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怪談 謎の車掌
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これは僕が知人から聞いた話です。怖い話ではありません。どちらかというと不思議なお話でしょうか?
主人公はごく平凡なサラリーマン、彼の身に起きた九死に一生を得た不思議な体験談です。
時期的には1990年代のはじめくらいだったと思います。
それはこんなお話でした。
まだ暑い時分だった。俺はくたくたに疲れきっていた。三十代で子供がいる家の父親なんてのは大抵忙しい。これから大きくなっていく子供にお金もかかるし、住宅ローンもある。だから俺は馬車馬のごとく働いた。
比較的栄えた都市部に勤務先があり、俺は電車通勤をしていた。毎朝毎晩通勤ラッシュに揉まれ、もうそれにも慣れきっていた。
その日は残業で少し遅くなり薄暗くなりはじめたホームは、混んではいたけど通勤ラッシュのピークに比べればだいぶましだった。
次の急行が発車するまで10分くらい時間があったので、俺は缶コーヒーを飲んで待った。眠気醒ましのためだった。この日は週末が近かったせいもあったのか疲れがたまっていて妙に眠かった。
電車がノロノロとホームに入ってくる。俺は並んでいる集団の比較的前の方で、運よくすぐに座席に座れた。エアコンがたいして効いていたわけじゃなかったが、それでも外よりはいくぶんかましだった。
ドアが閉まり電車がゴトゴトと動きだす。なんだかその揺れがとても良い感じだった。疲れていたせいもあったと思う、俺はついうつらうつらとしてしまった。
そうこうしているうちに、俺は寝入ってしまった。どのくらい寝ていたか時間の感覚は確かじゃない。そうしていると、ふいに肩を叩かれた。
ぼーとしながら顔をあげると車掌が俺を覗き込んでいた。「終着ですよ」と車掌が言った。ああ……しまった。寝過ごして終着駅まで来ちゃったか。ぼーっとした頭のまま俺は電車を降りた。
折り返しの電車はいつ頃かな、と思いながら先ほど降りた電車を見たとき、あれれと俺は思った。電車にまだ人が沢山乗っているのだ。終着のはずじゃあなかったのか? 電車はそのまま何事もなかったかのように乗客を乗せて走り去っていった。
辺りを見回して駅名を確かめる。終着どころか俺の家の最寄り駅にさえたどり着いていない。俺は寝惚けてやらかしたんだ。疲れているとろくなことがないなと思った。
あの車掌はなんだったのだろう? 寝惚けていて何か見間違いをしたのだろうか? でも、肩を叩かれたあの感覚は妙に生々しかった。
しばらく電車を待っていたのだが、そのうちに遠くサイレンが聞こえた。どうやら電車が事故で運休するらしい。待っても来ないようなので俺はタクシーで帰った。
その日は適当に飯を食って、さっさと風呂に入って寝た。俺が驚愕したのは翌日朝のニュースを見た時だ。その電車事故は俺の想像を遥かに上まわった大惨事だった。
電車は派手に脱線し、車両は大きく破損して線路わきの建物に突っ込んでいた。死者さえ出た大事故だったのだ。特に俺が乗っていた先頭に近い車両は被害が大きかった。
あの車掌がいなかったら危なかった。あの車掌は確かに妙な気もした。あの車掌が着ていた制服はもっと昔の制服じゃなかったか? そして夏服でもなかったようにも思える。
その時ふと思い出した。あの車掌は昔鉄道員をしていた祖父に似ていた気がする。よく覚えていないが、あの声もおじいちゃんの声に似ていたような。あの車掌によく似た格好の写真も見た覚えがある。だから、多分あれはおじいちゃんだったんだろうなと俺は思った。
おじいちゃんのお墓を訪ね、まだ健在のおばあちゃんに祖父の昔の写真を見せてもらった。その写真はまだ残っていた。やっぱりあの車掌はおじいちゃんに似ていた。
謎の車掌終わり。
主人公はごく平凡なサラリーマン、彼の身に起きた九死に一生を得た不思議な体験談です。
時期的には1990年代のはじめくらいだったと思います。
それはこんなお話でした。
まだ暑い時分だった。俺はくたくたに疲れきっていた。三十代で子供がいる家の父親なんてのは大抵忙しい。これから大きくなっていく子供にお金もかかるし、住宅ローンもある。だから俺は馬車馬のごとく働いた。
比較的栄えた都市部に勤務先があり、俺は電車通勤をしていた。毎朝毎晩通勤ラッシュに揉まれ、もうそれにも慣れきっていた。
その日は残業で少し遅くなり薄暗くなりはじめたホームは、混んではいたけど通勤ラッシュのピークに比べればだいぶましだった。
次の急行が発車するまで10分くらい時間があったので、俺は缶コーヒーを飲んで待った。眠気醒ましのためだった。この日は週末が近かったせいもあったのか疲れがたまっていて妙に眠かった。
電車がノロノロとホームに入ってくる。俺は並んでいる集団の比較的前の方で、運よくすぐに座席に座れた。エアコンがたいして効いていたわけじゃなかったが、それでも外よりはいくぶんかましだった。
ドアが閉まり電車がゴトゴトと動きだす。なんだかその揺れがとても良い感じだった。疲れていたせいもあったと思う、俺はついうつらうつらとしてしまった。
そうこうしているうちに、俺は寝入ってしまった。どのくらい寝ていたか時間の感覚は確かじゃない。そうしていると、ふいに肩を叩かれた。
ぼーとしながら顔をあげると車掌が俺を覗き込んでいた。「終着ですよ」と車掌が言った。ああ……しまった。寝過ごして終着駅まで来ちゃったか。ぼーっとした頭のまま俺は電車を降りた。
折り返しの電車はいつ頃かな、と思いながら先ほど降りた電車を見たとき、あれれと俺は思った。電車にまだ人が沢山乗っているのだ。終着のはずじゃあなかったのか? 電車はそのまま何事もなかったかのように乗客を乗せて走り去っていった。
辺りを見回して駅名を確かめる。終着どころか俺の家の最寄り駅にさえたどり着いていない。俺は寝惚けてやらかしたんだ。疲れているとろくなことがないなと思った。
あの車掌はなんだったのだろう? 寝惚けていて何か見間違いをしたのだろうか? でも、肩を叩かれたあの感覚は妙に生々しかった。
しばらく電車を待っていたのだが、そのうちに遠くサイレンが聞こえた。どうやら電車が事故で運休するらしい。待っても来ないようなので俺はタクシーで帰った。
その日は適当に飯を食って、さっさと風呂に入って寝た。俺が驚愕したのは翌日朝のニュースを見た時だ。その電車事故は俺の想像を遥かに上まわった大惨事だった。
電車は派手に脱線し、車両は大きく破損して線路わきの建物に突っ込んでいた。死者さえ出た大事故だったのだ。特に俺が乗っていた先頭に近い車両は被害が大きかった。
あの車掌がいなかったら危なかった。あの車掌は確かに妙な気もした。あの車掌が着ていた制服はもっと昔の制服じゃなかったか? そして夏服でもなかったようにも思える。
その時ふと思い出した。あの車掌は昔鉄道員をしていた祖父に似ていた気がする。よく覚えていないが、あの声もおじいちゃんの声に似ていたような。あの車掌によく似た格好の写真も見た覚えがある。だから、多分あれはおじいちゃんだったんだろうなと俺は思った。
おじいちゃんのお墓を訪ね、まだ健在のおばあちゃんに祖父の昔の写真を見せてもらった。その写真はまだ残っていた。やっぱりあの車掌はおじいちゃんに似ていた。
謎の車掌終わり。
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