6 / 39
6
しおりを挟むデビルオークの下敷きにされそうになった瞬間。
「危ない!!」
「ガウッ!!」
潰されそうになった瞬間、駆け寄ってきたウルカとカムイが俺を救出してくれた。ごろごろと転がる二人と一匹。
「あ、ありがと、助かった」
心臓がバクバクとなっている。仕留めたあとのことを考えてなかった、マジで危なかった。
「……こちらこそ、ありがとう。もうすこしで、大切なものを失うとこだった」
涙ぐむウルカ。俺はポンと頭に手をのせ笑う。
「間に合ってよかった」
「ワウッ!」
尻尾を振りながら俺の顔をぺろぺろと舐めるカムイ。頭をなでてやると嬉しそうにまたひとつ「ワン!」と鳴いた。
「いや……リン、おまえなんでそんなに強いんだよ……」
ラッシュが息絶えたデビルオークを見ながらひきつった笑みを浮かべる。引かれているんだろうか……いや、表情的にドン引きされてるなこれは。
「ねえ、一つだけきかせてちょうだい」
「ん?」
コクエがそう言いながら、転んだ際に負った手の擦り傷を治療してくれ始めた。気が強くて口悪いけど、優しいんだよなこの子。ヒールをつかえば一瞬で治るけど、気持ちが嬉しい。ありがたく治療を受けよう。
「ここに来た時、魔力の塊を杖から放ったでしょ?あれってあたしのファイアよりも遥かに威力があったわ。ただの魔力の塊なのに……それはどうして?」
スキル『魔弾』のことか。
「あれは『魔弾』ってスキルで厳密にいうならただの魔力の塊じゃないんだ。あくまでスキルであり、攻撃用に構築された魔力の塊で、それ自体に破壊力がある。さらにお……私の魔力が高いのもあってあの火力になった」
「スキル、『魔弾』……それは私にもできるの?」
「あれは白魔道士のスキルだからね。黒魔道士には使えない。けど、黒魔道士は攻撃魔法を極めていった方が強くなる。それこそ、さっきの『魔弾』なんて目じゃないほどの火力がだせるよ」
黒魔道士というジョブはファイアやサンダー等の攻撃魔法の他、麻痺や毒など状態異常を覚える。けれど実はそれらの魔法は覚えずに、攻撃魔法だけを重視していった方が黒魔道士は火力が出るし強い。
ソロでやるなら最低限、麻痺あたりは必須だけどな。
(……いや、確か世界ランク7位がソロの黒魔道士で状態異常一切覚えてなかったような。やり方によってはソロ出来るのか?)
いかんせん俺は白魔を作るまでシーフ一筋だったから、黒魔道士が魔法を極めれば火力最強くらいしか知らない。まあでも火力ランキングの上位のほとんどを占めていることからもそれは紛れもない事実なんだと思う。
「そっか、わかった」
治療を終え立ち上がったコクエ。どこか微笑んでいたように見え、俺は見入ってしまう。キャラデザいいんだよなぁ、コクエ。そんなことをぼーっと考えているとラッシュが慌てた様子で会話に入ってきた。
「いや、まてまて。威力はまあそれで理解できるが、あの身のこなしは何なんだよ!リンは白魔道士だろ!?なんであんなに近接戦闘慣れしてるんだ!?」
身振り手振りで俺の異常性を訴えてくるラッシュ。気持ちはわからんでもない。俺も初めて近接戦闘特化した魔法職を見た時同じ反応してたからな。しかしこれはもう戦闘経験と魔獣の知識、そしてそれを行動に移すことが可能なレベルがあったからだとしか説明できないからな。
どう答えた物かと悩んでいるとラッシュが「そ、そうか……!」と呟いた。
「お前、実は前から特訓してたんだな?秘密の特訓を……!!だからこの魔獣だらけの下層で一人で迷っていてもぜんぜん怖がってなかったんだ!!」
「え、ああ……まあ」
前から特訓していたっていうのはあながち間違えではない。白魔道士でこそないが、シーフではとんでもない時間この世界で戦闘を繰り広げていたからな。ある意味ラッシュの言う通り、秘密の特訓だな。
「そっか、だから魔力も多いしあの威力なんだ……!!」
ハッ、と目を見開きこちらをみるコクエ。
「デビルオークの動きも知り尽くしてるような動きだったしね。まるで予知能力があるかのようだった……もしかして、何度もたたかっていたりするのかな」
ウルカが首をかしげる。あの、えっと……ええ、おっしゃる通りです。「って、伝説の魔獣デビルオークと何度も戦うなんてありえないか」と彼女は付け加えていたけど、こいつデビルオークは他のエリアにも生息してて、俺何度もやってるんです。すみません。
「ガウ!」
四人で話し込んでいると、カムイが吠えた。部屋の隅、遺体が山のようになっている場所で何かを発見したようで、こちらに来いというように目で訴えている。
駆け寄っていくウルカ。彼女のあとを追っていくと、そこにはウルカ一族の戦闘衣を着た遺体があった。その傍らには狼の白骨。おそらくこれは……。
「……お母さん、オウカ」
ぽつり寂しそうな声でウルカがつぶやいた。やっぱり、彼女の母親とそのパートナーか。
ウルカとカムイは寄り添い、肩を震わせている。ラッシュその光景を辛そうに見つめ、コクエは心ここにあらずといった感じで宙を見つめていた。
前の俺は強さだけを求め、いかに早く強いプレイヤーになれるかしか考えていなかった。だから、この【LASTDREAM】の物語をそれほど見ることもなく、興味もなかった。だからみんなが魔獣との戦いで戦闘不能になったりしても特になんとも思わなかった……でも。
この世界でリンとして生まれ育ち、ラッシュ、コクエ、ウルカを物心がつく時から見てきた。だから、知っている。彼らがどういう思いを持ち、何を考え、生きてきたのか。
ラッシュの兄は数年前の魔王軍と国王軍の戦争へ行き帰ってこなかった。唯一戻ってきたのは彼の背負う傷だらけの銅の剣。彼は泣きながら言っていた。「俺は兄貴の想いを継ぐ」と。
コクエは祖父が大好きだった。しかし数年前、進行の早い病で亡くなった。いつも笑顔で遊んでいた彼女からそれが消えたのはあの死が深く関係している。それからは一人で魔法の勉強と練習を重ね、皆と遊ぶことが少なくなった。
ウルカの母とカムイの母がダンジョンで事故に合い、生死不明となったのは彼女が4歳の時だった。今の落ち着いている彼女からは想像もできないほど泣きじゃくり荒れていたが、まだ幼いウルカの気持ちを想うと無理のないことであった。
(……たとえそれがAIの導きだした行動でも思うよ。お母さん、見つかってよかったね、ってさ)
――ヴン
【クエスト『母の残された想い』をクリアしました】
21
お気に入りに追加
52
あなたにおすすめの小説
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」
孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。
だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。
1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。
スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。
それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。
それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。
増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。
一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。
これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。
ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。
yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。
子供の頃、僕は奴隷として売られていた。
そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。
だから、僕は自分に誓ったんだ。
ギルドのメンバーのために、生きるんだって。
でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。
「クビ」
その言葉で、僕はギルドから追放された。
一人。
その日からギルドの崩壊が始まった。
僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。
だけど、もう遅いよ。
僕は僕なりの旅を始めたから。
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる