上 下
29 / 41

エリカの力

しおりを挟む
「それじゃあ魔導ゲームブックの写本を作って見せて」
「はい」
 当摩達の学校へ転校して、オカ研に入ったエリカの歓迎会をしていた。いつものごとくテーブルを囲み高級菓子(今日は羊羹)と抹茶をすすっていた。
 神奈、梨花、京史がそれぞれ四つあるソファーへ個々に座り、当摩とエリカが仲良く一つのソファーに座っている。

 神奈はエリカの力を見極めようと、ジョーカーマスターとして犯行のときに使われた写本を作って見せるよう言った。
「当摩、許可を出して」
「うん、いいよ。エリカちゃんやってみて」
「すぅ……はい」
 エリカがトランス状態にはいると、ペンが動き出した。

 フリーハンドでほぼ完璧な真円を描き六芒星を描き、円周に沿って呪文を書き連ねていく。物凄いスピードだ。
 神奈はその様子を興味深げにじっと見ていた。
(やっぱ凄いな、エリカちゃんも)

 そして、十数分後。
「出来ました」
 見事な魔導ゲームブックを作って見せた。

「大したものね。さすがエリゼの妹ね」
「お姉ちゃんに比べれば、わたしなんて全然です」
 十近く歳の離れたエリゼと比べると魔術、頭脳、容姿確かに全てが届かないが、それでもエリカは大した魔術師だった。

「それは三大魔女じゃないから当然ね。でも、もしエリゼが亡くなれば親から引き継いだ魔女の因子はあなたに宿る。そうなればもしかしたらエリゼ以上の魔術師になるかもしれないわよ」
「お姉ちゃんは殺しても絶対死なないような人ですよ」
「そうね、エリゼは三大魔女の中でも最も死から遠い女ね。つまらない情なんて抱かず、常に最も合理的な判断をするものね」
「時間も止められるしね」
「…………そうなの?」
 珍しく神奈がドン引きしていた。

「気を取り直して、さあ、次のテストよ。当摩の運勢を占ってみて、出来るだけ具体的に」
「いいよ。エリカちゃんやってみて」
「はい……いきます」

 再びエリカはトランス状態になった。しかし。
「ペンが動かないね」
「あれっ? あれっ⁉ どうして?」
「やっぱりね」
 神奈はどうやらこうなることを知っていたようだ。

「そう言えば加奈美先生のおみくじも変なノイズになってたな」
 当摩がウンウン頷く。
「こいつ、運命がないのよ」
 神奈の言葉に当摩を除く全員が驚いた。
「それは……どういうことです?」
 京史は眉根をよせて当摩を見た。

「当摩には定まった運命はなく、代わりに無限の可能性があるの」
「そう言えば、殺人の後に自分の運命を占って見たことがあるんですが、近いうちに捕まるか死ぬかするようなことが、はっきりとじゃなくほのめかしのように出ていて。ああ、自分はきっと近いうちに死ぬんだと思ってました。こんな奴隷になるだなんて予想もできなかったです」
「そ、それって良いことなの? 悪いことなの?」
 当摩は冷や汗を浮かせて神奈に訊いた。
「なんとも……言えないわね」

「神奈ちゃんのお守りは効いたんだよね?」
 切った羊かんをパクっと口に入れて梨花が言った。
「う、うん、魔力切れになるまで、賊は俺のことに気が付かなかったし銃弾も当たらなかった」
「なら、お守りの魔力があるうちは、安全と言えるんじゃない」
「そうね……まあ、そう考えるしかないわね」
 神奈はあまり納得がいかない様子だったが同意した。

「なんせ一個五億円のお守りだからな」
 京史の言葉に当摩は青くなった。
「そういえば、そうだった」
「それなりに手間がかかっているから大事に使いなさい」
 ウンウンと当摩はせわしなく首を縦に振った。

「今日、わたしは与野党の政治家に無病息災の魔術を施すから、今日はこれで解散。エリカは当摩の剣を見てやって」
「はいっ!」
 元気いっぱいの声でエリカは応えた。

 ※

「ええっ! エリカちゃんって女子剣道全国大会で準優勝だったんだ」
 異世界グレイルの街の中央広場で待ち合わせた当摩とエリカと京史、雑談を交えて目的の場所へ向かうところでそんな話題になった。

「はい、神坂さんという古流剣術もやっている方がいて、その方には到底及びませんが、子供のころから剣を振るっています」
「京史君みたいな魔法は使えないの?」
「わたしの魔術は占術だけなんです。だから戦闘では剣を使います」
「そっか、でも魔力は強いんだよね?」
「一応Sランクの冒険者です」
「S! 凄いっ!」
(エリカちゃんってやっぱ魔女の一族だよな)

「神奈ちゃんは初めて異世界に降り立った小学校低学年の時にすでにSを超えていましたよ」
「ぶほっ! さすが神奈ちゃん」
「当摩もA+だから僕と互角くらいだ。この短期間で恐ろしい成長をしてるんだぞ」
 と京史も口を挟む。
「う、うん。ちょっと前までFランクだったのにね」
「Fランク? それはいつのことですか?」
「今年の春先くらいかな」
「当摩君も十分ただ者ではないですね」
 エリカの当摩を見る目が少し変わった。
「本当に……当摩君って何者ですか?」
「う~ん、よく解らん」
 しばし、三人で沈黙してしまった。

「えっと……気を取り直して、今日は当摩君の剣の訓練です」
「モンスターを狩るの?」
「たしかにモンスターを狩るのは魔力強化にもなりますし、訓練の基本ですが、今日は剣を扱う技術そのものの訓練です」
 エリカはすうっと息を吸ってから言った。
「まず、基本的な斬撃の型、剣の扱いはわたしが教えます。脚はこびやフットワークなんかは京史君が、実戦形式の試合をこれから向かう先で待っているコーチにお願いします。わたしたちより遥かに長く生きていて、百戦錬磨の達人です」

 エリカはそれだけ言うと、広場の片隅にある馬車乗り場で魔導馬車に乗った。機械仕掛けの馬が引く馬車でけっこう豪華な内装だった。
 当摩も続けて乗る。シートはなかなかの座り心地だ。後から京史も乗ってくる。

「その……これから向かう場所って?」
「アプリコッビーという、ハーフエルフの村です」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件

フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。 寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。 プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い? そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない! スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。

不遇な死を迎えた召喚勇者、二度目の人生では魔王退治をスルーして、元の世界で気ままに生きる

六志麻あさ@10シリーズ書籍化
ファンタジー
異世界に召喚され、魔王を倒して世界を救った少年、夏瀬彼方(なつせ・かなた)。 強大な力を持つ彼方を恐れた異世界の人々は、彼を追い立てる。彼方は不遇のうちに数十年を過ごし、老人となって死のうとしていた。 死の直前、現れた女神によって、彼方は二度目の人生を与えられる。異世界で得たチートはそのままに、現実世界の高校生として人生をやり直す彼方。 再び魔王に襲われる異世界を見捨て、彼方は勇者としてのチート能力を存分に使い、快適な生活を始める──。 ※小説家になろうからの転載です。なろう版の方が先行しています。 ※HOTランキング最高4位まで上がりました。ありがとうございます!

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

[完結済み]男女比1対99の貞操観念が逆転した世界での日常が狂いまくっている件

森 拓也
キャラ文芸
俺、緒方 悟(おがた さとる)は意識を取り戻したら男女比1対99の貞操観念が逆転した世界にいた。そこでは男が稀少であり、何よりも尊重されていて、俺も例外ではなかった。 学校の中も、男子生徒が数人しかいないからまるで雰囲気が違う。廊下を歩いてても、女子たちの声だけが聞こえてくる。まるで別の世界みたいに。 そんな中でも俺の周りには優しいな女子たちがたくさんいる。特に、幼馴染の美羽はずっと俺のことを気にかけてくれているみたいで……

オークションで競り落とされた巨乳エルフは少年の玩具となる。【完結】

ちゃむにい
恋愛
リリアナは奴隷商人に高く売られて、闇オークションで競りにかけられることになった。まるで踊り子のような露出の高い下着を身に着けたリリアナは手錠をされ、首輪をした。 ※ムーンライトノベルにも掲載しています。

処理中です...