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デビルオークの下敷きにされそうになった瞬間。



「危ない!!」



「ガウッ!!」



潰されそうになった瞬間、駆け寄ってきたウルカとカムイが俺を救出してくれた。ごろごろと転がる二人と一匹。



「あ、ありがと、助かった」



心臓がバクバクとなっている。仕留めたあとのことを考えてなかった、マジで危なかった。



「……こちらこそ、ありがとう。もうすこしで、大切なものを失うとこだった」



涙ぐむウルカ。俺はポンと頭に手をのせ笑う。



「間に合ってよかった」



「ワウッ!」



尻尾を振りながら俺の顔をぺろぺろと舐めるカムイ。頭をなでてやると嬉しそうにまたひとつ「ワン!」と鳴いた。



「いや……リン、おまえなんでそんなに強いんだよ……」



ラッシュが息絶えたデビルオークを見ながらひきつった笑みを浮かべる。引かれているんだろうか……いや、表情的にドン引きされてるなこれは。



「ねえ、一つだけきかせてちょうだい」



「ん?」



コクエがそう言いながら、転んだ際に負った手の擦り傷を治療してくれ始めた。気が強くて口悪いけど、優しいんだよなこの子。ヒールをつかえば一瞬で治るけど、気持ちが嬉しい。ありがたく治療を受けよう。



「ここに来た時、魔力の塊を杖から放ったでしょ?あれってあたしのファイアよりも遥かに威力があったわ。ただの魔力の塊なのに……それはどうして?」



スキル『魔弾』のことか。



「あれは『魔弾』ってスキルで厳密にいうならただの魔力の塊じゃないんだ。あくまでスキルであり、攻撃用に構築された魔力の塊で、それ自体に破壊力がある。さらにお……私の魔力が高いのもあってあの火力になった」



「スキル、『魔弾』……それは私にもできるの?」



「あれは白魔道士のスキルだからね。黒魔道士には使えない。けど、黒魔道士は攻撃魔法を極めていった方が強くなる。それこそ、さっきの『魔弾』なんて目じゃないほどの火力がだせるよ」



黒魔道士というジョブはファイアやサンダー等の攻撃魔法の他、麻痺や毒など状態異常を覚える。けれど実はそれらの魔法は覚えずに、攻撃魔法だけを重視していった方が黒魔道士は火力が出るし強い。

ソロでやるなら最低限、麻痺あたりは必須だけどな。



(……いや、確か世界ランク7位がソロの黒魔道士で状態異常一切覚えてなかったような。やり方によってはソロ出来るのか?)



いかんせん俺は白魔を作るまでシーフ一筋だったから、黒魔道士が魔法を極めれば火力最強くらいしか知らない。まあでも火力ランキングの上位のほとんどを占めていることからもそれは紛れもない事実なんだと思う。



「そっか、わかった」



治療を終え立ち上がったコクエ。どこか微笑んでいたように見え、俺は見入ってしまう。キャラデザいいんだよなぁ、コクエ。そんなことをぼーっと考えているとラッシュが慌てた様子で会話に入ってきた。



「いや、まてまて。威力はまあそれで理解できるが、あの身のこなしは何なんだよ!リンは白魔道士だろ!?なんであんなに近接戦闘慣れしてるんだ!?」



身振り手振りで俺の異常性を訴えてくるラッシュ。気持ちはわからんでもない。俺も初めて近接戦闘特化した魔法職を見た時同じ反応してたからな。しかしこれはもう戦闘経験と魔獣の知識、そしてそれを行動に移すことが可能なレベルがあったからだとしか説明できないからな。



どう答えた物かと悩んでいるとラッシュが「そ、そうか……!」と呟いた。



「お前、実は前から特訓してたんだな?秘密の特訓を……!!だからこの魔獣だらけの下層で一人で迷っていてもぜんぜん怖がってなかったんだ!!」



「え、ああ……まあ」



前から特訓していたっていうのはあながち間違えではない。白魔道士でこそないが、シーフではとんでもない時間この世界で戦闘を繰り広げていたからな。ある意味ラッシュの言う通り、秘密の特訓だな。



「そっか、だから魔力も多いしあの威力なんだ……!!」



ハッ、と目を見開きこちらをみるコクエ。



「デビルオークの動きも知り尽くしてるような動きだったしね。まるで予知能力があるかのようだった……もしかして、何度もたたかっていたりするのかな」



ウルカが首をかしげる。あの、えっと……ええ、おっしゃる通りです。「って、伝説の魔獣デビルオークと何度も戦うなんてありえないか」と彼女は付け加えていたけど、こいつデビルオークは他のエリアにも生息してて、俺何度もやってるんです。すみません。



「ガウ!」



四人で話し込んでいると、カムイが吠えた。部屋の隅、遺体が山のようになっている場所で何かを発見したようで、こちらに来いというように目で訴えている。

駆け寄っていくウルカ。彼女のあとを追っていくと、そこにはウルカ一族の戦闘衣を着た遺体があった。その傍らには狼の白骨。おそらくこれは……。



「……お母さん、オウカ」



ぽつり寂しそうな声でウルカがつぶやいた。やっぱり、彼女の母親とそのパートナーか。



ウルカとカムイは寄り添い、肩を震わせている。ラッシュその光景を辛そうに見つめ、コクエは心ここにあらずといった感じで宙を見つめていた。



前の俺は強さだけを求め、いかに早く強いプレイヤーになれるかしか考えていなかった。だから、この【LASTDREAM】の物語をそれほど見ることもなく、興味もなかった。だからみんなが魔獣との戦いで戦闘不能になったりしても特になんとも思わなかった……でも。



この世界でリンとして生まれ育ち、ラッシュ、コクエ、ウルカを物心がつく時から見てきた。だから、知っている。彼らがどういう思いを持ち、何を考え、生きてきたのか。



ラッシュの兄は数年前の魔王軍と国王軍の戦争へ行き帰ってこなかった。唯一戻ってきたのは彼の背負う傷だらけの銅の剣。彼は泣きながら言っていた。「俺は兄貴の想いを継ぐ」と。



コクエは祖父が大好きだった。しかし数年前、進行の早い病で亡くなった。いつも笑顔で遊んでいた彼女からそれが消えたのはあの死が深く関係している。それからは一人で魔法の勉強と練習を重ね、皆と遊ぶことが少なくなった。



ウルカの母とカムイの母がダンジョンで事故に合い、生死不明となったのは彼女が4歳の時だった。今の落ち着いている彼女からは想像もできないほど泣きじゃくり荒れていたが、まだ幼いウルカの気持ちを想うと無理のないことであった。



(……たとえそれがAIの導きだした行動でも思うよ。お母さん、見つかってよかったね、ってさ)



――ヴン



【クエスト『母の残された想い』をクリアしました】



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