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お前だっ!③
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☆
「その話はまさにコインロッカーベイビーの都市伝説のようですが」
僕がそう言うと神崎さんはこくりと頷きました。
「拙僧も聞かせてもらいました。神崎さんはそのコインロッカーに子供を遺棄したことは?」
いつの間にか店の隅にいた夢幻和尚が僕たちのすぐそばまで来て言った。袈裟に染み付いた香の独特の香りがした。
「そんな残酷なことはできません」
神崎さんは強くかぶりを振った。
「でも……あるんですね。心当たりが?」
「うっ……ううぅ」
すると神崎さんは泣き出した。
女将さんが神崎さんのところへ来て背中を撫ぜる。
しばらく泣いていた彼女が面てを上げた。
「若い時に子供を堕胎しています」
学生時代に望まぬ妊娠をして、神崎さんは産むつもりだったが、相手方の両親から酷く反対され、やむなく中絶をしたのだそうだ。
「やっぱりあの娘なんでしょうか?」
「恐らくは」
「恨まれて当然ですものね」
「拙僧は必ずしも恨みから現れたとは思いません」
夢幻和尚がそういうと神崎さんが目を大きく見開いた。
「拙僧が思うに神崎さんの堕胎した娘さんが、コインロッカーベイビーの怪異となり姿を現したのは間違えないとは思います」
「やはり恨んでたんじゃ」
「その前にその都市伝説についてまとめてみようじゃないですか。作家殿、できますか?」
「え、ええ」
急に話題を振られて僕は少し焦ったが、一応怪談を語るものとして最低限の知識はあったので、僕はその都市伝説について軽く語った。
コインロッカーベイビーはまさに伝説的な都市伝説だ。
1971年にコインロッカーに乳幼児の遺体が遺棄されていたことに端を発し、その後数年間にわたって年数件くらいの同じような乳幼児の遺棄事件が発生。
ピーク時には都市部のターミナルだけで年40件ほどの遺体遺棄があり社会問題となりました。
この実話をもとにした怪談が流行り、いくつもの文芸や映像、音楽等の作品に影響を与えました。
一番有名なのは1980年の村上龍の小説『コインロッカーベイビーズ』でコインロッカーに捨てられた二人の子供の数奇な運命を描く小説です。
件の怪談については、遺棄された乳幼児が生みの親に復讐するというプロットの類話がいくつもあり、子供を見つけるのは大体母親です。
大本は古くからある乳幼児を遺棄すると生まれ変わった子供や、子供の霊が目の前に現れる復讐譚が原型になっていると推測されます。
「子供は自身の存在を見せつけるのを復讐とし、祟るとか呪われるとかいう類の話ではないですね」
僕の言葉に夢幻和尚は軽く頷いた後、
「拙僧、思うに目的は自身の存在を見せつけることで、必ずしも復讐が目的とは言い切れんのじゃないかと」
「そう……でしょうか? たしかにあの娘を堕胎したのは秋の雨の日で、たぶん日付も一致すると思います。メッセージ……なんでしょうか?」
「恐らくは……大方、人恋しくて出たんでしょうな、たぶん存在が希薄になりかかっていて、怪異の形を借りてでしか出てこれなかったんでしょう」
「私……どうすれば」
「きちんと供養なさっては?」
「いません、あの……お願いしても?」
「拙僧でよければ、水子の戒名をあげて弔いましょう」
そして夢幻和尚と神崎さんはしばらく話をした後、連れ立って店を出た。
「ふ~む、いつもこんなことをなさっているんですか?」
「まあ、度々です。夢幻和尚は生臭ですが、法力というか験力だけは確かな人ですから」
「いや、珍しい体験ができました」
「よかったですね。ここは不思議な出来事が交わる交差点の様な場所なんです」
僕はもう冷めたお酒をぐびりと飲んだ。なるほどここは怪談居酒屋だと思った。
「そういえばこのお店の名前って」
「私の名前からです。夜道之幽子と申します」
こうして僕はこの奇妙な居酒屋の常連となる。その後も奇怪な話を何度も聞かされることになるが、それはまた別の機会に語ろう。
「その話はまさにコインロッカーベイビーの都市伝説のようですが」
僕がそう言うと神崎さんはこくりと頷きました。
「拙僧も聞かせてもらいました。神崎さんはそのコインロッカーに子供を遺棄したことは?」
いつの間にか店の隅にいた夢幻和尚が僕たちのすぐそばまで来て言った。袈裟に染み付いた香の独特の香りがした。
「そんな残酷なことはできません」
神崎さんは強くかぶりを振った。
「でも……あるんですね。心当たりが?」
「うっ……ううぅ」
すると神崎さんは泣き出した。
女将さんが神崎さんのところへ来て背中を撫ぜる。
しばらく泣いていた彼女が面てを上げた。
「若い時に子供を堕胎しています」
学生時代に望まぬ妊娠をして、神崎さんは産むつもりだったが、相手方の両親から酷く反対され、やむなく中絶をしたのだそうだ。
「やっぱりあの娘なんでしょうか?」
「恐らくは」
「恨まれて当然ですものね」
「拙僧は必ずしも恨みから現れたとは思いません」
夢幻和尚がそういうと神崎さんが目を大きく見開いた。
「拙僧が思うに神崎さんの堕胎した娘さんが、コインロッカーベイビーの怪異となり姿を現したのは間違えないとは思います」
「やはり恨んでたんじゃ」
「その前にその都市伝説についてまとめてみようじゃないですか。作家殿、できますか?」
「え、ええ」
急に話題を振られて僕は少し焦ったが、一応怪談を語るものとして最低限の知識はあったので、僕はその都市伝説について軽く語った。
コインロッカーベイビーはまさに伝説的な都市伝説だ。
1971年にコインロッカーに乳幼児の遺体が遺棄されていたことに端を発し、その後数年間にわたって年数件くらいの同じような乳幼児の遺棄事件が発生。
ピーク時には都市部のターミナルだけで年40件ほどの遺体遺棄があり社会問題となりました。
この実話をもとにした怪談が流行り、いくつもの文芸や映像、音楽等の作品に影響を与えました。
一番有名なのは1980年の村上龍の小説『コインロッカーベイビーズ』でコインロッカーに捨てられた二人の子供の数奇な運命を描く小説です。
件の怪談については、遺棄された乳幼児が生みの親に復讐するというプロットの類話がいくつもあり、子供を見つけるのは大体母親です。
大本は古くからある乳幼児を遺棄すると生まれ変わった子供や、子供の霊が目の前に現れる復讐譚が原型になっていると推測されます。
「子供は自身の存在を見せつけるのを復讐とし、祟るとか呪われるとかいう類の話ではないですね」
僕の言葉に夢幻和尚は軽く頷いた後、
「拙僧、思うに目的は自身の存在を見せつけることで、必ずしも復讐が目的とは言い切れんのじゃないかと」
「そう……でしょうか? たしかにあの娘を堕胎したのは秋の雨の日で、たぶん日付も一致すると思います。メッセージ……なんでしょうか?」
「恐らくは……大方、人恋しくて出たんでしょうな、たぶん存在が希薄になりかかっていて、怪異の形を借りてでしか出てこれなかったんでしょう」
「私……どうすれば」
「きちんと供養なさっては?」
「いません、あの……お願いしても?」
「拙僧でよければ、水子の戒名をあげて弔いましょう」
そして夢幻和尚と神崎さんはしばらく話をした後、連れ立って店を出た。
「ふ~む、いつもこんなことをなさっているんですか?」
「まあ、度々です。夢幻和尚は生臭ですが、法力というか験力だけは確かな人ですから」
「いや、珍しい体験ができました」
「よかったですね。ここは不思議な出来事が交わる交差点の様な場所なんです」
僕はもう冷めたお酒をぐびりと飲んだ。なるほどここは怪談居酒屋だと思った。
「そういえばこのお店の名前って」
「私の名前からです。夜道之幽子と申します」
こうして僕はこの奇妙な居酒屋の常連となる。その後も奇怪な話を何度も聞かされることになるが、それはまた別の機会に語ろう。
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