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写真青年透
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「その透君って男の子ね、Bランクの冒険者なんだけど。あるA級ダンジョンに一人で何度も挑んで二回も死んでるの」
加奈美が悲痛な表情を浮かべてそう言った。
加奈美は美しい女だった。セミロングの青に近い髪をしていて、整った美しい顔、そしておっぱいが、そうおっぱいがデカかった。神奈も反則的に大きくて美しい乳房をしているが、大きさだけなら加奈美に軍配が上がる。
「異世界っていっても死ぬのはかなり辛いはずだよね。なんでそんな無茶を?」
当摩が訊く。
「それはつい最近亡くなった透君のお母さんと関係があるみたいなんだけど、わたしにも詳しくは話してくれないの」
放課後の保健室、テーブルを囲んで、加奈美、当摩、神奈が梅こんぶ茶をすすりながら羊かんを食べていた。
初夏の訪れを告げるように、梅雨の雨がしとしとと降り注いでいる。
透というその男の子は、寺島君と同じようなスクールカーストの低い子で、運よくいじめの対象にはなっていなかったが、その代わり友人と呼べる人も少なかった。
いつもコンパクトカメラを持ち歩いていて、何か見つけると写真を撮っているイメージが当摩にはあった。
休日には立派な望遠レンズ付きの一眼レフを持って、自然公園や比較的難易度の低い山を登ったりして風景写真を撮っていた。コンテストなどの受賞歴もあるそうだ。
「Bランク冒険者というからにはかなり異世界で冒険をやりこんでいるはずよね」
神奈がつぶやく。
当摩はあっという間にA-の冒険者になったが通常CかDランクから始まり『当摩のようなFランクの村人からスタートすることはかなり稀』Bに上がるまでに最低でも二三年はかかるのが普通だ。それもかなり積極的にモンスターを狩っての話だ。
「そうね、もう何年か異世界を冒険していて、異世界でもカメラで写真を撮っていたみたいね」
手で持っていけるサイズのものなら、ゲームブックの余白にものの名前を書き込めば、ひとつだけ現実世界のものを異世界へ持ち込める。当摩達もいつもお守りを持ち込んでいる。
理屈から言えば異世界に持ち込んだカメラで写真を撮っても写るはずがないのだが、通常の写真撮影の過程をすっ飛ばして念写のように記録媒体に直接写り込む。原理は謎だ。
「透君をここに呼んで事情を聞けないかな?」
「うん、電話してみるわね」
※
保健室に現れた透を見た当摩の感想は狩猟犬みたいだな、だった。狼というほどの野性味は感じないが、一見痩せて細いように見える四肢にもしっかりとした筋肉が付いていた。
目は虚ろで精気をあまり感じない。
神奈は透にも梅こんぶ茶と羊かんをだす。お茶を一口すすると、少し驚いたような表情をする。そして茶と羊かんをあっという間に食べた。自分が空腹だということにまるで気がついていなかったようだ。
神奈はそんなことお見通しだったようで、カバンからさらに焼きそばパンを取り出すと透に渡した。
「なんで……僕の好物を?」
「今日の星占いの結果、ラッキーアイテムが焼きそばパンだったのよ」
「雑誌とかの星占いなの?」
透が訊いた。
「私が発行しているメルマガの星占いよ」
「三大魔女の星占いって……やっぱ当たるの?」
当摩が恐る恐る訊く。
「まあ、世界の命運にさほど影響のないレベルでね」
なんだか凄そうなことは当摩にもわかった。
「それで、そのA級ダンジョンの攻略に神奈ちゃんが手を貸すよ。もちろん俺も」
当摩が神奈に目配せをすると、神奈は小さく頷く。
「う、うん……助かるよ。黒崎さんって怖い人だと思ってたけど違うんだね」
「神奈ちゃんは誰にでも優しいよ」
当摩が不思議そうな顔をして答えた。
「でも、ヤクザの組事務所に乗り込んで組長を締め上げたりしたんでしょ?」
「えっ⁉ そんなことしたの?」
「昔ちょっとね」
やっぱり恐ろしい娘だ。無駄に緊張して汗をかいてしまった。
「今夜にでもさっそくそのダンジョンに行こうかしら?」
「あ、えっと、そのダンジョンは青の塔っていうダンジョンなんだけど、最上階から朝日が昇るところを撮りたいんだ。だから……行くのは明後日の夜になるかな」
「わかったわ」
「明日は……天気がよければ、この近くにアジサイの綺麗なお寺があるんだけど、そこのアジサイ……ママが好きだったんだ。今年も撮って見せてあげたいんだ」
「そっか……」
「でも、この雨じゃあ多分無理だね」
「いえ、明日は晴れるわ」
「えっ! でも天気予報では」
透は少し慌てた。
「あっ、京史君に頼めば」
「京史君ってオカ研の?」
「そう、彼の得意魔術は雨ごいと晴天祈願よ」
神奈はドヤ顔をみせて、ふふっと笑った。
※
「ほっ……本当に晴れた」
翌日、待ち合わせの駅前で透は目を丸くしていた。梅雨時にはまず見かけない透き通るような青く晴れた空だった。
この付近だけピンポイントで雨が降っておらず、目的のお寺とこの駅前以外の場所は普通に雨が降っていた。
「京史君はめったに魔術を使わないけど、必要なときはこうやって助けてくれるわ」
「うん、頼もしいね」
目的のお寺はここから徒歩でニ十分くらいのところにある。と当摩のスマホのナビには表示されていた。
「京史君も良い奴なんだね。チンピラ五人瞬殺事件とか拳銃もったヤクザを殴り倒したとか噂されているけど」
「その噂は全部本当ね」
(マジかっ!)
「そっ……そうなんだ」
透より当摩の方が驚いていた。
「それじゃあ、アジサイを撮りに向かうわよ」
神奈が優雅に歩き出す。その姿がすごく綺麗で、透と当摩は思わず見とれてしまった。
加奈美が悲痛な表情を浮かべてそう言った。
加奈美は美しい女だった。セミロングの青に近い髪をしていて、整った美しい顔、そしておっぱいが、そうおっぱいがデカかった。神奈も反則的に大きくて美しい乳房をしているが、大きさだけなら加奈美に軍配が上がる。
「異世界っていっても死ぬのはかなり辛いはずだよね。なんでそんな無茶を?」
当摩が訊く。
「それはつい最近亡くなった透君のお母さんと関係があるみたいなんだけど、わたしにも詳しくは話してくれないの」
放課後の保健室、テーブルを囲んで、加奈美、当摩、神奈が梅こんぶ茶をすすりながら羊かんを食べていた。
初夏の訪れを告げるように、梅雨の雨がしとしとと降り注いでいる。
透というその男の子は、寺島君と同じようなスクールカーストの低い子で、運よくいじめの対象にはなっていなかったが、その代わり友人と呼べる人も少なかった。
いつもコンパクトカメラを持ち歩いていて、何か見つけると写真を撮っているイメージが当摩にはあった。
休日には立派な望遠レンズ付きの一眼レフを持って、自然公園や比較的難易度の低い山を登ったりして風景写真を撮っていた。コンテストなどの受賞歴もあるそうだ。
「Bランク冒険者というからにはかなり異世界で冒険をやりこんでいるはずよね」
神奈がつぶやく。
当摩はあっという間にA-の冒険者になったが通常CかDランクから始まり『当摩のようなFランクの村人からスタートすることはかなり稀』Bに上がるまでに最低でも二三年はかかるのが普通だ。それもかなり積極的にモンスターを狩っての話だ。
「そうね、もう何年か異世界を冒険していて、異世界でもカメラで写真を撮っていたみたいね」
手で持っていけるサイズのものなら、ゲームブックの余白にものの名前を書き込めば、ひとつだけ現実世界のものを異世界へ持ち込める。当摩達もいつもお守りを持ち込んでいる。
理屈から言えば異世界に持ち込んだカメラで写真を撮っても写るはずがないのだが、通常の写真撮影の過程をすっ飛ばして念写のように記録媒体に直接写り込む。原理は謎だ。
「透君をここに呼んで事情を聞けないかな?」
「うん、電話してみるわね」
※
保健室に現れた透を見た当摩の感想は狩猟犬みたいだな、だった。狼というほどの野性味は感じないが、一見痩せて細いように見える四肢にもしっかりとした筋肉が付いていた。
目は虚ろで精気をあまり感じない。
神奈は透にも梅こんぶ茶と羊かんをだす。お茶を一口すすると、少し驚いたような表情をする。そして茶と羊かんをあっという間に食べた。自分が空腹だということにまるで気がついていなかったようだ。
神奈はそんなことお見通しだったようで、カバンからさらに焼きそばパンを取り出すと透に渡した。
「なんで……僕の好物を?」
「今日の星占いの結果、ラッキーアイテムが焼きそばパンだったのよ」
「雑誌とかの星占いなの?」
透が訊いた。
「私が発行しているメルマガの星占いよ」
「三大魔女の星占いって……やっぱ当たるの?」
当摩が恐る恐る訊く。
「まあ、世界の命運にさほど影響のないレベルでね」
なんだか凄そうなことは当摩にもわかった。
「それで、そのA級ダンジョンの攻略に神奈ちゃんが手を貸すよ。もちろん俺も」
当摩が神奈に目配せをすると、神奈は小さく頷く。
「う、うん……助かるよ。黒崎さんって怖い人だと思ってたけど違うんだね」
「神奈ちゃんは誰にでも優しいよ」
当摩が不思議そうな顔をして答えた。
「でも、ヤクザの組事務所に乗り込んで組長を締め上げたりしたんでしょ?」
「えっ⁉ そんなことしたの?」
「昔ちょっとね」
やっぱり恐ろしい娘だ。無駄に緊張して汗をかいてしまった。
「今夜にでもさっそくそのダンジョンに行こうかしら?」
「あ、えっと、そのダンジョンは青の塔っていうダンジョンなんだけど、最上階から朝日が昇るところを撮りたいんだ。だから……行くのは明後日の夜になるかな」
「わかったわ」
「明日は……天気がよければ、この近くにアジサイの綺麗なお寺があるんだけど、そこのアジサイ……ママが好きだったんだ。今年も撮って見せてあげたいんだ」
「そっか……」
「でも、この雨じゃあ多分無理だね」
「いえ、明日は晴れるわ」
「えっ! でも天気予報では」
透は少し慌てた。
「あっ、京史君に頼めば」
「京史君ってオカ研の?」
「そう、彼の得意魔術は雨ごいと晴天祈願よ」
神奈はドヤ顔をみせて、ふふっと笑った。
※
「ほっ……本当に晴れた」
翌日、待ち合わせの駅前で透は目を丸くしていた。梅雨時にはまず見かけない透き通るような青く晴れた空だった。
この付近だけピンポイントで雨が降っておらず、目的のお寺とこの駅前以外の場所は普通に雨が降っていた。
「京史君はめったに魔術を使わないけど、必要なときはこうやって助けてくれるわ」
「うん、頼もしいね」
目的のお寺はここから徒歩でニ十分くらいのところにある。と当摩のスマホのナビには表示されていた。
「京史君も良い奴なんだね。チンピラ五人瞬殺事件とか拳銃もったヤクザを殴り倒したとか噂されているけど」
「その噂は全部本当ね」
(マジかっ!)
「そっ……そうなんだ」
透より当摩の方が驚いていた。
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