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俺たちのパーティーは四人。白魔道士の俺、リン。戦士のラッシュ。黒魔道士のコクエ。そして、狩人のウルカ。



ウルカは白髪の長身、聡明で知識欲の強い少女だ。白い狼をパートナーとして狩りを行う一族の娘で、狼の嗅覚を利用した索敵に長けている。なので、おそらく魔獣を避けて行動できるはずだし無事だとは思う。

とはいえ彼女もレベルは5。もし魔獣とエンカウントしてしまって逃げられなかったら高確率で死ぬ。



「くそ、こんなところではぐれるだなんて……」



「ウルカに先導してもらったのが裏目に出たわね」



うろうろと歩き回るラッシュと杖を両手で握りしめるコクエ。二人ともものすごく心配してるのだろう。顔が真っ青だ。しかたない、ここは俺が。



「あの、ラッシュ、コクエ。二人ともここで待っててくれないかな。おれ……私がウルカを探して連れてくるよ」



「「え?」」



きょとんとした表情の二人。



「何言ってんのよ!あんた一人でなんて行かせられるわけないでしょ、あたしも行くわよ!」



「そうだぞ!せっかく合流できたのに、行かせられるわけがないだろ!!また迷ったらどうするんだよ!俺も行くぜ!!」



あ、そうか。俺迷い込んだって設定だった。でも、ここがいいんだけどなぁ。この階層の境目の階段。ここ、実は魔獣の立ち入れないセーフティエリアだったりするんだよね。公式の情報ではないけど、ここで魔獣の敵視をはがすのに利用するプレイヤーがいた。だからここで待っていてくれた方が一番安全だしいいんだけどなぁ。



しかし俺の思いとは裏腹に彼らは行く気満々の様子。



「よし……リン、そうと決まれば行こう!ウルカが心配だ!」



「そうね。あの子、リン以上に好奇心旺盛だからもしかしたらヤバいことにもなりかねないしね。ほら、さっさと行くわよ!」



あー、確かに。ウルカは興味のあることならなんにでも首を突っ込みたがるキャラクターだったよな。村のお使いクエストでも彼女の知識欲を満たすための物が多くあった覚えがある。

まあ、俺は必要最低限のクエストしかしないタイプだったから実際に受けたことは無いしそこらへんよくは知らないんだけど。



(しかし、二人とも率先して先を行こうとしないのはやっぱりゲームのシステムが働いているのか。もしくは俺がプレイヤーでありパーティーリーダーの権限があるからなのか……?)



そんな感じで物思いにふけっていると、眼前にポーンという音と共にウィンドウが現れシステムメッセージが表示された。



「?」



『ウルカがボスエリアへと侵入しました。』



「……え?」



目をこすり注視する。しかし何度見直してもそこにはウルカがボスの部屋へ入ったという情報があり、消えることはなかった。



(そうか、ウルカはプレイヤーとは違う。ボス部屋というエリアの存在を知らない……だから、知らずに侵入してしまったのか!)



ま、まずい……ボス部屋は侵入者かその部屋のボス、どちらかが死ぬまで出られない。







(……まずいな、カムイを追って入ってしまったこの部屋、扉が開かない……!!)



「カムイ!二手に分かれて攪乱するよ!」



「ワン!!」



――どうにかこの部屋から脱出してリンを探さないと……!!



十年前、この子ホワイトウルフのカムイは僕、ウルカのパートナーとなった。もともとは母ウルトのパートナーであるホワイトウルフの子供であり、母の所有していた子だ。しかしこのダンジョンでの事故によりカムイ以外帰らぬ人となった。



事故の詳細は知らされなかったが、魔獣蔓延るダンジョンに危険はつきもので、常に死と隣り合わせ。家族や一族の人間はこうなる覚悟をしていたはずだ――



「カムイ!!全力でかわして!!」



「ガウ!!」



デビルオークの猛攻を紙一重で躱し、僕に注意が向かないように攪乱するカムイ。あの魔獣の動きは緩慢でスピード重視の戦い方が得意な僕らにとってそれだけが唯一勝っている部分だった。しかし、逆を言えばそれだけしかアドバンテージをとれていない。

僕の弓で放った矢は僅かにもダメージを与えることはできず、デビルオークを倒すことは絶望的であった。



(このまま体力が尽きて……その後は)



部屋の隅にある骸の山。そこに横たわる私たち一族の戦闘衣を来た女性。それはもう骨だけになってしまっていたが、ところどころに入っている花の刺繍でお母さんだと解った。

ここの扉にたどり着いた時、カムイが勝手に部屋へ入ってしまったのは、そこで眠るお母さんと寄り添って亡くなっているカムイの母の匂いを感じ取ったからだろう。



(お母さん、こんなところにいたんだね)



カムイは二人の仇を取ろうとしている。必死に僕に攻撃のチャンスを作っている。けれど火力がない。そもそもこのデビルオークという魔獣は伝説級の化け物だ。私たちがパーティーで挑んだところで勝てる相手ではないだろう。



僕の数倍はある巨体。紫に変色している表皮から恐ろしいほどの魔力が滲みあふれていて、膨れ上がった全身の筋肉は鋼のように厚く、手に持った巨大な斧を自在に振り回すことを可能にしている。



(抗っても、無駄だ……ここでお母さんと一緒に居られるなら。眠ることができるなら、僕は……)



『――弱気、だめよ?ウルカ』



ふと過るお母さんの言葉。



『ウルカ、あなたが5歳になったらカムイをパートナーにあげる。少し気が強くておっちょこちょいな子だけど、すごく寂しがりだから……あなたがちゃんと守ってあげてね』



――そうだ。僕はカムイを託された。カムイが諦めてないのに、僕が弱気になってどうするんだ。



お父さんは戦争で失った。お母さんも、カムイの母も失った。あの時の僕は幼くて無力で、みんなを守ることができなかった。嘆くだけで、何も出来なかった。



「でも、まだ……失ってないものはある」



失ってばかりのこれまでの人生でカムイだけが残された唯一の家族。



「お母さんに託された、カムイだけはどうにか」



僕はデビルオークの眼を狙い矢を射った。しかしその攻撃ははずれ、頭に生えている巨大な角に当たり落ちる。

ぎろりと僕を睨むデビルオーク。



「よし!」



僕へとヘイトが向く。その瞬間、床へへたり込むカムイ。体力が尽き限界を迎えていたようで、体を震わせていた。頑張らせてごめんね。今度は僕が頑張る番だ。



弓を構え、目を狙う。しかし僕は矢を放つことはできなかった。デビルオークと視線が合った瞬間、体が痺れ始めたのだ。カラーンと床に落ちる弓。

しかし僕は諦めない。弓が使えなくても、走ることはまだできる。



ぎりぎりで大斧を躱す。満足に動かない体で死線を何度も潜る。息が切れ始めた……けど、まだ生きている。諦めることはできない……したくない。



「……ふっ、は……はぁ」



そこらに落ちている石を投げ、使えるものを使い逃げ惑う。わずかでも時間を稼ぐ。……時間を稼いでどうなる?そんな思いが再び過り始めた。首を振りかき消す。やがて脚の感覚が消え、へたりこんだ。

床を這うように逃げるが、デビルオークの移動速度の方がさすがに早い。



「ガウウウ!!」



「……カム、イ」



カムイがデビルオークの脚へと嚙みついた。足止めをしようとしているのか。しかしその足もおぼつかず、力が入っていないようだった。



「だ、だめ、カムイ」



デビルオークはカムイの首をつかみ持ち上げた。苦しそうに体をよじるカムイ。そしてデビルオークはカムイを高らかに持ち上げ、地面に叩きつけようと振りかぶった。



「や、やめて」



――ドゴオ!!!



部屋に響く轟音。



眼前で信じられない光景が広がる。



吹き飛ぶ――



「遅くなってごめん、ウルカ」



――デビルオークの巨体。



彼の魔獣は宙を舞い、壁へと激突し土埃の中へ姿を消す。代わりにそこに一人の白魔道士がカムイを抱きかかえ、立っていた。



「……り、リン?」



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