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ジョーカーマスター
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「ジョーカーマスター?」
本日のオカ研活動をしていた部室で神奈がその名前を挙げた。部室には神奈、当摩に梨花と京史とメンバーは揃っていた。
いつものようにテーブルを囲み、財界のお偉いさんからもらった超高級和菓子を食べながら水出しのほうじ茶を飲んでいた。
梅雨が明け段々と暑くなり始めたこの頃、こんな気温によく合う水まんじゅうを食べ一同は舌鼓をうつ。
「それって例の連続テロ事件の?」
梨花が訊く。
「そう、ここ最近起こっている政治家や官僚を狙ったテロ事件、その首謀者とされるのがジョーカーマスターよ」
卑劣なテロの首謀者に正義感の強い神奈はさぞお怒りだろうと思っていたが、涼しい顔をしていた。
「神奈ちゃんなら引きずり出して、ぶち殺す~とか言うかと思った」
と、当摩が言うと。
「ま、殺された側も、自殺者という形で何人、下手すりゃ何万人もの命を奪ってきたクズだから。でも、総理が頭を下げたから、渋々協力はするけどね」
「その殺された人って?」
当摩が恐る恐る訊いた。
「現役財〇官僚とOBが五人と緊縮財政派の与党政治家三人、マスコミの御用学者が二人ね。もう十人殺しているわ」
「次の標的は民間議員とかいって政府中枢に入り込んで好き勝手したH〇氏なんじゃないかってのが民衆の予測」
「そ、そうなんだ。そいつらって悪い奴なの?」
「悪い奴というよりは権力の亡者ってところかしら、いずれわたしが政界にデビューしたら財〇省は解体して財政破綻論者は残さず政界から叩き出すつもりだったけどね」
「か、神奈ちゃん政治家を目指してたんだ?」
「目指す?」
神奈の眉間にしわが寄る。
「あのね当摩、わたしにとって衆議院の選挙に当選することはね、ドラクエでいったらスライムを倒すようなものなの。実質日本の最高権力と言われる財〇省を解体するのは、腐った死体を倒すようなものかしら、あまい息に気をつけとけば問題なしって感じね」
(さすがに世界征服を目指しているだけはあるな、恐ろしい)
冗談のように聞こえるが、神奈の大魔術を見た人間は本気で神奈を現人神だと思う人も少なからずいる。
「今、自分もテロの標的にされることに身に覚えのある人間はがっちり閉じこもって震えているわ。本来だったらガードが固すぎて、まず暗殺なんかできそうもない人間がちょっとした油断からポロポロ死んでるの」
「そうなんだ。どんな感じなの?」
そうねえと神奈はあごに手を当て、しばし考えて。
「偶然入ったコンビニのトイレでいきなり刺されたり、運転手が居眠りしている間に車へ爆弾を仕掛けられたり、スーパーで買ったお弁当がドンピシャで毒入りだったり」
「それはやっぱり魔術を使ってるのかな?」
神奈は首肯した。
「ただ、呪殺の類ではなく占術でしょうね。わたしの見立てでは恐らく自動書記、術者の魂がアカシックレコードに繋がっているんじゃないかと予測しているわ」
「と、いうと」
「占いだけなら三大魔女クラスかそれ以上、これほどの占術を扱える人間は限られてくるけど、占術は逃げを打つには最高の魔術だから捕まえるのはメンドイわよ」
「そっか……まずはどうするの?」
「刑務所にいるジョーカーの一人を尋問するわ」
※
「もう、死のうと思ってたんだ」
刑務所の面会室には神奈が座り、強化ガラスを挟んで向かいには顔色の悪い神経質そうな男がいた。男は髪を短く刈り込み、グレーの囚人服を着ていた。当摩は神奈の脇に立つ。
「俺、漫画家になりたくて、良いとこまでいったんだ。でも雑誌が売れなくて金が、とにかく金がなかった。そのうち出版社も潰れて、俺は路頭に迷ったんだ」
「それで?」
「そしたら魔導ゲームブックを拾った。公園のベンチに置いてあったんだ。魔導ゲームブックなんて買う金なかったから、そっと持ち去ったんだ」
虚ろだった男の目に光が宿っていく。
「そこで会ったんだ。マスターに十八くらいの……そう、どことなくあんたみたいな女の子だった。綺麗な娘でさ、飯をいっぱいおごってくれた。娼館でさ女もおごってくれたんだ。リアルの世界でもどこに行けばボランティアが飯を食わせてくれるかも教えてくれて。ああ、あなたは神かそれとも天使ですか? って聞いたんだ」
神奈は男の話を黙って聞いて、「続けて」と先を促す。
「マスターは教えてくれたんだ。日本には権力欲に憑りつかれて、みんなの購買力を奪っていって、貧乏に追い込んでいる奴らがいるって、そいつらがいなければ俺は普通に漫画家として食っていけたんだって」
「あなたはコンビニのトイレに偶然居合わせた財〇官僚の男を刺殺しているわね。どうやって相手がターゲットだと知ったの?」
男は妙に幸せそうな顔でうんうんと頷いた。
「俺はただ、何月何日の何時にあそこのコンビニのトイレに入って、数分後に入ってきた男を刺し殺せって言われただけだよ。それがドンピシャ悪の官僚だったわけだよ。凄いだろ? マスターは」
「指示は全部異世界で受けたのね?」
「ああ、俺が異世界に転移したら、場所と時間も知ってたみたいにマスターは現れたんだ。美味い飯屋に連れていかれて、お願いがあるって頼まれたんだ。どうせ死のうとしてた命だ。あんな優しくて美しい人のためだったら、俺はなんでもできると思ったね」
「そう、参考になったわ。もういいわ、ありがとう」
「マスターを捕まえようとしても無駄だぜ、なんでも解るんだ。あんたの捜査も見切られてるぜ」
「ははは……あははは」
男は立ち去る神奈を見て乾いた笑いを上げた。当摩は神奈の横顔をみたが、その表情からは何を考えているのか窺えなかった。
本日のオカ研活動をしていた部室で神奈がその名前を挙げた。部室には神奈、当摩に梨花と京史とメンバーは揃っていた。
いつものようにテーブルを囲み、財界のお偉いさんからもらった超高級和菓子を食べながら水出しのほうじ茶を飲んでいた。
梅雨が明け段々と暑くなり始めたこの頃、こんな気温によく合う水まんじゅうを食べ一同は舌鼓をうつ。
「それって例の連続テロ事件の?」
梨花が訊く。
「そう、ここ最近起こっている政治家や官僚を狙ったテロ事件、その首謀者とされるのがジョーカーマスターよ」
卑劣なテロの首謀者に正義感の強い神奈はさぞお怒りだろうと思っていたが、涼しい顔をしていた。
「神奈ちゃんなら引きずり出して、ぶち殺す~とか言うかと思った」
と、当摩が言うと。
「ま、殺された側も、自殺者という形で何人、下手すりゃ何万人もの命を奪ってきたクズだから。でも、総理が頭を下げたから、渋々協力はするけどね」
「その殺された人って?」
当摩が恐る恐る訊いた。
「現役財〇官僚とOBが五人と緊縮財政派の与党政治家三人、マスコミの御用学者が二人ね。もう十人殺しているわ」
「次の標的は民間議員とかいって政府中枢に入り込んで好き勝手したH〇氏なんじゃないかってのが民衆の予測」
「そ、そうなんだ。そいつらって悪い奴なの?」
「悪い奴というよりは権力の亡者ってところかしら、いずれわたしが政界にデビューしたら財〇省は解体して財政破綻論者は残さず政界から叩き出すつもりだったけどね」
「か、神奈ちゃん政治家を目指してたんだ?」
「目指す?」
神奈の眉間にしわが寄る。
「あのね当摩、わたしにとって衆議院の選挙に当選することはね、ドラクエでいったらスライムを倒すようなものなの。実質日本の最高権力と言われる財〇省を解体するのは、腐った死体を倒すようなものかしら、あまい息に気をつけとけば問題なしって感じね」
(さすがに世界征服を目指しているだけはあるな、恐ろしい)
冗談のように聞こえるが、神奈の大魔術を見た人間は本気で神奈を現人神だと思う人も少なからずいる。
「今、自分もテロの標的にされることに身に覚えのある人間はがっちり閉じこもって震えているわ。本来だったらガードが固すぎて、まず暗殺なんかできそうもない人間がちょっとした油断からポロポロ死んでるの」
「そうなんだ。どんな感じなの?」
そうねえと神奈はあごに手を当て、しばし考えて。
「偶然入ったコンビニのトイレでいきなり刺されたり、運転手が居眠りしている間に車へ爆弾を仕掛けられたり、スーパーで買ったお弁当がドンピシャで毒入りだったり」
「それはやっぱり魔術を使ってるのかな?」
神奈は首肯した。
「ただ、呪殺の類ではなく占術でしょうね。わたしの見立てでは恐らく自動書記、術者の魂がアカシックレコードに繋がっているんじゃないかと予測しているわ」
「と、いうと」
「占いだけなら三大魔女クラスかそれ以上、これほどの占術を扱える人間は限られてくるけど、占術は逃げを打つには最高の魔術だから捕まえるのはメンドイわよ」
「そっか……まずはどうするの?」
「刑務所にいるジョーカーの一人を尋問するわ」
※
「もう、死のうと思ってたんだ」
刑務所の面会室には神奈が座り、強化ガラスを挟んで向かいには顔色の悪い神経質そうな男がいた。男は髪を短く刈り込み、グレーの囚人服を着ていた。当摩は神奈の脇に立つ。
「俺、漫画家になりたくて、良いとこまでいったんだ。でも雑誌が売れなくて金が、とにかく金がなかった。そのうち出版社も潰れて、俺は路頭に迷ったんだ」
「それで?」
「そしたら魔導ゲームブックを拾った。公園のベンチに置いてあったんだ。魔導ゲームブックなんて買う金なかったから、そっと持ち去ったんだ」
虚ろだった男の目に光が宿っていく。
「そこで会ったんだ。マスターに十八くらいの……そう、どことなくあんたみたいな女の子だった。綺麗な娘でさ、飯をいっぱいおごってくれた。娼館でさ女もおごってくれたんだ。リアルの世界でもどこに行けばボランティアが飯を食わせてくれるかも教えてくれて。ああ、あなたは神かそれとも天使ですか? って聞いたんだ」
神奈は男の話を黙って聞いて、「続けて」と先を促す。
「マスターは教えてくれたんだ。日本には権力欲に憑りつかれて、みんなの購買力を奪っていって、貧乏に追い込んでいる奴らがいるって、そいつらがいなければ俺は普通に漫画家として食っていけたんだって」
「あなたはコンビニのトイレに偶然居合わせた財〇官僚の男を刺殺しているわね。どうやって相手がターゲットだと知ったの?」
男は妙に幸せそうな顔でうんうんと頷いた。
「俺はただ、何月何日の何時にあそこのコンビニのトイレに入って、数分後に入ってきた男を刺し殺せって言われただけだよ。それがドンピシャ悪の官僚だったわけだよ。凄いだろ? マスターは」
「指示は全部異世界で受けたのね?」
「ああ、俺が異世界に転移したら、場所と時間も知ってたみたいにマスターは現れたんだ。美味い飯屋に連れていかれて、お願いがあるって頼まれたんだ。どうせ死のうとしてた命だ。あんな優しくて美しい人のためだったら、俺はなんでもできると思ったね」
「そう、参考になったわ。もういいわ、ありがとう」
「マスターを捕まえようとしても無駄だぜ、なんでも解るんだ。あんたの捜査も見切られてるぜ」
「ははは……あははは」
男は立ち去る神奈を見て乾いた笑いを上げた。当摩は神奈の横顔をみたが、その表情からは何を考えているのか窺えなかった。
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