9 / 39
9
しおりを挟む黒魔道士は最強ジョブの一つ。けれどそれは扱うプレイヤーの腕に左右される。弱点属性の把握や魔法の効きやすい部位を狙うエイム力、多くの敵への攻撃を可能にする視野の広さ、MPを効率的に使う感覚と勘……プレイヤースキルの領域であり、おそらくNPCとして枷がある皆には習得できないもの。
(それに、教えたとしても魔族襲来の日までにできるようになる保証は無い……だったらその分幸せな時を多く村のみんなと過ごした方がいいんじゃないか)
「わかった。それじゃあ今度、任務でダンジョンへ行ったときにでも」
「ほ、ほんと!?ありがとう!!」
嬉しそうに微笑むコクエ。けれど明るい彼女の顔とは逆に俺の心には暗い影が落ちる。それから他愛のない話をしてお昼を回ったころに解散した。件の魔獣は現れず、コクエは残念そうにしていたができるだけ彼女を「戦い」から遠ざけたかった俺は胸をなでおろした。
それからの記憶はおぼろげであまり覚えていない。ただ、ずっと考えていた。無駄なことだと何度も首を振り気分が落ちた。そして気が付けば再び丘の上へと来ていた。遠くに落ちていく燃ゆる太陽と、のぼる二つの月。いくつもの星々が姿を現し、きらきらと輝きだす。
綺麗だ。何年経っても、この美しさは色褪せることはない。
(でも、この景色が美しいのは……俺がリンだからだ)
前のキャラクターの時だってこの星空は何度も見ていた。たしかにその時も美しいとは思った。なんどもSSを撮り、食事をとる時は無駄にキャラクターをこの場に放置したりしていた。
でも、今みているこの全てはそれよりも、比較にならない程……綺麗に感じる。
あの頃と今で何が違うのか、もう俺は理解している。だからこそこれほど頭を悩ませているんだ。
「……俺、皆を失いたくないんだ」
この世界で暮らすうちにNPCである彼らは、俺のかけがえのない大切な人間へとなってしまった。
避けられない魔族襲来のイベントが【LASTDREAM】の始まりの物語で、避けられない悲劇。割り切るしかない運命。けれどそうだと解っていても……心がそれを許さない。
「グルルル……」
――ふと背後から獣の唸り声が聞こえた。
見れば巨大な熊の魔獣、ファントムグリズリーが仁王立ちしていた。レベル15。これが村人の言っていた魔獣か。
杖を差し向け、戦闘態勢をとる。その時、ふと気が付いた。
(……高揚感がない)
いや、それはそうか。今のおれからすれば低レベルの魔獣だ難なく倒せるし……この魔獣ならドロップ品もたかが知れている。
どうせやるなら高レベルの攻略が難しい……。
(そういや俺ってなんでこのゲームを始めたんだっけ?)
俺は廃人と呼ばれる類のゲーマーだった。ソロで数多の敵を屠り、高難度クエストをいくつも踏破してきた……そうだ、不可能と呼ばれたクエストを不可能だとされるジョブでクリアした。
……俺は、そういう人が無理だというものにこそ燃える。そういうプレイヤーだったはずだろ。
頭のネジが外れていて、他者を凌駕する執着心、俺が一番プレイヤースキルがあると豪語していたあの頃を思い出せ。
そうだ、俺は――不可能を可能にする、ゲーマーだ。
――振り下ろされる剛腕を紙一重で躱し、腹部に『マジックバースト』を放つ。ゼロ距離でヒットしたそれは「ボン!!」という白光の爆発と共に、ファントムグリズリーの巨体を軽々吹き飛ばす。
樹木へとたたきつけられた魔獣は断末魔を上げる間もなく逝ったようだった。
リキャストされるアイコンを眺めながら、お母さん、ラッシュ、コクエ、ウルカ、カムイ……村に暮らしている皆の顔を思い出す。
(死ねばどうなるかわからない、実質リトライ不能。一度きりの挑戦で、しかも高難度コンテンツをソロでクリアする、そのさらに上の難易度……いいね、面白い)
「――俺が皆を守る」
21
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています


【コピペ】を授かった俺は異世界で最強。必要な物はコピペで好きなだけ増やし、敵の攻撃はカットで防ぐ。え?倒した相手のスキルももらえるんですか?
黄舞
ファンタジー
パソコンが出来ない上司のせいでコピーアンドペースト(コピペ)を教える毎日だった俺は、トラックに跳ねられて死んでしまった。
「いつになったらコピペ使えるようになるんだ―!!」
が俺の最後の言葉だった。
「あなたの願い叶えました。それでは次の人生を楽しんでください」
そういう女神が俺に与えたスキルは【コピペ(カット機能付き)】
思わぬ事態に最初は戸惑っていた俺だが、そのスキルの有用性に気付き、いつのまにやら異世界で最強の存在になっていた。

生活魔法しか使えない少年、浄化(クリーン)を極めて無双します(仮)(習作3)
田中寿郎
ファンタジー
壁しか見えない街(城郭都市)の中は嫌いだ。孤児院でイジメに遭い、無実の罪を着せられた幼い少年は、街を抜け出し、一人森の中で生きる事を選んだ。武器は生活魔法の浄化(クリーン)と乾燥(ドライ)。浄化と乾燥だけでも極めれば結構役に立ちますよ?
コメントはたまに気まぐれに返す事がありますが、全レスは致しません。悪しからずご了承願います。
(あと、敬語が使えない呪いに掛かっているので言葉遣いに粗いところがあってもご容赦をw)
台本風(セリフの前に名前が入る)です、これに関しては助言は無用です、そういうスタイルだと思ってあきらめてください。
読みにくい、面白くないという方は、フォローを外してそっ閉じをお願いします。
(カクヨムにも投稿しております)
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる