上 下
32 / 41

襲撃

しおりを挟む
裏切り者ジューダスのカラクリ使いに、ブードゥーのバーサーカー共にSランクの魔術師で魔王教団の構成員です。皆さん注意を」
 カラクリ使いはまたどこかに隠れているようだ。バーサーカーは身長百七十センチ前後、痩せ型の男で黒のネクタイにスーツ、そこに動物の毛皮のマスクと異様な姿だった。

 男達が動く前にまずリザードマンがワラワラと寄ってきた。
 当摩がすかさず応じる。しかし、本来ならてんでバラバラに襲ってくるはずのリザードマンが連携した動きを見せた。

「このリザードマン達、操られているな」
 恐らくカラクリ使いの魔術だろう。
「わっ! わっ! 強い」

 その当摩の姿を見て、カラクリ使いの男の声が言った。嘲笑まじりの嫌な声だ。
「その男、俺のゴーレムが全く通用しなかったが、雑魚どもの剣は効くのか、あいつの相手はバーサーカーお前に任せる」
 バーサーカーは荒い息をつきながら、当摩に向かってにじり寄ってきた。

 次の瞬間、当摩の付近が閃光に包まれ、銃声のような爆発音が鳴った。付近にいたリザードマンが吹き飛ばされる。
「ほう、なかなかやるなサンダーメイジ」
 京史の雷撃だった。リザードマンには効果てきめんだったが、バーサーカーの魔法障壁はわずかしか削れなかった。

「その男、ゾンビパウダーを大量に服薬していて、痛みや恐怖を感じません。物理的に敵を完全無力化する必要があります」
「完全無力化っていっても」
 当摩は冷や汗をかいた。訓練を受けた今だからこそわかる。このバーサーカーという男は凄まじい使い手だ。

「リザードマンは出来るだけ僕の雷撃で倒す。当摩はバーサーカーに集中してくれ」
「う、うん」
 まずは上段に構えて一気に接近、振り下ろす一撃で相手の力量を見る。

 ガイィィン‼
 当摩の強力な一撃でもバーサーカーはビクともしなかった。
(体格的にそこまでの筋力はなさそうだし、受けた際にたいして魔力を使ってない、なのにこの怪力。ゾンビパウダーってやつの効果か)

「ふ――――っ!」
 バーサーカーが反撃してくる。巨大な幅広の剣で袈裟斬けさぎりに来た。反射的に受ける。
 剣が鳴り火花を散らす。
「くぅぅぅっ! 重いっ!」
「当摩! 下がれ」
 全力でバックステップをする。そこへ特大の雷が落ちた。凄まじい轟音ごうおん閃光せんこう

 集まってきていたリザードマンが吹き飛ばされ、バーサーカーの魔法障壁もかなり削れた。
「これが僕の本気の一撃だが、やっぱり倒しきれないか」
「連発は?」
「無理だ」

 ※

(魔王教団、ここで動いたか。狙いはたぶん私だな。ゴーレムを何とかしのいで戦士当摩へ加勢をしたいが)
「エリカちゃん、ここはわたしがおとりになる」
「ダメですよ。奴らの目的は十中八九ジェシカさんです。わたしたちはここで死んでも復活できるんですから」
「だからこそわたしが囮になれば必ず喰いついてくるだろう」
 次の瞬間にはジェシカはもう走り出していた。

「ゴーレムにはemeth(真理)という文字が刻まれている。こいつ隠すつもりもなく額にある。頭の一文字を削ってmeth(死)にすれば土くれにかえる。エリカちゃん頼む」
 ジェシカは歴戦の勇士、魔王教団の使ってくる魔術にも詳しい。
「あ~もう、だから囮はわたしが」
「もう遅いよ」

 ゴーレムが振り下ろしてくる断頭台の刃のような攻撃を、信じられないような身軽さで回避しまくるジェシカにエリカも驚く。
「すっ……凄い、ここまでなんて」
 魔力の総量ではエリカの方が上だが、テクニックはジェシカの方が遥かに上だ。

 ゴーレムは前回の三分の一以下の大きさだった。スピード重視のセッティングをしてあるのだろう、十八メートルの大きさだった時の愚鈍な動きとはキレが全く違う。
 人の身長ほどもある大きな剣で素早い斬撃をくりだしてくるが。
「無駄だっ! 見える」
 ジェシカにその剣はかすりもしなかった。

 しかし。
「逃げてるだけじゃ、いずれ体力が尽きるぞ」
(額の文字を消す以外には、術者を見つけて倒すことが出来ればいいけど、こいつかなり用心して気配を消してる)

 額に汗が浮いてくる。
「まだまだよ」
「突撃します。ジェシカさんは回避を」
 エリカはゴーレムの胴へ強烈な一撃を叩き込む、同じSランクの剣だ。ある程度は効果があるかと思ったが。
「ダメです。かなり硬い」
 力で破壊することは無理そうだ。

 ※

(くそ……こいつ本当にしぶとい。ジェシカさんを守らなきゃいけないのに)
 京史と連携して戦っているがバーサーカーの魔法障壁は削り切れない。
 当摩と京史も障壁の残量がだんだん心もとなくなってくる。

 そしてついに。
「くうっ!」
 大剣が京史の脇腹をかすめ、ぱっと赤く血が滲んだ。
「京史君っ!」
「気にするな、ここで僕がやられても実際に死ぬわけじゃない。こいつさえ倒してしまえばゴーレムの攻撃は当摩には効かない。大事なのはジェシカさんを守ることだ」

「ふふふ」
 バーサーカーが不気味に笑う。
 当摩は剣を正眼に構える。
 バーサーカーは左手に炎を作ると大剣にった。大剣が真っ赤に燃えあがる。
(チャンスだ)

 急速に集中力がまして、敵がスローに見える。この一週間の訓練で当摩は確実に以前より強くなっていた。
(そう……戦いには駆け引きがあるんだ)
 バーサーカーは燃える大剣を上段に振りかぶる。そのまま当摩の頭をめがけて打ち下ろして来た。
 当摩は正眼に構えた剣でそのままバーサーカーの心臓を狙う。

 二人が交叉した。わずかにバーサーカーの剣の方が早い。しかし当摩は迷わずバーサーカーの心臓を狙いに行った。
「当摩――っ!」
 京史が叫ぶ。

「ぶっ……ぶほっ」
 バーサーカーの口から血があふれ出る。バーサーカーの大剣は当摩の頭すれすれの位置で止まっていた。
 剣がまとっている炎は当摩に火傷一つ負わせることも出来なかった。
 そして、当摩の剣は完璧にバーサーカーの心臓を貫いていた。

「そうか……魔法剣だから」
 当摩に魔法は一切効かない。剣に魔法を帯びさせてしまった段階で、もうその攻撃は無効だ。

「ぶっ……ふふふふ……」
 笑いながらバーサーカーは死に、身体が塵にかえっていく。召喚勇者なので実際に死ぬわけではないが、その肉体の再構成には多量の魔力を必要とするだろう。
「よっしっ! 勝利確定」
 わき目もふらず当摩はゴーレムのところへ向かう。

「どうやら、ここまでのようだな。でも、悪いがハーフエルフの命だけは貰っていくよ」
 ガクンッと音がして、糸の切れた操り人形のようにゴーレムが停止する。
「まずいっ! 自爆だっ! 当摩っ!」

(やばいっ! やばいっ!)
 全速力でジェシカの元へ駆け寄る。

 ド――――ンッ!
 京史の雷光よりもさらに大きいような爆発が起きる。真っ赤な火炎が凄まじいスピードで広がってくる。
 すんでのところで当摩はジェシカに覆いかぶさった。

「…………」
「うう……この爆発……魔法じゃなくて爆薬か……」
 当摩の背中は爆発に巻き込まれ酷い有様だった。

「当摩君っ!」
 エリカが駆け寄ってくる。その顔は青ざめていた。
「ジェシカさんは?」
「戦士当摩、わたしなら無事だ。貴殿のおかげで……ありがとう」
「うん、よかった……俺の傷……致命傷だろ? さっきから痛くって痛くって」
「当摩君……」
「エリカちゃん……楽にしてくれ」
 エリカが剣を抜く。その手が震えていた。

「いや、まだ助かる。戦士当摩のため込んだ経験値を失わせることはない」
 ジェシカがベルトのポーチから小瓶こびんを取り出す。
「わたしのなけなしのお金で買った最上級魔法薬エリクサーだ」
「そんな……いけないよジェシカさん」
「何……気にすることはない。戦士当摩はわたしの命の恩人だ」
 ジェシカは瓶の栓を抜いて、当摩の傷に薬をかけた。
「あ……」
 みるみるうちに身体が再生していく。
「う、ううん」

 当摩がゆっくりと立ち上る。
「凄い、もう痛くない」
「鎧とお洋服を新調しないとですね」
 よく見ると当摩の衣服や鎧はボロボロだった。

「はぁ……何か凄く疲れた」
「邪魔な横やりが入ったが、戦士当摩! 見事な戦いぶりだった。最終試験は合格でいいだろう」
「やりましたね当摩君」
「はは……嬉しいけど、なんかフラフラする……あれ?」
 そのまま当摩の意識はブラックアウトしていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件

フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。 寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。 プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い? そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない! スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

不遇な死を迎えた召喚勇者、二度目の人生では魔王退治をスルーして、元の世界で気ままに生きる

六志麻あさ@10シリーズ書籍化
ファンタジー
異世界に召喚され、魔王を倒して世界を救った少年、夏瀬彼方(なつせ・かなた)。 強大な力を持つ彼方を恐れた異世界の人々は、彼を追い立てる。彼方は不遇のうちに数十年を過ごし、老人となって死のうとしていた。 死の直前、現れた女神によって、彼方は二度目の人生を与えられる。異世界で得たチートはそのままに、現実世界の高校生として人生をやり直す彼方。 再び魔王に襲われる異世界を見捨て、彼方は勇者としてのチート能力を存分に使い、快適な生活を始める──。 ※小説家になろうからの転載です。なろう版の方が先行しています。 ※HOTランキング最高4位まで上がりました。ありがとうございます!

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

オークションで競り落とされた巨乳エルフは少年の玩具となる。【完結】

ちゃむにい
恋愛
リリアナは奴隷商人に高く売られて、闇オークションで競りにかけられることになった。まるで踊り子のような露出の高い下着を身に着けたリリアナは手錠をされ、首輪をした。 ※ムーンライトノベルにも掲載しています。

処理中です...