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趣味の悪い食べ物屋
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神奈と当摩は異世界の料理屋である人物をじっと待っていた。表通りには人がたくさんいるのにこの店はガラガラだ。
木で出来た簡素な店には、例えようのない変な臭いがした。
「神奈ちゃんの飲んでるお茶はどんな味?」
「飲んでみる?」
神奈の飲んでいるお茶はよくわからない虫を炙って煎じたお茶らしい。
当摩が飲んでいる薬草ティーはなんとも嫌ぁな苦みが舌を刺激する、かなり不味いお茶だった。
「なんだってこんな趣味の悪い店に呼びつけるのよアイツ、嫌がらせ?」
神奈の機嫌がだんだん悪くなる。当摩も別口からジョーカーマスターを捜査している、梨花と京史について行けばよかったと後悔した。
店のドアが開きベルが鳴る。その時入ってきた女性を見て、当摩は思わず感嘆の声を上げた。
ショートにまとめられた銀の髪、整った目鼻立ちは名工が創った彫像のようだ。神奈と比べれば胸は小さいが、すごく良いスタイルをしている。
黒を中心とした身体つきがよく解るピッタリとしたスーツを着こなして、髪の銀と服の黒がよくマッチしている。
すごく幻想的な美女だった。
「遅いわ、エリゼ」
「ごめんなさい、神奈」
「また寝坊?」
「そのようなものね」
エリゼと呼ばれた女性は悪びれた様子など微塵もなく、ツカツカと歩いてきてテーブルについた。
「いつものやつを」
コップに入った水を持ってきたギャルソンにエリゼは一言だけそう言った。彼は小さく頷くと、調理場にオーダーを出した。
「さっそく、訊きたいんだけど」
「料理がまだ」
神奈がピタリと黙る。額に青筋が浮かんでいて、当摩は冷やりとした。
(さ、さすが灰の魔女、神奈ちゃんにこんな扱いをする人初めて見た)
しばらくして運んでこられた料理を見て当摩はぎょっとした。
イモリの黒焼きと蛆がわいたチーズだった。
(うわぁ、凄いもの食うな)
「その料理、異世界にもあるのね」
神奈が軽蔑した目でエリゼを見る。
「食べる?」
「結構よ」
エリゼは神奈の恐るべき魔眼の視線など全く意に介さないようで、平然と料理を食べた。
料理をつまみながら、やっとエリゼは神奈を見た。
「で、この魔導ゲームブックなんだけど」
神奈が取り出したのは表紙に魔法陣が描かれているが、普通のスケッチブックの様なものだった。
「それ、よく書いたわね。大変じゃなかった?」
「わたしが書いたんじゃないわよ」
「これ、自動書記ね」
さっきまで無表情だったエリゼがその魔導ゲームブックには興味を抱いたようで、スケッチブックを手に取りジロジロと眺めた。
自動書記とは霊媒やそれに類するものが、無意識に有意味な文章や絵を描く能力のことを指す。
「スケッチブックはどこの文具店やスーパーとかでも簡単に手に入るやつで、かなり普及している普通のボールペンで書いたみたいなのよ」
「自動書記が出来る魔術師は、ロンドンのアカデミーにも何人かいるけど、ここまでのことが出来る奴はいないわね」
「通常の魔導ゲームブックだと、魔術刻印がされているから出どころが解るけど、これじゃあどこで作られたか解らないのよ」
灰の魔女エリゼはロンドン魔術アカデミーを率いている三大魔女の一人で魔導ゲームブックの製造を手掛けるゴールデンドーン社の実質的なオーナーだ。
「で、このゲームブックがどうしたの?」
「今、日本を騒がせている連続テロ事件の犯人が残した遺留品よ」
「へえ、まさかあの子かしら」
「犯人に心当たりがあるの?」
「さあ、どうかしら」
エリゼはあごに手を当て、少し考えるしぐさをした。
「殺された人間はどんなやつ?」
「日本の財〇官僚とそのOBそして、緊縮財政派の政治家とマスコミの御用学者よ」
「ああ……あの失われた三十年とやらの原因になった」
「そう」
突然エリゼがくつくつと笑いだした。
「正義感の強いあの娘が考えそうなこと、馬鹿ねそんなテロを魔術で行える人間なんて世界に数人しかいないんだから、よほど腹に据えかねたのね」
「どういうこと?」
エリゼの雰囲気が急に変わる。それから滔々と話し始めた。
昔々っていってもそれほど昔ではないけど、ある偉い政治家とその人を父のように慕う女の子がいました。
二人は血こそ繋がっていないけど、本当の親子のように仲良しでした。
政治家のお父様は魔術師の血が欲しくて、女の子を養子にしたの。そのお父様は正論を堂々とぶつける人で、将来の総理候補と言われるほど有能だったわ。
しかし、時の最高権力省庁のいうことをなかなか聞かない、偉い政治家のお父様はある日、策略にかけられてしまいます。
大事な会議を控えたある日の昼食の時間、官僚が政治家にしきりにお酒を勧めて酔わせたの。
会議の後の記者会見で酩酊していた政治家は、もの凄いバッシングを浴びたの。
そして次の選挙では落選してしまった。失意の後、自殺ではないかと疑われる死に方をしてこの世を去ったわ。
そしたらお酒を勧めた官僚はどうなったと思う?
これが物凄い勢いで出世したのよ。本来だったら汚点になるはずじゃない?
自分たちの言うことを聞かない政治家を手段を選ばずに失墜させれば、それが手柄になるのよ。なかなかに腐った話じゃない?
当時十歳にも満たないその女の子は涙ながらに復讐を誓っていたわ。
皿に残っていた最後の蛆虫をつまんで食べ、ネコのおしっこの匂いがするワインでそれを流しこんで、エリゼはナプキンで口を拭った。
「で、その女の子って誰なの?」
「わたしの妹よエリカって言うの」
木で出来た簡素な店には、例えようのない変な臭いがした。
「神奈ちゃんの飲んでるお茶はどんな味?」
「飲んでみる?」
神奈の飲んでいるお茶はよくわからない虫を炙って煎じたお茶らしい。
当摩が飲んでいる薬草ティーはなんとも嫌ぁな苦みが舌を刺激する、かなり不味いお茶だった。
「なんだってこんな趣味の悪い店に呼びつけるのよアイツ、嫌がらせ?」
神奈の機嫌がだんだん悪くなる。当摩も別口からジョーカーマスターを捜査している、梨花と京史について行けばよかったと後悔した。
店のドアが開きベルが鳴る。その時入ってきた女性を見て、当摩は思わず感嘆の声を上げた。
ショートにまとめられた銀の髪、整った目鼻立ちは名工が創った彫像のようだ。神奈と比べれば胸は小さいが、すごく良いスタイルをしている。
黒を中心とした身体つきがよく解るピッタリとしたスーツを着こなして、髪の銀と服の黒がよくマッチしている。
すごく幻想的な美女だった。
「遅いわ、エリゼ」
「ごめんなさい、神奈」
「また寝坊?」
「そのようなものね」
エリゼと呼ばれた女性は悪びれた様子など微塵もなく、ツカツカと歩いてきてテーブルについた。
「いつものやつを」
コップに入った水を持ってきたギャルソンにエリゼは一言だけそう言った。彼は小さく頷くと、調理場にオーダーを出した。
「さっそく、訊きたいんだけど」
「料理がまだ」
神奈がピタリと黙る。額に青筋が浮かんでいて、当摩は冷やりとした。
(さ、さすが灰の魔女、神奈ちゃんにこんな扱いをする人初めて見た)
しばらくして運んでこられた料理を見て当摩はぎょっとした。
イモリの黒焼きと蛆がわいたチーズだった。
(うわぁ、凄いもの食うな)
「その料理、異世界にもあるのね」
神奈が軽蔑した目でエリゼを見る。
「食べる?」
「結構よ」
エリゼは神奈の恐るべき魔眼の視線など全く意に介さないようで、平然と料理を食べた。
料理をつまみながら、やっとエリゼは神奈を見た。
「で、この魔導ゲームブックなんだけど」
神奈が取り出したのは表紙に魔法陣が描かれているが、普通のスケッチブックの様なものだった。
「それ、よく書いたわね。大変じゃなかった?」
「わたしが書いたんじゃないわよ」
「これ、自動書記ね」
さっきまで無表情だったエリゼがその魔導ゲームブックには興味を抱いたようで、スケッチブックを手に取りジロジロと眺めた。
自動書記とは霊媒やそれに類するものが、無意識に有意味な文章や絵を描く能力のことを指す。
「スケッチブックはどこの文具店やスーパーとかでも簡単に手に入るやつで、かなり普及している普通のボールペンで書いたみたいなのよ」
「自動書記が出来る魔術師は、ロンドンのアカデミーにも何人かいるけど、ここまでのことが出来る奴はいないわね」
「通常の魔導ゲームブックだと、魔術刻印がされているから出どころが解るけど、これじゃあどこで作られたか解らないのよ」
灰の魔女エリゼはロンドン魔術アカデミーを率いている三大魔女の一人で魔導ゲームブックの製造を手掛けるゴールデンドーン社の実質的なオーナーだ。
「で、このゲームブックがどうしたの?」
「今、日本を騒がせている連続テロ事件の犯人が残した遺留品よ」
「へえ、まさかあの子かしら」
「犯人に心当たりがあるの?」
「さあ、どうかしら」
エリゼはあごに手を当て、少し考えるしぐさをした。
「殺された人間はどんなやつ?」
「日本の財〇官僚とそのOBそして、緊縮財政派の政治家とマスコミの御用学者よ」
「ああ……あの失われた三十年とやらの原因になった」
「そう」
突然エリゼがくつくつと笑いだした。
「正義感の強いあの娘が考えそうなこと、馬鹿ねそんなテロを魔術で行える人間なんて世界に数人しかいないんだから、よほど腹に据えかねたのね」
「どういうこと?」
エリゼの雰囲気が急に変わる。それから滔々と話し始めた。
昔々っていってもそれほど昔ではないけど、ある偉い政治家とその人を父のように慕う女の子がいました。
二人は血こそ繋がっていないけど、本当の親子のように仲良しでした。
政治家のお父様は魔術師の血が欲しくて、女の子を養子にしたの。そのお父様は正論を堂々とぶつける人で、将来の総理候補と言われるほど有能だったわ。
しかし、時の最高権力省庁のいうことをなかなか聞かない、偉い政治家のお父様はある日、策略にかけられてしまいます。
大事な会議を控えたある日の昼食の時間、官僚が政治家にしきりにお酒を勧めて酔わせたの。
会議の後の記者会見で酩酊していた政治家は、もの凄いバッシングを浴びたの。
そして次の選挙では落選してしまった。失意の後、自殺ではないかと疑われる死に方をしてこの世を去ったわ。
そしたらお酒を勧めた官僚はどうなったと思う?
これが物凄い勢いで出世したのよ。本来だったら汚点になるはずじゃない?
自分たちの言うことを聞かない政治家を手段を選ばずに失墜させれば、それが手柄になるのよ。なかなかに腐った話じゃない?
当時十歳にも満たないその女の子は涙ながらに復讐を誓っていたわ。
皿に残っていた最後の蛆虫をつまんで食べ、ネコのおしっこの匂いがするワインでそれを流しこんで、エリゼはナプキンで口を拭った。
「で、その女の子って誰なの?」
「わたしの妹よエリカって言うの」
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