怪談居酒屋~幽へようこそ~

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お前だっ!②

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 あの、私神崎と申します。普段は東京でOLをしています。
 ここへ伺ったのは、その奇妙な出来事の悩みを聞いてくれると知人に教えてもらって。
 ええ、そうなんです。祟られたとかそういうのとは違うんですが。
 あの……準を追ってお話しますね。

 あれは冷たい雨の日でした。ええ秋ごろです。雪になるんじゃないかってくらい冷たくて、そしてどんより曇って暗い日でした。
 
 定時に仕事を終えた私は、帰路に着いていました。私の自宅は職場から電車で20分くらいの郊外にありまして、電車に乗ったあとそこからまた20分くらいは歩かないといけないんですが。
 朝に天気予報をチェックするのを忘れ、雨具がなかったんです。

 スマホで天気予報を見ると本降りなのは一時間程度でその後は曇りになるという話だったので、私は駅のカフェで雨宿りをすることにしたんです。
 適当に安いドリンクを頼んで、ぼおっと人ごみを見ていました。

 用意の良い人はちゃんと傘を持っているんですね。私もビニール傘を買おうかとも思ったんですが、自宅にはいくつか使ってない傘があって、ゴミが増えるのも嫌だったんで、そのまま雨上がりを待つことにしたんです

 十分か十五分か人ごみを見ていると、ふとコインロッカーの前に女の子がいるのが見えたんです。あれ? あんなところに子供いたっけ? と思うくらい唐突に表れたように感じてどこか存在が薄いんですね。
 でも、最初からその女の子を見たときにある種の既視感を感じていました。妙に気になるんです。

 迷子かな? と思ってしばらく様子を見ていました。
 でも、その女の子に声をかける人はいませんでした。親と思しき人も現れません。

 この時時計を見たんです。予報の一時間までまだ時間がありました。私はその女の子に声をかけてみようと思ったんです。

 カフェの清算を済ませ、まばらな人ごみをかき分けてその女の子に近づくとますます既視感は強くなりました。どこで見たんだっけ? 記憶を探ってもそれはおぼろで。
 でもどこかで見たという感じはやっぱりありました。

 グレーを基調にした品の良いワンピースを着ていて、髪はおかっぱ、すすり泣くように泣いていたのですが、顔は可愛らしかったと思います。

「どうしたの? 大丈夫?」と声をかけてみました。女の子は私を見上げました。その時ぞくっとしたんです。私が感じる既視感が何かを訴えているようでした。

 女の子は私の顔を一瞥するだけで、また泣き始めてしまいました。

「迷子になっちゃったのかな?」と言っても何も答えませんでした。ただしくしくとすすり泣くんです。迷子になったというよりも何か悲しいことがあったかのようでした。

 どうしよう、交番に届けようかしらと思って。
「お母さんはどうしたの?」
 と、訊くと女の子はピタリと泣き止んだんです。

 泣き止んだ女の子が私の顔を見つめました。目が合った時心臓がドキリと跳ね上がりました。そう……その娘は。

「お母さんは……お前だっ!」
 そうです。似すぎていたんです。私の子供の頃に。
 そうして、女の子の顔が私を睨んだ後、ふと緩んで悲しそうなでも半分笑ったような不思議な表情をしました。

 あまりのショックに眩暈を感じました。そしてふと見るとそこにはもう女の子は居ませんでした。
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