10 / 41
次の冒険は国家プロジェクトです
しおりを挟む
「あれ? 神奈ちゃん今日は休みか」
当摩がつぶやく。
朝のホームルームが終わり、神奈の欠席が知らされると、教室は俄かにざわついた。
神奈ははっきり言って宇宙飛行士になれるほどの健康優良児だ。学校を休むことなんてほぼ皆無だった。
「なんだか神奈ちゃん、お国の仕事のヤバイやつ引き受けて外国のスパイとかに命を狙われてるんだって」
梨花は昨日のエッチが良く効いたのか肌艶がよい。彼女も神奈とならぶ健康優良児だ。
「それで学校休んでるの? その仕事って?」
脇に座っている京史に尋ねる。
「ああ……ある密教系の修法をやることになった。最近ではまずやられなくなった儀式なんだが」
「もしかして、周辺国と揉めてるからアレやろうとしてるの?」
「ああ……太元帥法だ」
「あちゃぁ……神奈ちゃんがやるんじゃ半島や大陸の人間が黙ってないね」
「そんなにヤバいの?」
当摩は少し青ざめた顔になる。
「調伏系の修法の中で、あ……調伏ってのは敵や悪いものを退治する系なやつ、その中でもとびっきり上位の日本の敵国すべてを自滅させるっていう大修法よ」
「それを神奈ちゃんがやるんだ……」
「俺たちオカ研メンバーは神奈ちゃんのお守りに守られているから、一応大丈夫だと思うが、それでも人質にされる可能性があるから注意してくれ」
「はいよ~やれやれだわ」
「神奈ちゃん本人は大丈夫なの?」
そう聞くとどうしても神奈が心配になる。
「神奈ちゃんが恐れているのは、自分が学校にいる状態で、教室ごと毒ガスとかで攻撃されないかを心配してのことだ」
「そんな過激なことを?」
(こわっ……キンタマが縮んだ)
「ああ……神奈ちゃん自体は延命の魔術で百歳を過ぎるまで死なない。神奈ちゃん自体を殺害したいなら、まずこの魔術を解呪しなきゃならない、これは相当に困難なことだ。しかし生徒の皆の安全までは保障されていない」
「う~ん、心配だな~敵が神奈ちゃんの住居を標的にすることは?」
「神奈ちゃんの工房は何重にも結界が張り巡らせてあって、悪意あるものは侵入できない。キーになる呪具がないと見つけることは不可能だ」
「それって二人は持ってるの?」
「ないわね……」
「僕もない」
「う~ん、神奈ちゃんの住所ってわからないのかな?」
「ちょっと前に神奈ちゃんからもらったバースデイカードにも住所は載ってなかったしね」
「ふ~ん、それどんな奴?」
「ラッキーアイテム的な幸運効果のあるカードよ。この魔法陣のやつ」
そういって梨花は一枚のカードを見せる。手描きで描いたとは思えない綺麗な魔法陣が描かれたカードだった。
「あれ? 住所載ってるじゃん」
「えっ⁉ どこ?」
「こっちの裏面」
「…………載ってないわよ」
「僕にも見えない」
しかし、当摩にははっきりと住所が見えた。無言でスマホのメモに写す。
そして、その日の学校では特に何も起こらず放課後を迎えた。オカ研の活動をどうするかは各自に任された。
※
「それで当摩はのこのこと此処に来たわけ?」
神奈が眉根をよせる。
三大魔女の工房というからには、さぞかし妖しげな実験器具などがあるのかと思っていたが、ごく普通のマンションだった。
入口のインターフォンで管理人室へ呼びかけると初老のおじさんが応対してくれて、神奈の知り合いだというと驚いていた。
「だって……心配だったから」
「あのね……この工房に張ってある結界は、お母様の最高傑作ともいえる大魔術なの、それをあっさり破って……もう」
神奈は少し拗ねていた。
「まあいいわ、心配して訊ねてくれたのだから、お茶くらいは出すわ」
そういって神奈は紅茶を出してくれた。
「なにこれ⁉ メチャメチャ美味いじゃん、お茶うけのクッキーは手作りなの?」
「まあね、クッキーなんて簡単よ」
美味くてついつい手が伸びる。そんな当摩を神奈は少しあきれたような顔で見た。
「こんな感じでわたしの工房は大丈夫、心配いらないわ。むしろ問題なのは異世界の方ね」
「あれ、異世界で殺されても召喚勇者は死なないんじゃなかったっけ?」
「そうね、異世界では召喚勇者は基本的に死なない、多くの召喚勇者が魔王の軍勢と戦えるのはそのおかげ、あちらでは肉体も魔法で出来た霊魂の入れ物だから、霊が傷つかない限り死んだりはしない」
「あるの? 霊を傷つける方法が」
神奈は一口だけ紅茶を飲み、真剣な表情で顔をあげた。
「アジアの某独裁者が権力を脅かされないように、義理の兄を殺したという事件があったんだけど、実は犯行は異世界で行われたの」
「どっ……どうやって」
「蟲毒って知ってる?」
「虫とか蛇とかを戦わせて作る毒だっけ?」
「大体あってるわ、それを毒針ってまんまな名前で呼ばれてる、魔法武器に塗って刺したの」
「その魔法武器って……」
ゴクリと当摩の喉が鳴る。
「かすり傷しか負わせられない代わりに、魔法障壁を貫通できるの」
「刺されるとその毒で死んじゃうのか」
「霊的な毒だから、わたしが刺されても危ないわ」
「その毒針ってのは普通に買えるの?」
「普通に武器屋で買えるわ、魔法使い系のジョブの使い手が自分の属性の魔法が効かない時用に、一応毒を塗って装備している、そんな人も多いわ」
ふむふむと当摩は頷く。
「神奈ちゃんは持ってないの?」
「わたしは全属性の魔法が使えるから必要ないの」
「さすがは神奈ちゃん、ということは異世界での活動もしばらくお休み?」
神奈はなぜかニヤリと笑う。
「いいえ、おびき出して身の程をわきまえさせるわ」
ちょうど飲み終わった紅茶のカップをソーサーに置く、赤い目が爛々と揺らめいていた。
当摩がつぶやく。
朝のホームルームが終わり、神奈の欠席が知らされると、教室は俄かにざわついた。
神奈ははっきり言って宇宙飛行士になれるほどの健康優良児だ。学校を休むことなんてほぼ皆無だった。
「なんだか神奈ちゃん、お国の仕事のヤバイやつ引き受けて外国のスパイとかに命を狙われてるんだって」
梨花は昨日のエッチが良く効いたのか肌艶がよい。彼女も神奈とならぶ健康優良児だ。
「それで学校休んでるの? その仕事って?」
脇に座っている京史に尋ねる。
「ああ……ある密教系の修法をやることになった。最近ではまずやられなくなった儀式なんだが」
「もしかして、周辺国と揉めてるからアレやろうとしてるの?」
「ああ……太元帥法だ」
「あちゃぁ……神奈ちゃんがやるんじゃ半島や大陸の人間が黙ってないね」
「そんなにヤバいの?」
当摩は少し青ざめた顔になる。
「調伏系の修法の中で、あ……調伏ってのは敵や悪いものを退治する系なやつ、その中でもとびっきり上位の日本の敵国すべてを自滅させるっていう大修法よ」
「それを神奈ちゃんがやるんだ……」
「俺たちオカ研メンバーは神奈ちゃんのお守りに守られているから、一応大丈夫だと思うが、それでも人質にされる可能性があるから注意してくれ」
「はいよ~やれやれだわ」
「神奈ちゃん本人は大丈夫なの?」
そう聞くとどうしても神奈が心配になる。
「神奈ちゃんが恐れているのは、自分が学校にいる状態で、教室ごと毒ガスとかで攻撃されないかを心配してのことだ」
「そんな過激なことを?」
(こわっ……キンタマが縮んだ)
「ああ……神奈ちゃん自体は延命の魔術で百歳を過ぎるまで死なない。神奈ちゃん自体を殺害したいなら、まずこの魔術を解呪しなきゃならない、これは相当に困難なことだ。しかし生徒の皆の安全までは保障されていない」
「う~ん、心配だな~敵が神奈ちゃんの住居を標的にすることは?」
「神奈ちゃんの工房は何重にも結界が張り巡らせてあって、悪意あるものは侵入できない。キーになる呪具がないと見つけることは不可能だ」
「それって二人は持ってるの?」
「ないわね……」
「僕もない」
「う~ん、神奈ちゃんの住所ってわからないのかな?」
「ちょっと前に神奈ちゃんからもらったバースデイカードにも住所は載ってなかったしね」
「ふ~ん、それどんな奴?」
「ラッキーアイテム的な幸運効果のあるカードよ。この魔法陣のやつ」
そういって梨花は一枚のカードを見せる。手描きで描いたとは思えない綺麗な魔法陣が描かれたカードだった。
「あれ? 住所載ってるじゃん」
「えっ⁉ どこ?」
「こっちの裏面」
「…………載ってないわよ」
「僕にも見えない」
しかし、当摩にははっきりと住所が見えた。無言でスマホのメモに写す。
そして、その日の学校では特に何も起こらず放課後を迎えた。オカ研の活動をどうするかは各自に任された。
※
「それで当摩はのこのこと此処に来たわけ?」
神奈が眉根をよせる。
三大魔女の工房というからには、さぞかし妖しげな実験器具などがあるのかと思っていたが、ごく普通のマンションだった。
入口のインターフォンで管理人室へ呼びかけると初老のおじさんが応対してくれて、神奈の知り合いだというと驚いていた。
「だって……心配だったから」
「あのね……この工房に張ってある結界は、お母様の最高傑作ともいえる大魔術なの、それをあっさり破って……もう」
神奈は少し拗ねていた。
「まあいいわ、心配して訊ねてくれたのだから、お茶くらいは出すわ」
そういって神奈は紅茶を出してくれた。
「なにこれ⁉ メチャメチャ美味いじゃん、お茶うけのクッキーは手作りなの?」
「まあね、クッキーなんて簡単よ」
美味くてついつい手が伸びる。そんな当摩を神奈は少しあきれたような顔で見た。
「こんな感じでわたしの工房は大丈夫、心配いらないわ。むしろ問題なのは異世界の方ね」
「あれ、異世界で殺されても召喚勇者は死なないんじゃなかったっけ?」
「そうね、異世界では召喚勇者は基本的に死なない、多くの召喚勇者が魔王の軍勢と戦えるのはそのおかげ、あちらでは肉体も魔法で出来た霊魂の入れ物だから、霊が傷つかない限り死んだりはしない」
「あるの? 霊を傷つける方法が」
神奈は一口だけ紅茶を飲み、真剣な表情で顔をあげた。
「アジアの某独裁者が権力を脅かされないように、義理の兄を殺したという事件があったんだけど、実は犯行は異世界で行われたの」
「どっ……どうやって」
「蟲毒って知ってる?」
「虫とか蛇とかを戦わせて作る毒だっけ?」
「大体あってるわ、それを毒針ってまんまな名前で呼ばれてる、魔法武器に塗って刺したの」
「その魔法武器って……」
ゴクリと当摩の喉が鳴る。
「かすり傷しか負わせられない代わりに、魔法障壁を貫通できるの」
「刺されるとその毒で死んじゃうのか」
「霊的な毒だから、わたしが刺されても危ないわ」
「その毒針ってのは普通に買えるの?」
「普通に武器屋で買えるわ、魔法使い系のジョブの使い手が自分の属性の魔法が効かない時用に、一応毒を塗って装備している、そんな人も多いわ」
ふむふむと当摩は頷く。
「神奈ちゃんは持ってないの?」
「わたしは全属性の魔法が使えるから必要ないの」
「さすがは神奈ちゃん、ということは異世界での活動もしばらくお休み?」
神奈はなぜかニヤリと笑う。
「いいえ、おびき出して身の程をわきまえさせるわ」
ちょうど飲み終わった紅茶のカップをソーサーに置く、赤い目が爛々と揺らめいていた。
0
お気に入りに追加
72
あなたにおすすめの小説
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
獣人の里の仕置き小屋
真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。
獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。
今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。
仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!
仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。
しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。
そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。
一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった!
これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる