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何か見える①
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苅野氏の学生時代のあだ名が勉三さんと聞いた時、やっぱり僕はそれしかないなと思った。なんせ似ているんである勉三さんに。語るまでもないが勉三さんとは藤子F不二雄先生の漫画キテレツ大百科の登場人物で愛すべき浪人生である。
短く刈り揃えた髪に、分厚い牛乳瓶の底の様な眼鏡、そして苅野という名字、一時期は苅野勉三をペンネームにしようかという提案が編集部からあったほどだった。本人はそれを謹んで辞退したそうだが。ちなみに狩野氏は漫画家でもちろん尊敬する漫画家は楳図かずお先生と藤子F不二雄先生であるそうだ。
僕が狩野氏の少女向けホラー雑誌に連載していた恐怖漫画のファンであったこと、そして苅野氏が僕が超マイナー誌の片隅に書いていた怪談を読んで覚えていたこと等があり僕たちはすぐ意気投合した。
「いやいや、こんな美味い酒は久しぶりです」
僕はじゃがバターを食べながらビールを流し込んだ。
「作家さんの怪談、私は好きなんですけどね」
「ありがとうございます。でも僕の怪談ってふわっとしていて、恐ろしさってものがあまりないんです」
「私も似たようなものですよ。絵で本当の恐怖を伝えられる人間は稀です。僕はその境地までまだ達していないんですよ」
等と謙遜し合いながら、僕たちはお互いを認め合っていることをひしひしと感じ、美味い酒を飲んでいた。
店内にお客は僕と狩野氏と相変わらずの夢幻和尚だけで、僕ら二人はわいわいと飲んでいるが、夢幻和尚は隅っこで一人ちびちびと酒をやっている。夢幻和尚は人見知りするわけではないんだが、無駄な口っていうものを一切きかない。
「好きで怪談を書いてはいますが、まあ僕の小説じゃあお金にならなくて」
「作家さん、それは貴方だけじゃない、僕の原稿料も年々安くなって困っていますよ」
これも美味しいですよ。と勧めてくれた焼きたらこを一切れ食べ、僕はお返しに幽子さんが作った自家製スモークチーズを苅野さんにお勧めしてみた。
「インターネットの世界とか、娯楽が溢れているじゃないですか、無数にあるネット小説や無料ゲーム、低価格でサービスされる動画コンテンツ。そんなものの中から僕たちの小説や漫画なんかを選んでくれる人は、本当に稀なんですよね。貴重な出会いですよ」
苅野氏のいう事はもっともだ。ファンの人のちょっとしたコメントなんかに僕たちはどんなに励まされることか。
「全くです。すでに市場がレッドオーシャン化してますね。その中で不器用な人間はどんどん取り残されていきますよね」
僕らも例外じゃないですね。とつい愚痴に走ってしまったが、同じ価値観をこうやって共有できることは嬉しかった。
「ところで苅野先生は幽にはよくいらっしゃるので?」
僕は比較的最近になって幽に通うようになった新参者なので、まだまだ行き会っていない常連もいるかと思って聞いてみた。
「いえ、実は初めてなんです」
苅野氏はやんわりとそういった。
「そうでしたか、ここのお酒とおつまみ美味いですからね」
幽は普通にネットの口コミサイト等で評判の良い店なんで、色んな人が飲みに来る。
「それもそうなんですけど、噂を聞いて」
「と、いうと苅野先生も何か不思議な体験を?」
「ええ」
「相談という事でしたら伺いますよ」
幽子さんが話を聞きつけてやってきた。手には美味そうな塩ぶりを持っていた。
「これサービスです」
「幽子さんありがとう、これは美味しそうだ」
僕は幽子さんに深々と頭を下げ、受け取った塩ぶりに箸を入れた。
うん、美味い、山がちの夜見乃市辺りでは、古くから潮ぶりが贅沢品とされている。海の方から運ばれてきた塩が高級品だった時代の名残だ。
「それで、苅野先生の悩みとは?」
「ええ、実は私、憑りつかれているんです。くねくねに」
短く刈り揃えた髪に、分厚い牛乳瓶の底の様な眼鏡、そして苅野という名字、一時期は苅野勉三をペンネームにしようかという提案が編集部からあったほどだった。本人はそれを謹んで辞退したそうだが。ちなみに狩野氏は漫画家でもちろん尊敬する漫画家は楳図かずお先生と藤子F不二雄先生であるそうだ。
僕が狩野氏の少女向けホラー雑誌に連載していた恐怖漫画のファンであったこと、そして苅野氏が僕が超マイナー誌の片隅に書いていた怪談を読んで覚えていたこと等があり僕たちはすぐ意気投合した。
「いやいや、こんな美味い酒は久しぶりです」
僕はじゃがバターを食べながらビールを流し込んだ。
「作家さんの怪談、私は好きなんですけどね」
「ありがとうございます。でも僕の怪談ってふわっとしていて、恐ろしさってものがあまりないんです」
「私も似たようなものですよ。絵で本当の恐怖を伝えられる人間は稀です。僕はその境地までまだ達していないんですよ」
等と謙遜し合いながら、僕たちはお互いを認め合っていることをひしひしと感じ、美味い酒を飲んでいた。
店内にお客は僕と狩野氏と相変わらずの夢幻和尚だけで、僕ら二人はわいわいと飲んでいるが、夢幻和尚は隅っこで一人ちびちびと酒をやっている。夢幻和尚は人見知りするわけではないんだが、無駄な口っていうものを一切きかない。
「好きで怪談を書いてはいますが、まあ僕の小説じゃあお金にならなくて」
「作家さん、それは貴方だけじゃない、僕の原稿料も年々安くなって困っていますよ」
これも美味しいですよ。と勧めてくれた焼きたらこを一切れ食べ、僕はお返しに幽子さんが作った自家製スモークチーズを苅野さんにお勧めしてみた。
「インターネットの世界とか、娯楽が溢れているじゃないですか、無数にあるネット小説や無料ゲーム、低価格でサービスされる動画コンテンツ。そんなものの中から僕たちの小説や漫画なんかを選んでくれる人は、本当に稀なんですよね。貴重な出会いですよ」
苅野氏のいう事はもっともだ。ファンの人のちょっとしたコメントなんかに僕たちはどんなに励まされることか。
「全くです。すでに市場がレッドオーシャン化してますね。その中で不器用な人間はどんどん取り残されていきますよね」
僕らも例外じゃないですね。とつい愚痴に走ってしまったが、同じ価値観をこうやって共有できることは嬉しかった。
「ところで苅野先生は幽にはよくいらっしゃるので?」
僕は比較的最近になって幽に通うようになった新参者なので、まだまだ行き会っていない常連もいるかと思って聞いてみた。
「いえ、実は初めてなんです」
苅野氏はやんわりとそういった。
「そうでしたか、ここのお酒とおつまみ美味いですからね」
幽は普通にネットの口コミサイト等で評判の良い店なんで、色んな人が飲みに来る。
「それもそうなんですけど、噂を聞いて」
「と、いうと苅野先生も何か不思議な体験を?」
「ええ」
「相談という事でしたら伺いますよ」
幽子さんが話を聞きつけてやってきた。手には美味そうな塩ぶりを持っていた。
「これサービスです」
「幽子さんありがとう、これは美味しそうだ」
僕は幽子さんに深々と頭を下げ、受け取った塩ぶりに箸を入れた。
うん、美味い、山がちの夜見乃市辺りでは、古くから潮ぶりが贅沢品とされている。海の方から運ばれてきた塩が高級品だった時代の名残だ。
「それで、苅野先生の悩みとは?」
「ええ、実は私、憑りつかれているんです。くねくねに」
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