【TS】社畜のオッサン、前世で死ぬほどプレイしていたVRMMOへ転生し最強のヒーラーになって無双する!

カミトイチ

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――魔族が村を襲いに来るまで、残り4日。ダンジョン4層。



「どうしたんだリン?元気ないな」



「え……そうかな」



「心ここにあらずって感じね」



「ごめん」



「何かあるなら聞くぜ?俺たちいつもリンに助けられてるからな。相談くらいしてくれよ」



「そうそう。四人ならなんとかなるかもしれないしね」



ラッシュとコクエがそう言って微笑んだ。



「ごめん、ちょっと寝不足なだけで。特になにがあったわけじゃないから。でも、ありがと」



「ふうん、寝不足かぁ」



「……まさか夜に特訓でもしてるんじゃないでしょうね?」



ぎくぅ!?



「そ、そんなわけないじゃない」



「え、動揺してる!?」



「冗談で言ったのに!」



「はいはい、皆。話はその辺で……早く奥へ進もう。今日は早めに帰るって約束だったろう」



「おお、そうだな。毎回ナナトさんを心配させるのも悪いしな」



「まあそうね。さあ、ガンガン魔獣を倒すわよ!」



ずんずんと二人が先導し先へ歩いていく。後方、ウルカがそれについていき、俺は三人の背中を眺める。



(みんなずいぶん頼もしくなったな。レベル自体はそこまで上がってはいないけど、実戦経験を積むことによって勘と戦闘IQが高くなってきたのを感じる。少しレベルの高い魔獣が表れても冷静に対処しようと試みるし、なんならアドバイス無しで倒してしまったりするからな……教え子の成長を見ている教師とかこんな気持ちなんだろうか。教師じゃないけど)



そんなことをぼんやり考えていると、皆の後ろを歩いていた俺にウルカが駆け寄ってきた。



「……大丈夫かい?」



「あ、うん。この任務が終わったら家でゆっくり休むよ」



「すまない」



「え?どうしてウルカが謝るの」



「昨日、僕がロカの事を言ったから……それがショックだったんじゃないのかい?」



ウルカの不安げな瞳。そうか、彼女はずっと俺がそれで落ち込んでいると思っていたのか。



「ううん。確かに辛い話ではあったけど、でも知れてよかったよ。だから君のせいじゃない。ほんとに寝不足なだけだよ」



「……そっか。うん、わかった」



そうだ。知れてよかった。誰かが急にいなくなるのは、唐突に別れが訪れるというのは……不安で辛い。



昨日、クロウを待った後、もしかして先にダンジョンへ行っているのではないかと、ダンジョン内のいそうな場所を探した。けれどやはり彼が見つかることは無く、ただ痕跡があった。おそらく昼間あたりに一人で潜っていたのだろう。比較的、危険の少ない場所のお宝が無くなっていたのは、ダンジョンへの隠し道を知るクロウだけ。



(最後に持てるだけ持って逃げた……そんなところかな)



何度もいうけど別にそれはいいんだ。あってもこの村じゃ使い道はほとんどないし、置いておく場所もなくて邪魔なだけだし。そこまで欲しかったなら全部あげもしたさ。でも、急にいなくなるのは無しだろ……一言くらいあっても。



――そこでハッとする。



俺、クロウに何を期待していたんだ?……そもそもただの利害関係で作られた関係だったはずだろ。契約期間とか決めていたわけじゃないし。持っていかれた物はもしかしたらそうなるかもって最初に覚悟していたと言ってたじゃないか。



「リン?」



三人が振り返り心配そうにこちらを見ている。俺はごまかすように走り出した。







その夜、再び俺はダンジョンへ潜った。30層のボス部屋前へ到着し、巨大な扉を前に思考する。この中には12人の騎士と王が座している。

騎士のレベルは36、王は68。複数を相手取らなければならないこのボス戦は難易度が一気に跳ね上がる。



騎士の内6人は物理アタッカー、4人は魔法アタッカー、そして残りの2はヒーラーだ。まずはヒーラーを倒し、魔法アタッカーをできるだけ破壊する。おそらく運がよくて3体くらいか……その途中で王が座から立ち上がり戦闘態勢に入るから、それを視界に入れながら残りの魔法アタッカーを処理。



12騎士が半数になった時点で強力な全体攻撃を王が放ってくるから、それに備え立ち位置を確認しておく。



(……動きは覚えている)



戦闘開始から終了までを頭の中でイメージし、3度繰り返す。あとはこの扉を開け、戦うだけだ。……戦うだけなのに、どうしてか心が前に向かない。



(死ねば終わり)



ここのソロ攻略者は全プレイヤー中1817人。内、レベルがカンストに満たないジョブでのクリアは14人。



(入ったら、出られない)



俺のレベルは今56。十分にやれるとは思う。でも、「今は行かないほうがいい」と心のどこかで訴えている気がする。

触れる扉。その手に力は入らず、前へ進もうという気力が湧き出てこない。



「……やめておこう」



俺は首を振る。このまま挑んでも碌な結果にはならない気がする。モチベーションはあらゆる行動において重要だ。それ次第で結果が大きく変わることなんてざらで、一流のアスリートやプロゲーマーもそう……だから今は挑むべきじゃない。



「そこらへんで適当にレベリングして帰ろう。少し休んだ方がいいかもな」



社畜時代、最長一週間ほとんど寝ずに仕事をし続けたこともある俺だが、連日の命がけのゲームではやはり疲労がたまっているようだ。帰って寝よう。



一心不乱に雑魚を狩り、経験値を稼ぐ。自分のレベルより下の魔獣から得られる経験値はその差が大きくなるほど低くなる。けれど気を紛らわせるのにはこういった作業的なレベリングは良く、こうしてほとんど意味のないモブハントを昔行っていた記憶がある。



そうして気が付けば、月明かりが隙間から落ちる部屋。洞穴が空いた10層ボス部屋まで戻ってきていた。リュックから鉤付きのロープを取り出し穴に引っ掛け上がっていく。



(……なんだ?)



出口が迫るにつれ、違和感に襲われる。微かな血の臭いがする。



(……?)



あたりを見渡すがその匂いの発生源は見当たらない。だが、代わりに丘のテーブルにある物が置かれていた。



「これは、ルベウスダガー……?」



真っ赤な刀身が月明かりに照らされていた。



それを手にとったその時、ゲームウィンドウが出現した。





【クエスト『烙印者の償い』をクリアしました】





……え?



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