタンの明かりが優心の横顔を照らして、整った顔が暗がりに映し出されていた。優心は本当に綺麗になったな、と星河は思った。
「そういえばいつからキャンプをしてるの?」
「夏休み始まってからよ」
「なんだ。まだ幾日もたったわけじゃないんだ」
「うん。夜に山を歩いて、朝になったら活美のお見舞いに行って……それだけ」
「そっか……」
そうすることで何かが変わったのだろうか? ふとそう思う、そして僕は二人の何かを変えることが出来るんだろうか? と星河は考えた。
食べ終わったご飯を片付けると、優心はクッカーでお湯を沸かし始めた。
「今、お茶を淹れてあげる。あと星河の身体を拭くタオル、沸かしたお湯で温めてあげるね」
そう言うとまたテキパキと働き始めすぐにタオルとお茶が出てきた。
「背中……拭いてあげる」
「サンキュー」
星河は汗ばんだTシャツを脱ぐと優心はささっと星河の身体を拭いた。
「山歩くとさ、また汗かくから、近くに温泉あるから明日にでも入りにいこ」
「うん」
「あとで洗濯紐出すから、拭き終わったらタオル洗っておいて」
「了解」
全身拭いてさっぱりとした星河はキャンプ場の炊事場へ向かって行き、ささっとタオルを洗う。
「あたしもテントの中で拭いてくる」
そう言うと優心はそそくさとテントの中に入って行った。
タオルを絞って星河はティーバッグで淹れた緑茶をすする。
「お……このお茶美味しいな」
「でしょ~近所のお茶屋さんの特製ティーバッグ」
何もかもありふれているようでいて、みんな一味違った。
優心がテントから出てくる、頭も拭いたのか髪が少し乱れていた。
「夜の山歩くの、思ったより大変だからね。覚悟して」
「どうして夜なんだ? 危なくない?」
「う~ん、星河は反対?」
星河は少し考えてから答えた。
「反対ってほどじゃないけど、昼間じゃダメなのかな?」
「昼間歩くこともあるよ。ただ明るいうちはよくお見舞いに行ってるから」
「そうなんだ」
何か隠している様な気がした。でも星河も詮索はしなかった。大事な話は必要があれば必ず優心は話してくれる。それこそ今日山を歩くときにでも話してくれるだろう。
「夜の山って、けっこう怪談っぽいイベントが起きるのよ。良いじゃない? そういうのって、小説のネタになるでしょ」
「う~ん、確かに……」
あまり怪談っぽいイベントには遭遇したくはなかったが、良いネタにはなりそうだと思った。
「そういえば野犬もいるんだっけ?」
「ああ……ジョーのこと? う~ん……たぶん野犬」
「たぶんってなんだよ。たぶんって」
ちょっとあきれ気味な星河。
「首輪とかはしてないんだけどさ、妙に人懐っこくて。もしかしたらどっかの家で放し飼いにしてるのかも」
「そうなんだ」
「野犬の割には妙にきれいだしね。でもどっかの飼い犬より野犬の方がカッコいいでしょ?」
「そういう問題かな?」
「恩を売っておけばピンチの時に助けてくれる的な? そういう感じのイベントキャラよ」
「ゲームじゃないんだから」
思わず笑みがこぼれた。やっぱり優心は優心らしい。
お茶を飲んだ後さらっと歯磨きをしてから「そろそろ行くよ」と優心が言った。
「今日の行動食はジョー用のドライサラミとアメリカンなチョコバーです。楽しみにしていてね」
そういって優心は米軍のレーションセットにも入っているあのチョコバーを掲げて見せた。チョコは溶けないだろうか? 少し心配になった。
「それじゃあ探索開始よ……星河、覚悟は良い?」
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星河が頷くと優心は歩きだす。トレッキングコースにもなっている林道の中へ二人は進んで行った。
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