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朝食がてら相談
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今日も僕はまた寝坊した。とても深い眠りについていた、しかし寝覚めは爽快な気分だった。日を追うごとに目覚めがシャッキリしてくるのが解かる。
僕の目覚めとほぼ同時に、ドアをノックする音が響く。僕がどうぞと言うとドアがゆっくり開いた。
「アイリさんおはようございます」
今日もばっちり美人のアイリさんが部屋に入ってきた。
「はい、ユウキさま。おはようございます。今日はとてもいい天気ですよ」
朝というにはちょっと遅いけど、昼というほどじゃない。そんな時間だった。
窓から差し込む初夏の日差しが透明でとても良い色をしていた。
空気は暑くもなく寒くもない丁度良い陽気で、僕はすこぶる良い気分だった。顔を洗って口をゆすいでダイニングへ行く。
「これが、例のトウモロコシのスープかぁ、すごい! 良い匂い」
「沢山作りましたから、たんと召し上がれ、ユウキさま」
僕がテーブルにつくと、石窯で焼き直され香ばしい匂いを放つ食パンのトーストと、葉野菜のサラダと、ボイルした鶏肉に乾燥ハーブと岩塩をまぶしたもの、そしてトウモロコシのポタージュスープが出てきた。
「すごいっ! 朝から贅沢だな~」
まずは僕の食事の準備をしたあと、アイリさんは自分のぶんの食事を用意する。やっぱり、全部が僕よりちょっと小さめだった。
「さあ、いただきましょう」
「うん、いただきます」
僕はまずトーストにかじりついた。
「うわ、バターが贅沢に使われてる」
香ばしくサクサクのトーストにはバターが沢山しみていた。それがジュワッと口の中に広がり、物凄く良い芳香を放つ。少し塩味がついたバターの濃厚な味と、きつね色に焼き上がったトーストの焦げが香ばしく、これは何枚でも食べられそうで危ない。
「このトースト最高だな」
「ありがとうございます」
次いで、サラダを口にする。新鮮なレタスに酸味の利いたドレッシングがかかっている。体中の血液がみんな綺麗になるような、清々しい味がした。
これはたぶんオリーブオイルにバルサミコ酢と岩塩が味付けに使われているな。少し苦みのあるルッコラの香りが素晴らしい。
「う~ん、たまんないな」
そういう僕をアイリさんは優しく微笑んで見つめる。笑顔がとても綺麗な人だと改めて思った。
次いで、メインディッシュの鶏肉に手をつける。あえてスープは最後にした。
うん、鶏肉も美味い。シンプルな料理だけど、鶏肉の旨味が素晴らしい。乾燥ハーブにはコショウも入ってるな、コショウは結構高価だからこれはこれで贅沢な料理だ。
「コショウと言えば牛肉だと思っていたけど、鶏にも合うんですね。でも贅沢じゃないかな? お金がかかるんじゃ」
「陛下から贅沢三昧な生活をしても人生が五度ほど送れるお金を預かっています」
アイリさんは人差し指をびっと立て、ここがポイントですと言わんばかりに、僕に告げた。
「ユウキさま無しに現在の人類の平和は在り得なかったのですから、当然の報酬です」
僕は少しだけ気恥しくなった。そんなたいしたことはしてないのに。
気を取り直し、ついにいよいよトウモロコシのポタージュを一口すすろうと匙を伸ばす。
薄黄色のスープに美しく生クリームが渦を巻いている。トーストの端っこの耳の部分がこんがりと揚げられ、サイコロ大にカットされていた。それがいくつかスープに浮かんでいる。見た目もとても綺麗なスープだった。
「う……美味い」
なんて甘くて香ばしい匂いのするトウモロコシなんだ。
「出汁は鶏の残った骨から取りました。それを生クリームとあわせ、あみで裏ごしたトウモロコシを加えて、塩で味を調えました」
「すごい、無駄なく食材を使っているんだ」
さすが一流のメイドさんだ。僕は感嘆の声をあげる。
「ベンリさんには感謝ですね」
「うん、本当だね。こんなおいしいスープ初めて食べた」
「うふ、お世辞でも嬉しいですわ」
「お世辞なんかじゃありません、本当ですよ」
そうですか、とアイリさんはまた微笑んだ。
「それでユウキさま、本日はいかがお過ごしになられるおつもりですか?」
「う~んどうしよう、そう言えばこの近くに清流の川があったよね」
「はい、あります。フローラル川ですね」
「魚はいるかな?」
アイリさんは少しだけ逡巡し、「確かベンリさんがよく酒のつまみになるアーユを釣っていた気がします」と言った。
「おっ! アーユが釣れるんだ」
「稀にですが。ほとんどはレインボーマスやロックフィッシュやレッドフィッシュなんかですよ」
「僕、レッドフィッシュも好きなんだ」
「小骨が多く、味も苦みが強いですが、塩を強めに利かせればまあ食べられなくはないですけど」
ユウキさまは変わったものがお好きなんですね。とアイリさんが言う。
「孤児院にいた時、レッドフィッシュはよく食べたんだ。シスターと仲が良い漁師のおじさんがいて、アーユとかは売っちゃうんだけど、レッドフィッシュは売れないからって僕らにくれたんだ」
「まあ……そうだったんですか」
アイリさんはまたふふっと笑う。
「ユウキさまは、貴族の方とは全然違いますね。もちろん良い意味で」
「そうかな?」
僕は照れながら鼻をかいた。
「それでは釣り道具を買いにまたベンリへ寄って、そのままフローラル川に行きましょう」
「うん、ベンリさんって釣り竿も作るんだね」
「あの方は何でも作ってしまうので」
僕は最後に残ったトウモロコシのスープを綺麗に飲み干し、スープボウルに残ったぶんをパンで拭って、最後まで完食した。
「じゃあ、行こうか」
「ええ、行きましょう」
僕達は初夏の気持ち良い日だまりの中へ、ゆっくりと歩き出した。
僕の目覚めとほぼ同時に、ドアをノックする音が響く。僕がどうぞと言うとドアがゆっくり開いた。
「アイリさんおはようございます」
今日もばっちり美人のアイリさんが部屋に入ってきた。
「はい、ユウキさま。おはようございます。今日はとてもいい天気ですよ」
朝というにはちょっと遅いけど、昼というほどじゃない。そんな時間だった。
窓から差し込む初夏の日差しが透明でとても良い色をしていた。
空気は暑くもなく寒くもない丁度良い陽気で、僕はすこぶる良い気分だった。顔を洗って口をゆすいでダイニングへ行く。
「これが、例のトウモロコシのスープかぁ、すごい! 良い匂い」
「沢山作りましたから、たんと召し上がれ、ユウキさま」
僕がテーブルにつくと、石窯で焼き直され香ばしい匂いを放つ食パンのトーストと、葉野菜のサラダと、ボイルした鶏肉に乾燥ハーブと岩塩をまぶしたもの、そしてトウモロコシのポタージュスープが出てきた。
「すごいっ! 朝から贅沢だな~」
まずは僕の食事の準備をしたあと、アイリさんは自分のぶんの食事を用意する。やっぱり、全部が僕よりちょっと小さめだった。
「さあ、いただきましょう」
「うん、いただきます」
僕はまずトーストにかじりついた。
「うわ、バターが贅沢に使われてる」
香ばしくサクサクのトーストにはバターが沢山しみていた。それがジュワッと口の中に広がり、物凄く良い芳香を放つ。少し塩味がついたバターの濃厚な味と、きつね色に焼き上がったトーストの焦げが香ばしく、これは何枚でも食べられそうで危ない。
「このトースト最高だな」
「ありがとうございます」
次いで、サラダを口にする。新鮮なレタスに酸味の利いたドレッシングがかかっている。体中の血液がみんな綺麗になるような、清々しい味がした。
これはたぶんオリーブオイルにバルサミコ酢と岩塩が味付けに使われているな。少し苦みのあるルッコラの香りが素晴らしい。
「う~ん、たまんないな」
そういう僕をアイリさんは優しく微笑んで見つめる。笑顔がとても綺麗な人だと改めて思った。
次いで、メインディッシュの鶏肉に手をつける。あえてスープは最後にした。
うん、鶏肉も美味い。シンプルな料理だけど、鶏肉の旨味が素晴らしい。乾燥ハーブにはコショウも入ってるな、コショウは結構高価だからこれはこれで贅沢な料理だ。
「コショウと言えば牛肉だと思っていたけど、鶏にも合うんですね。でも贅沢じゃないかな? お金がかかるんじゃ」
「陛下から贅沢三昧な生活をしても人生が五度ほど送れるお金を預かっています」
アイリさんは人差し指をびっと立て、ここがポイントですと言わんばかりに、僕に告げた。
「ユウキさま無しに現在の人類の平和は在り得なかったのですから、当然の報酬です」
僕は少しだけ気恥しくなった。そんなたいしたことはしてないのに。
気を取り直し、ついにいよいよトウモロコシのポタージュを一口すすろうと匙を伸ばす。
薄黄色のスープに美しく生クリームが渦を巻いている。トーストの端っこの耳の部分がこんがりと揚げられ、サイコロ大にカットされていた。それがいくつかスープに浮かんでいる。見た目もとても綺麗なスープだった。
「う……美味い」
なんて甘くて香ばしい匂いのするトウモロコシなんだ。
「出汁は鶏の残った骨から取りました。それを生クリームとあわせ、あみで裏ごしたトウモロコシを加えて、塩で味を調えました」
「すごい、無駄なく食材を使っているんだ」
さすが一流のメイドさんだ。僕は感嘆の声をあげる。
「ベンリさんには感謝ですね」
「うん、本当だね。こんなおいしいスープ初めて食べた」
「うふ、お世辞でも嬉しいですわ」
「お世辞なんかじゃありません、本当ですよ」
そうですか、とアイリさんはまた微笑んだ。
「それでユウキさま、本日はいかがお過ごしになられるおつもりですか?」
「う~んどうしよう、そう言えばこの近くに清流の川があったよね」
「はい、あります。フローラル川ですね」
「魚はいるかな?」
アイリさんは少しだけ逡巡し、「確かベンリさんがよく酒のつまみになるアーユを釣っていた気がします」と言った。
「おっ! アーユが釣れるんだ」
「稀にですが。ほとんどはレインボーマスやロックフィッシュやレッドフィッシュなんかですよ」
「僕、レッドフィッシュも好きなんだ」
「小骨が多く、味も苦みが強いですが、塩を強めに利かせればまあ食べられなくはないですけど」
ユウキさまは変わったものがお好きなんですね。とアイリさんが言う。
「孤児院にいた時、レッドフィッシュはよく食べたんだ。シスターと仲が良い漁師のおじさんがいて、アーユとかは売っちゃうんだけど、レッドフィッシュは売れないからって僕らにくれたんだ」
「まあ……そうだったんですか」
アイリさんはまたふふっと笑う。
「ユウキさまは、貴族の方とは全然違いますね。もちろん良い意味で」
「そうかな?」
僕は照れながら鼻をかいた。
「それでは釣り道具を買いにまたベンリへ寄って、そのままフローラル川に行きましょう」
「うん、ベンリさんって釣り竿も作るんだね」
「あの方は何でも作ってしまうので」
僕は最後に残ったトウモロコシのスープを綺麗に飲み干し、スープボウルに残ったぶんをパンで拭って、最後まで完食した。
「じゃあ、行こうか」
「ええ、行きましょう」
僕達は初夏の気持ち良い日だまりの中へ、ゆっくりと歩き出した。
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