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今日はなにする?
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僕は東方料理を食べて、お腹いっぱい幸せいっぱいな気分になる。
アイリさんがお茶を煎れてくれた。東方のお茶でプーアール茶と言うらしい。付け合わせはレモンの蜂蜜漬けだった。
プーアール茶はウーロン茶に似ているけど、産地と製法が微妙に違い、発酵による独特の風味がある。プーアール茶のほうが健康志向なのだそうだ。
「これにも、疲労回復の効用があるんですよ」
「うん、レモンの良い香りだ。手に取っただけで匂いがする。ああ……蜂蜜も良い匂いだ」
「この辺でとれた蜂蜜です。召し上がってみてください、わたくしの自信作です」
色鮮やかな蜂蜜漬けはまるで宝石みたいにキラキラしていた。スライスされたレモンの断面が綺麗に輝く。
フォークで刺すと、しっかりした手応え、うん。これは良いレモンだ。
僕はゆっくりとかぶり付く。
酸っぱさやレモンの皮の苦みなんかが、甘みの中で良いアクセントになっている。
その甘みをお茶で流すと……。
「ああ……美味い」
僕はほっこりとした気分になり、おもわずため息をついた。
簡単な料理なんだけど、どうして僕をここまで惹きつけるのだろう?
冒険中は簡素な携帯食で済ましてきたが、魔王軍の拠点を落としたり、魔軍に侵攻されていた地域を解放したりした時には、豪勢なパーティに呼ばれたことも何度かある。
いつもそんなパーティのご飯をルシアは興味なさげな感じで食べていた。清流でアーユを釣って食べた時は凄く喜んでいたのに。釣り対決が盛り上がったからかな。
そういえば僕も宮廷料理よりアーユの方が美味しかった気もする。
アイリさんの料理にはあのアーユにあったような、どこか素朴な美味しさがある。なんだろう? これは。
「あの……ユウキさま」
「は、はいっ! なんですか?」
思わずぼうっとしていた。アイリさんに声を掛けられ顔を勢いよく上げる。
「くすくす、そんなに驚かないでください」
「はは、なんでかな、ここにいると凄くくつろげて、ついぼうっとしてしまいました」
「ユウキ様はまだお疲れのご様子、どうぞゆっくりお休みください。用事などは全てわたくしにお任せください」
「う、うん。それも良いけど、出来るだけ僕も手伝うよ」
出来るだけの笑顔を向けて僕は言った。
「いけません、勇者様であるユウキ様に雑用などをさせては、わたくしが陛下に怒られてしまいます」
「いいんだ。僕そういう家事とか炊事とかするの割と好きなんだ」
「そう……ですか、では、二人で協力して雑用を済ませましょう」
炊事とかの雑用は本当に嫌いじゃない。冒険中にお茶を煎れる仕事は僕がよくやっていた。おかげでルシアの紅茶の好みはよく把握していた。
「何かやることはあるんですか? アイリさん」
「そうですね……村のアイテムショップに行って、台所用品がいくつか欲しいですね。あとは石窯と実はわたくしの部屋のベッドが壊れておりまして、それを修理しようかと思っています」
アイリさんが手を顎にあて、考え込むような仕草をした。それだけで色っぽい。
「ベッドはいくつかあったんじゃ?」
「六室ある客間のベッドは健在です。わたくしの使っている使用人室のベッドが壊れております」
「使用人室……? 客間を使えばいいんじゃ?」
「いけません。わたくしはあくまでメイド、いつこの館にユウキ様の戦友が訪ねてくるかわかりません、その時にメイドが客間を使っていたなどと知れたら笑いものです」
「そ……そうかな?」
「ええ……ですのでわたくしは狭くても使用人室を使わせていただきます」
どうもこの件に関しては、アイリさんは譲る気がないようだ。
「じゃあ……村のアイテムショップまで行きますか」
「ユウキ様はお休みになっていてもかまいませんよ」
「いや、行くよ。僕、買い物とか好きなんだ」
「かしこまりました。厩舎の面倒を見る者が、もう長年いないので、馬車ではなく歩きになってしまいますが」
「いいよ。村の中心部なら、そこまで遠くはないですよね?」
「はい、歩いて行ってもさほど時間はかかりません」
「では、行きましょう」
「ええ……ご案内いたします」
こうして僕らはショッピングに出かけた。買い物なんていつ以来だろう。僕は少しワクワクしていた。
アイリさんがお茶を煎れてくれた。東方のお茶でプーアール茶と言うらしい。付け合わせはレモンの蜂蜜漬けだった。
プーアール茶はウーロン茶に似ているけど、産地と製法が微妙に違い、発酵による独特の風味がある。プーアール茶のほうが健康志向なのだそうだ。
「これにも、疲労回復の効用があるんですよ」
「うん、レモンの良い香りだ。手に取っただけで匂いがする。ああ……蜂蜜も良い匂いだ」
「この辺でとれた蜂蜜です。召し上がってみてください、わたくしの自信作です」
色鮮やかな蜂蜜漬けはまるで宝石みたいにキラキラしていた。スライスされたレモンの断面が綺麗に輝く。
フォークで刺すと、しっかりした手応え、うん。これは良いレモンだ。
僕はゆっくりとかぶり付く。
酸っぱさやレモンの皮の苦みなんかが、甘みの中で良いアクセントになっている。
その甘みをお茶で流すと……。
「ああ……美味い」
僕はほっこりとした気分になり、おもわずため息をついた。
簡単な料理なんだけど、どうして僕をここまで惹きつけるのだろう?
冒険中は簡素な携帯食で済ましてきたが、魔王軍の拠点を落としたり、魔軍に侵攻されていた地域を解放したりした時には、豪勢なパーティに呼ばれたことも何度かある。
いつもそんなパーティのご飯をルシアは興味なさげな感じで食べていた。清流でアーユを釣って食べた時は凄く喜んでいたのに。釣り対決が盛り上がったからかな。
そういえば僕も宮廷料理よりアーユの方が美味しかった気もする。
アイリさんの料理にはあのアーユにあったような、どこか素朴な美味しさがある。なんだろう? これは。
「あの……ユウキさま」
「は、はいっ! なんですか?」
思わずぼうっとしていた。アイリさんに声を掛けられ顔を勢いよく上げる。
「くすくす、そんなに驚かないでください」
「はは、なんでかな、ここにいると凄くくつろげて、ついぼうっとしてしまいました」
「ユウキ様はまだお疲れのご様子、どうぞゆっくりお休みください。用事などは全てわたくしにお任せください」
「う、うん。それも良いけど、出来るだけ僕も手伝うよ」
出来るだけの笑顔を向けて僕は言った。
「いけません、勇者様であるユウキ様に雑用などをさせては、わたくしが陛下に怒られてしまいます」
「いいんだ。僕そういう家事とか炊事とかするの割と好きなんだ」
「そう……ですか、では、二人で協力して雑用を済ませましょう」
炊事とかの雑用は本当に嫌いじゃない。冒険中にお茶を煎れる仕事は僕がよくやっていた。おかげでルシアの紅茶の好みはよく把握していた。
「何かやることはあるんですか? アイリさん」
「そうですね……村のアイテムショップに行って、台所用品がいくつか欲しいですね。あとは石窯と実はわたくしの部屋のベッドが壊れておりまして、それを修理しようかと思っています」
アイリさんが手を顎にあて、考え込むような仕草をした。それだけで色っぽい。
「ベッドはいくつかあったんじゃ?」
「六室ある客間のベッドは健在です。わたくしの使っている使用人室のベッドが壊れております」
「使用人室……? 客間を使えばいいんじゃ?」
「いけません。わたくしはあくまでメイド、いつこの館にユウキ様の戦友が訪ねてくるかわかりません、その時にメイドが客間を使っていたなどと知れたら笑いものです」
「そ……そうかな?」
「ええ……ですのでわたくしは狭くても使用人室を使わせていただきます」
どうもこの件に関しては、アイリさんは譲る気がないようだ。
「じゃあ……村のアイテムショップまで行きますか」
「ユウキ様はお休みになっていてもかまいませんよ」
「いや、行くよ。僕、買い物とか好きなんだ」
「かしこまりました。厩舎の面倒を見る者が、もう長年いないので、馬車ではなく歩きになってしまいますが」
「いいよ。村の中心部なら、そこまで遠くはないですよね?」
「はい、歩いて行ってもさほど時間はかかりません」
「では、行きましょう」
「ええ……ご案内いたします」
こうして僕らはショッピングに出かけた。買い物なんていつ以来だろう。僕は少しワクワクしていた。
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