上 下
9 / 30

朝食がてら相談

しおりを挟む
 今日も僕はまた寝坊した。とても深い眠りについていた、しかし寝覚めは爽快な気分だった。日を追うごとに目覚めがシャッキリしてくるのが解かる。
 僕の目覚めとほぼ同時に、ドアをノックする音が響く。僕がどうぞと言うとドアがゆっくり開いた。
「アイリさんおはようございます」
 今日もばっちり美人のアイリさんが部屋に入ってきた。
「はい、ユウキさま。おはようございます。今日はとてもいい天気ですよ」

 朝というにはちょっと遅いけど、昼というほどじゃない。そんな時間だった。
 窓から差し込む初夏の日差しが透明でとても良い色をしていた。
 空気は暑くもなく寒くもない丁度良い陽気で、僕はすこぶる良い気分だった。顔を洗って口をゆすいでダイニングへ行く。

「これが、例のトウモロコシのスープかぁ、すごい! 良い匂い」
「沢山作りましたから、たんと召し上がれ、ユウキさま」

 僕がテーブルにつくと、石窯で焼き直され香ばしい匂いを放つ食パンのトーストと、葉野菜のサラダと、ボイルした鶏肉に乾燥ハーブと岩塩をまぶしたもの、そしてトウモロコシのポタージュスープが出てきた。

「すごいっ! 朝から贅沢だな~」
 まずは僕の食事の準備をしたあと、アイリさんは自分のぶんの食事を用意する。やっぱり、全部が僕よりちょっと小さめだった。

「さあ、いただきましょう」
「うん、いただきます」

 僕はまずトーストにかじりついた。
「うわ、バターが贅沢に使われてる」
 香ばしくサクサクのトーストにはバターが沢山しみていた。それがジュワッと口の中に広がり、物凄く良い芳香を放つ。少し塩味がついたバターの濃厚な味と、きつね色に焼き上がったトーストの焦げが香ばしく、これは何枚でも食べられそうで危ない。
「このトースト最高だな」
「ありがとうございます」

 次いで、サラダを口にする。新鮮なレタスに酸味の利いたドレッシングがかかっている。体中の血液がみんな綺麗になるような、清々しい味がした。
 これはたぶんオリーブオイルにバルサミコ酢と岩塩が味付けに使われているな。少し苦みのあるルッコラの香りが素晴らしい。
「う~ん、たまんないな」
 そういう僕をアイリさんは優しく微笑んで見つめる。笑顔がとても綺麗な人だと改めて思った。

 次いで、メインディッシュの鶏肉に手をつける。あえてスープは最後にした。
 うん、鶏肉も美味い。シンプルな料理だけど、鶏肉の旨味が素晴らしい。乾燥ハーブにはコショウも入ってるな、コショウは結構高価だからこれはこれで贅沢な料理だ。

「コショウと言えば牛肉だと思っていたけど、鶏にも合うんですね。でも贅沢じゃないかな? お金がかかるんじゃ」
「陛下から贅沢三昧ぜいたくざんまいな生活をしても人生が五度ほど送れるお金を預かっています」
 アイリさんは人差し指をびっと立て、ここがポイントですと言わんばかりに、僕に告げた。
「ユウキさま無しに現在の人類の平和は在り得なかったのですから、当然の報酬です」
 僕は少しだけ気恥しくなった。そんなたいしたことはしてないのに。

 気を取り直し、ついにいよいよトウモロコシのポタージュを一口すすろうとさじを伸ばす。
 薄黄色のスープに美しく生クリームが渦を巻いている。トーストの端っこの耳の部分がこんがりと揚げられ、サイコロ大にカットされていた。それがいくつかスープに浮かんでいる。見た目もとても綺麗なスープだった。
「う……美味い」
 なんて甘くて香ばしい匂いのするトウモロコシなんだ。

「出汁は鶏の残った骨から取りました。それを生クリームとあわせ、あみで裏ごしたトウモロコシを加えて、塩で味を調えました」
「すごい、無駄なく食材を使っているんだ」
 さすが一流のメイドさんだ。僕は感嘆の声をあげる。

「ベンリさんには感謝ですね」
「うん、本当だね。こんなおいしいスープ初めて食べた」
「うふ、お世辞でも嬉しいですわ」
「お世辞なんかじゃありません、本当ですよ」
 そうですか、とアイリさんはまた微笑んだ。

「それでユウキさま、本日はいかがお過ごしになられるおつもりですか?」
「う~んどうしよう、そう言えばこの近くに清流の川があったよね」
「はい、あります。フローラル川ですね」
「魚はいるかな?」

 アイリさんは少しだけ逡巡しゅんじゅんし、「確かベンリさんがよく酒のつまみになるアーユを釣っていた気がします」と言った。

「おっ! アーユが釣れるんだ」
まれにですが。ほとんどはレインボーマスやロックフィッシュやレッドフィッシュなんかですよ」
「僕、レッドフィッシュも好きなんだ」
「小骨が多く、味も苦みが強いですが、塩を強めに利かせればまあ食べられなくはないですけど」
 ユウキさまは変わったものがお好きなんですね。とアイリさんが言う。

「孤児院にいた時、レッドフィッシュはよく食べたんだ。シスターと仲が良い漁師のおじさんがいて、アーユとかは売っちゃうんだけど、レッドフィッシュは売れないからって僕らにくれたんだ」
「まあ……そうだったんですか」
 アイリさんはまたふふっと笑う。
「ユウキさまは、貴族の方とは全然違いますね。もちろん良い意味で」
「そうかな?」
 僕は照れながら鼻をかいた。

「それでは釣り道具を買いにまたベンリへ寄って、そのままフローラル川に行きましょう」
「うん、ベンリさんって釣り竿も作るんだね」
「あの方は何でも作ってしまうので」

 僕は最後に残ったトウモロコシのスープを綺麗に飲み干し、スープボウルに残ったぶんをパンで拭って、最後まで完食した。
「じゃあ、行こうか」
「ええ、行きましょう」

 僕達は初夏の気持ち良い日だまりの中へ、ゆっくりと歩き出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

転生幼女具現化スキルでハードな異世界生活

高梨
ファンタジー
ストレス社会、労働社会、希薄な社会、それに揉まれ石化した心で唯一の親友を守って私は死んだ……のだけれども、死後に閻魔に下されたのは願ってもない異世界転生の判決だった。 黒髪ロングのアメジストの眼をもつ美少女転生して、 接客業後遺症の無表情と接客業の武器営業スマイルと、勝手に進んで行く周りにゲンナリしながら彼女は異世界でくらします。考えてるのに最終的にめんどくさくなって突拍子もないことをしでかして周りに振り回されると同じくらい周りを振り回します。  中性パッツン氷帝と黒の『ナンでも?』できる少女の恋愛ファンタジー。平穏は遙か彼方の代物……この物語をどうぞ見届けてくださいませ。  無表情中性おかっぱ王子?、純粋培養王女、オカマ、下働き大好き系国王、考え過ぎて首を落としたまま過ごす医者、女装メイド男の娘。 猫耳獣人なんでもござれ……。  ほの暗い恋愛ありファンタジーの始まります。 R15タグのように15に収まる範囲の描写がありますご注意ください。 そして『ほの暗いです』

私は何人とヤれば解放されるんですか?

ヘロディア
恋愛
初恋の人を探して貴族に仕えることを選んだ主人公。しかし、彼女に与えられた仕事とは、貴族たちの夜中の相手だった…

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

処理中です...