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エリカの力
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「それじゃあ魔導ゲームブックの写本を作って見せて」
「はい」
当摩達の学校へ転校して、オカ研に入ったエリカの歓迎会をしていた。いつものごとくテーブルを囲み高級菓子(今日は羊羹)と抹茶をすすっていた。
神奈、梨花、京史がそれぞれ四つあるソファーへ個々に座り、当摩とエリカが仲良く一つのソファーに座っている。
神奈はエリカの力を見極めようと、ジョーカーマスターとして犯行のときに使われた写本を作って見せるよう言った。
「当摩、許可を出して」
「うん、いいよ。エリカちゃんやってみて」
「すぅ……はい」
エリカがトランス状態にはいると、ペンが動き出した。
フリーハンドでほぼ完璧な真円を描き六芒星を描き、円周に沿って呪文を書き連ねていく。物凄いスピードだ。
神奈はその様子を興味深げにじっと見ていた。
(やっぱ凄いな、エリカちゃんも)
そして、十数分後。
「出来ました」
見事な魔導ゲームブックを作って見せた。
「大したものね。さすがエリゼの妹ね」
「お姉ちゃんに比べれば、わたしなんて全然です」
十近く歳の離れたエリゼと比べると魔術、頭脳、容姿確かに全てが届かないが、それでもエリカは大した魔術師だった。
「それは三大魔女じゃないから当然ね。でも、もしエリゼが亡くなれば親から引き継いだ魔女の因子はあなたに宿る。そうなればもしかしたらエリゼ以上の魔術師になるかもしれないわよ」
「お姉ちゃんは殺しても絶対死なないような人ですよ」
「そうね、エリゼは三大魔女の中でも最も死から遠い女ね。つまらない情なんて抱かず、常に最も合理的な判断をするものね」
「時間も止められるしね」
「…………そうなの?」
珍しく神奈がドン引きしていた。
「気を取り直して、さあ、次のテストよ。当摩の運勢を占ってみて、出来るだけ具体的に」
「いいよ。エリカちゃんやってみて」
「はい……いきます」
再びエリカはトランス状態になった。しかし。
「ペンが動かないね」
「あれっ? あれっ⁉ どうして?」
「やっぱりね」
神奈はどうやらこうなることを知っていたようだ。
「そう言えば加奈美先生のおみくじも変なノイズになってたな」
当摩がウンウン頷く。
「こいつ、運命がないのよ」
神奈の言葉に当摩を除く全員が驚いた。
「それは……どういうことです?」
京史は眉根をよせて当摩を見た。
「当摩には定まった運命はなく、代わりに無限の可能性があるの」
「そう言えば、殺人の後に自分の運命を占って見たことがあるんですが、近いうちに捕まるか死ぬかするようなことが、はっきりとじゃなく仄めかしのように出ていて。ああ、自分はきっと近いうちに死ぬんだと思ってました。こんな奴隷になるだなんて予想もできなかったです」
「そ、それって良いことなの? 悪いことなの?」
当摩は冷や汗を浮かせて神奈に訊いた。
「なんとも……言えないわね」
「神奈ちゃんのお守りは効いたんだよね?」
切った羊かんをパクっと口に入れて梨花が言った。
「う、うん、魔力切れになるまで、賊は俺のことに気が付かなかったし銃弾も当たらなかった」
「なら、お守りの魔力があるうちは、安全と言えるんじゃない」
「そうね……まあ、そう考えるしかないわね」
神奈はあまり納得がいかない様子だったが同意した。
「なんせ一個五億円のお守りだからな」
京史の言葉に当摩は青くなった。
「そういえば、そうだった」
「それなりに手間がかかっているから大事に使いなさい」
ウンウンと当摩は忙しなく首を縦に振った。
「今日、わたしは与野党の政治家に無病息災の魔術を施すから、今日はこれで解散。エリカは当摩の剣を見てやって」
「はいっ!」
元気いっぱいの声でエリカは応えた。
※
「ええっ! エリカちゃんって女子剣道全国大会で準優勝だったんだ」
異世界の街の中央広場で待ち合わせた当摩とエリカと京史、雑談を交えて目的の場所へ向かうところでそんな話題になった。
「はい、神坂さんという古流剣術もやっている方がいて、その方には到底及びませんが、子供のころから剣を振るっています」
「京史君みたいな魔法は使えないの?」
「わたしの魔術は占術だけなんです。だから戦闘では剣を使います」
「そっか、でも魔力は強いんだよね?」
「一応Sランクの冒険者です」
「S! 凄いっ!」
(エリカちゃんってやっぱ魔女の一族だよな)
「神奈ちゃんは初めて異世界に降り立った小学校低学年の時にすでにSを超えていましたよ」
「ぶほっ! さすが神奈ちゃん」
「当摩もA+だから僕と互角くらいだ。この短期間で恐ろしい成長をしてるんだぞ」
と京史も口を挟む。
「う、うん。ちょっと前までFランクだったのにね」
「Fランク? それはいつのことですか?」
「今年の春先くらいかな」
「当摩君も十分ただ者ではないですね」
エリカの当摩を見る目が少し変わった。
「本当に……当摩君って何者ですか?」
「う~ん、よく解らん」
しばし、三人で沈黙してしまった。
「えっと……気を取り直して、今日は当摩君の剣の訓練です」
「モンスターを狩るの?」
「たしかにモンスターを狩るのは魔力強化にもなりますし、訓練の基本ですが、今日は剣を扱う技術そのものの訓練です」
エリカはすうっと息を吸ってから言った。
「まず、基本的な斬撃の型、剣の扱いはわたしが教えます。脚はこびやフットワークなんかは京史君が、実戦形式の試合をこれから向かう先で待っているコーチにお願いします。わたしたちより遥かに長く生きていて、百戦錬磨の達人です」
エリカはそれだけ言うと、広場の片隅にある馬車乗り場で魔導馬車に乗った。機械仕掛けの馬が引く馬車でけっこう豪華な内装だった。
当摩も続けて乗る。シートはなかなかの座り心地だ。後から京史も乗ってくる。
「その……これから向かう場所って?」
「アプリコッビーという、ハーフエルフの村です」
「はい」
当摩達の学校へ転校して、オカ研に入ったエリカの歓迎会をしていた。いつものごとくテーブルを囲み高級菓子(今日は羊羹)と抹茶をすすっていた。
神奈、梨花、京史がそれぞれ四つあるソファーへ個々に座り、当摩とエリカが仲良く一つのソファーに座っている。
神奈はエリカの力を見極めようと、ジョーカーマスターとして犯行のときに使われた写本を作って見せるよう言った。
「当摩、許可を出して」
「うん、いいよ。エリカちゃんやってみて」
「すぅ……はい」
エリカがトランス状態にはいると、ペンが動き出した。
フリーハンドでほぼ完璧な真円を描き六芒星を描き、円周に沿って呪文を書き連ねていく。物凄いスピードだ。
神奈はその様子を興味深げにじっと見ていた。
(やっぱ凄いな、エリカちゃんも)
そして、十数分後。
「出来ました」
見事な魔導ゲームブックを作って見せた。
「大したものね。さすがエリゼの妹ね」
「お姉ちゃんに比べれば、わたしなんて全然です」
十近く歳の離れたエリゼと比べると魔術、頭脳、容姿確かに全てが届かないが、それでもエリカは大した魔術師だった。
「それは三大魔女じゃないから当然ね。でも、もしエリゼが亡くなれば親から引き継いだ魔女の因子はあなたに宿る。そうなればもしかしたらエリゼ以上の魔術師になるかもしれないわよ」
「お姉ちゃんは殺しても絶対死なないような人ですよ」
「そうね、エリゼは三大魔女の中でも最も死から遠い女ね。つまらない情なんて抱かず、常に最も合理的な判断をするものね」
「時間も止められるしね」
「…………そうなの?」
珍しく神奈がドン引きしていた。
「気を取り直して、さあ、次のテストよ。当摩の運勢を占ってみて、出来るだけ具体的に」
「いいよ。エリカちゃんやってみて」
「はい……いきます」
再びエリカはトランス状態になった。しかし。
「ペンが動かないね」
「あれっ? あれっ⁉ どうして?」
「やっぱりね」
神奈はどうやらこうなることを知っていたようだ。
「そう言えば加奈美先生のおみくじも変なノイズになってたな」
当摩がウンウン頷く。
「こいつ、運命がないのよ」
神奈の言葉に当摩を除く全員が驚いた。
「それは……どういうことです?」
京史は眉根をよせて当摩を見た。
「当摩には定まった運命はなく、代わりに無限の可能性があるの」
「そう言えば、殺人の後に自分の運命を占って見たことがあるんですが、近いうちに捕まるか死ぬかするようなことが、はっきりとじゃなく仄めかしのように出ていて。ああ、自分はきっと近いうちに死ぬんだと思ってました。こんな奴隷になるだなんて予想もできなかったです」
「そ、それって良いことなの? 悪いことなの?」
当摩は冷や汗を浮かせて神奈に訊いた。
「なんとも……言えないわね」
「神奈ちゃんのお守りは効いたんだよね?」
切った羊かんをパクっと口に入れて梨花が言った。
「う、うん、魔力切れになるまで、賊は俺のことに気が付かなかったし銃弾も当たらなかった」
「なら、お守りの魔力があるうちは、安全と言えるんじゃない」
「そうね……まあ、そう考えるしかないわね」
神奈はあまり納得がいかない様子だったが同意した。
「なんせ一個五億円のお守りだからな」
京史の言葉に当摩は青くなった。
「そういえば、そうだった」
「それなりに手間がかかっているから大事に使いなさい」
ウンウンと当摩は忙しなく首を縦に振った。
「今日、わたしは与野党の政治家に無病息災の魔術を施すから、今日はこれで解散。エリカは当摩の剣を見てやって」
「はいっ!」
元気いっぱいの声でエリカは応えた。
※
「ええっ! エリカちゃんって女子剣道全国大会で準優勝だったんだ」
異世界の街の中央広場で待ち合わせた当摩とエリカと京史、雑談を交えて目的の場所へ向かうところでそんな話題になった。
「はい、神坂さんという古流剣術もやっている方がいて、その方には到底及びませんが、子供のころから剣を振るっています」
「京史君みたいな魔法は使えないの?」
「わたしの魔術は占術だけなんです。だから戦闘では剣を使います」
「そっか、でも魔力は強いんだよね?」
「一応Sランクの冒険者です」
「S! 凄いっ!」
(エリカちゃんってやっぱ魔女の一族だよな)
「神奈ちゃんは初めて異世界に降り立った小学校低学年の時にすでにSを超えていましたよ」
「ぶほっ! さすが神奈ちゃん」
「当摩もA+だから僕と互角くらいだ。この短期間で恐ろしい成長をしてるんだぞ」
と京史も口を挟む。
「う、うん。ちょっと前までFランクだったのにね」
「Fランク? それはいつのことですか?」
「今年の春先くらいかな」
「当摩君も十分ただ者ではないですね」
エリカの当摩を見る目が少し変わった。
「本当に……当摩君って何者ですか?」
「う~ん、よく解らん」
しばし、三人で沈黙してしまった。
「えっと……気を取り直して、今日は当摩君の剣の訓練です」
「モンスターを狩るの?」
「たしかにモンスターを狩るのは魔力強化にもなりますし、訓練の基本ですが、今日は剣を扱う技術そのものの訓練です」
エリカはすうっと息を吸ってから言った。
「まず、基本的な斬撃の型、剣の扱いはわたしが教えます。脚はこびやフットワークなんかは京史君が、実戦形式の試合をこれから向かう先で待っているコーチにお願いします。わたしたちより遥かに長く生きていて、百戦錬磨の達人です」
エリカはそれだけ言うと、広場の片隅にある馬車乗り場で魔導馬車に乗った。機械仕掛けの馬が引く馬車でけっこう豪華な内装だった。
当摩も続けて乗る。シートはなかなかの座り心地だ。後から京史も乗ってくる。
「その……これから向かう場所って?」
「アプリコッビーという、ハーフエルフの村です」
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