4 / 39
4
しおりを挟む俺たちのパーティーは四人。白魔道士の俺、リン。戦士のラッシュ。黒魔道士のコクエ。そして、狩人のウルカ。
ウルカは白髪の長身、聡明で知識欲の強い少女だ。白い狼をパートナーとして狩りを行う一族の娘で、狼の嗅覚を利用した索敵に長けている。なので、おそらく魔獣を避けて行動できるはずだし無事だとは思う。
とはいえ彼女もレベルは5。もし魔獣とエンカウントしてしまって逃げられなかったら高確率で死ぬ。
「くそ、こんなところではぐれるだなんて……」
「ウルカに先導してもらったのが裏目に出たわね」
うろうろと歩き回るラッシュと杖を両手で握りしめるコクエ。二人ともものすごく心配してるのだろう。顔が真っ青だ。しかたない、ここは俺が。
「あの、ラッシュ、コクエ。二人ともここで待っててくれないかな。おれ……私がウルカを探して連れてくるよ」
「「え?」」
きょとんとした表情の二人。
「何言ってんのよ!あんた一人でなんて行かせられるわけないでしょ、あたしも行くわよ!」
「そうだぞ!せっかく合流できたのに、行かせられるわけがないだろ!!また迷ったらどうするんだよ!俺も行くぜ!!」
あ、そうか。俺迷い込んだって設定だった。でも、ここがいいんだけどなぁ。この階層の境目の階段。ここ、実は魔獣の立ち入れないセーフティエリアだったりするんだよね。公式の情報ではないけど、ここで魔獣の敵視をはがすのに利用するプレイヤーがいた。だからここで待っていてくれた方が一番安全だしいいんだけどなぁ。
しかし俺の思いとは裏腹に彼らは行く気満々の様子。
「よし……リン、そうと決まれば行こう!ウルカが心配だ!」
「そうね。あの子、リン以上に好奇心旺盛だからもしかしたらヤバいことにもなりかねないしね。ほら、さっさと行くわよ!」
あー、確かに。ウルカは興味のあることならなんにでも首を突っ込みたがるキャラクターだったよな。村のお使いクエストでも彼女の知識欲を満たすための物が多くあった覚えがある。
まあ、俺は必要最低限のクエストしかしないタイプだったから実際に受けたことは無いしそこらへんよくは知らないんだけど。
(しかし、二人とも率先して先を行こうとしないのはやっぱりゲームのシステムが働いているのか。もしくは俺がプレイヤーでありパーティーリーダーの権限があるからなのか……?)
そんな感じで物思いにふけっていると、眼前にポーンという音と共にウィンドウが現れシステムメッセージが表示された。
「?」
『ウルカがボスエリアへと侵入しました。』
「……え?」
目をこすり注視する。しかし何度見直してもそこにはウルカがボスの部屋へ入ったという情報があり、消えることはなかった。
(そうか、ウルカはプレイヤーとは違う。ボス部屋というエリアの存在を知らない……だから、知らずに侵入してしまったのか!)
ま、まずい……ボス部屋は侵入者かその部屋のボス、どちらかが死ぬまで出られない。
◇
(……まずいな、カムイを追って入ってしまったこの部屋、扉が開かない……!!)
「カムイ!二手に分かれて攪乱するよ!」
「ワン!!」
――どうにかこの部屋から脱出してリンを探さないと……!!
十年前、この子ホワイトウルフのカムイは僕、ウルカのパートナーとなった。もともとは母ウルトのパートナーであるホワイトウルフの子供であり、母の所有していた子だ。しかしこのダンジョンでの事故によりカムイ以外帰らぬ人となった。
事故の詳細は知らされなかったが、魔獣蔓延るダンジョンに危険はつきもので、常に死と隣り合わせ。家族や一族の人間はこうなる覚悟をしていたはずだ――
「カムイ!!全力でかわして!!」
「ガウ!!」
デビルオークの猛攻を紙一重で躱し、僕に注意が向かないように攪乱するカムイ。あの魔獣の動きは緩慢でスピード重視の戦い方が得意な僕らにとってそれだけが唯一勝っている部分だった。しかし、逆を言えばそれだけしかアドバンテージをとれていない。
僕の弓で放った矢は僅かにもダメージを与えることはできず、デビルオークを倒すことは絶望的であった。
(このまま体力が尽きて……その後は)
部屋の隅にある骸の山。そこに横たわる私たち一族の戦闘衣を来た女性。それはもう骨だけになってしまっていたが、ところどころに入っている花の刺繍でお母さんだと解った。
ここの扉にたどり着いた時、カムイが勝手に部屋へ入ってしまったのは、そこで眠るお母さんと寄り添って亡くなっているカムイの母の匂いを感じ取ったからだろう。
(お母さん、こんなところにいたんだね)
カムイは二人の仇を取ろうとしている。必死に僕に攻撃のチャンスを作っている。けれど火力がない。そもそもこのデビルオークという魔獣は伝説級の化け物だ。私たちがパーティーで挑んだところで勝てる相手ではないだろう。
僕の数倍はある巨体。紫に変色している表皮から恐ろしいほどの魔力が滲みあふれていて、膨れ上がった全身の筋肉は鋼のように厚く、手に持った巨大な斧を自在に振り回すことを可能にしている。
(抗っても、無駄だ……ここでお母さんと一緒に居られるなら。眠ることができるなら、僕は……)
『――弱気、だめよ?ウルカ』
ふと過るお母さんの言葉。
『ウルカ、あなたが5歳になったらカムイをパートナーにあげる。少し気が強くておっちょこちょいな子だけど、すごく寂しがりだから……あなたがちゃんと守ってあげてね』
――そうだ。僕はカムイを託された。カムイが諦めてないのに、僕が弱気になってどうするんだ。
お父さんは戦争で失った。お母さんも、カムイの母も失った。あの時の僕は幼くて無力で、みんなを守ることができなかった。嘆くだけで、何も出来なかった。
「でも、まだ……失ってないものはある」
失ってばかりのこれまでの人生でカムイだけが残された唯一の家族。
「お母さんに託された、カムイだけはどうにか」
僕はデビルオークの眼を狙い矢を射った。しかしその攻撃ははずれ、頭に生えている巨大な角に当たり落ちる。
ぎろりと僕を睨むデビルオーク。
「よし!」
僕へとヘイトが向く。その瞬間、床へへたり込むカムイ。体力が尽き限界を迎えていたようで、体を震わせていた。頑張らせてごめんね。今度は僕が頑張る番だ。
弓を構え、目を狙う。しかし僕は矢を放つことはできなかった。デビルオークと視線が合った瞬間、体が痺れ始めたのだ。カラーンと床に落ちる弓。
しかし僕は諦めない。弓が使えなくても、走ることはまだできる。
ぎりぎりで大斧を躱す。満足に動かない体で死線を何度も潜る。息が切れ始めた……けど、まだ生きている。諦めることはできない……したくない。
「……ふっ、は……はぁ」
そこらに落ちている石を投げ、使えるものを使い逃げ惑う。わずかでも時間を稼ぐ。……時間を稼いでどうなる?そんな思いが再び過り始めた。首を振りかき消す。やがて脚の感覚が消え、へたりこんだ。
床を這うように逃げるが、デビルオークの移動速度の方がさすがに早い。
「ガウウウ!!」
「……カム、イ」
カムイがデビルオークの脚へと嚙みついた。足止めをしようとしているのか。しかしその足もおぼつかず、力が入っていないようだった。
「だ、だめ、カムイ」
デビルオークはカムイの首をつかみ持ち上げた。苦しそうに体をよじるカムイ。そしてデビルオークはカムイを高らかに持ち上げ、地面に叩きつけようと振りかぶった。
「や、やめて」
――ドゴオ!!!
部屋に響く轟音。
眼前で信じられない光景が広がる。
吹き飛ぶ――
「遅くなってごめん、ウルカ」
――デビルオークの巨体。
彼の魔獣は宙を舞い、壁へと激突し土埃の中へ姿を消す。代わりにそこに一人の白魔道士がカムイを抱きかかえ、立っていた。
「……り、リン?」
10
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
チート転生~チートって本当にあるものですね~
水魔沙希
ファンタジー
死んでしまった片瀬彼方は、突然異世界に転生してしまう。しかも、赤ちゃん時代からやり直せと!?何げにステータスを見ていたら、何やら面白そうなユニークスキルがあった!!
そのスキルが、随分チートな事に気付くのは神の加護を得てからだった。
亀更新で気が向いたら、随時更新しようと思います。ご了承お願いいたします。
序盤でボコられるクズ悪役貴族に転生した俺、死にたくなくて強くなったら主人公にキレられました。え? お前も転生者だったの? そんなの知らんし〜
水間ノボル🐳
ファンタジー
↑「お気に入りに追加」を押してくださいっ!↑
★2024/2/25〜3/3 男性向けホットランキング1位!
★2024/2/25 ファンタジージャンル1位!(24hポイント)
「主人公が俺を殺そうとしてくるがもう遅い。なぜか最強キャラにされていた~」
『醜い豚』
『最低のゴミクズ』
『無能の恥晒し』
18禁ゲーム「ドミナント・タクティクス」のクズ悪役貴族、アルフォンス・フォン・ヴァリエに転生した俺。
優れた魔術師の血統でありながら、アルフォンスは豚のようにデブっており、性格は傲慢かつ怠惰。しかも女の子を痛ぶるのが性癖のゴミクズ。
魔術の鍛錬はまったくしてないから、戦闘でもクソ雑魚であった。
ゲーム序盤で主人公にボコられて、悪事を暴かれて断罪される、ざまぁ対象であった。
プレイヤーをスカッとさせるためだけの存在。
そんな破滅の運命を回避するため、俺はレベルを上げまくって強くなる。
ついでに痩せて、女の子にも優しくなったら……なぜか主人公がキレ始めて。
「主人公は俺なのに……」
「うん。キミが主人公だ」
「お前のせいで原作が壊れた。絶対に許さない。お前を殺す」
「理不尽すぎません?」
原作原理主義の主人公が、俺を殺そうとしてきたのだが。
※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル表紙入り。5000スター、10000フォロワーを達成!
最強幼女は惰眠を求む! 〜神々のお節介で幼女になったが、悠々自適な自堕落ライフを送りたい〜
フウ
ファンタジー
※30話あたりで、タイトルにあるお節介があります。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
これは、最強な幼女が気の赴くままに自堕落ライフを手に入を手に入れる物語。
「……そこまでテンプレ守らなくていいんだよ!?」
絶叫から始まる異世界暗躍! レッツ裏世界の頂点へ!!
異世界に召喚されながらも神様達の思い込みから巻き込まれた事が発覚、お詫びにユニークスキルを授けて貰ったのだが…
「このスキル、チートすぎじゃないですか?」
ちょろ神様が力を込めすぎた結果ユニークスキルは、神の域へ昇格していた!!
これは、そんな公式チートスキルを駆使し異世界で成り上が……らない!?
「圧倒的な力で復讐を成し遂げる?メンド臭いんで結構です。
そんな事なら怠惰に毎日を過ごす為に金の力で裏から世界を支配します!」
そんな唐突に発想が飛躍した主人公が裏から世界を牛耳る物語です。
※やっぱり成り上がってるじゃねぇか。 と思われたそこの方……そこは見なかった事にした下さい。
この小説は「小説家になろう」 「カクヨム」でも公開しております。
上記サイトでは完結済みです。
上記サイトでの総PV1000万越え!
ド田舎からやってきた少年、初めての大都会で無双する~今まで遊び場にしていたダンジョンは、攻略不可能の規格外ダンジョンだったみたい〜
むらくも航
ファンタジー
ド田舎の村で育った『エアル』は、この日旅立つ。
幼少の頃、おじいちゃんから聞いた話に憧れ、大都会で立派な『探索者』になりたいと思ったからだ。
そんなエアルがこれまでにしてきたことは、たった一つ。
故郷にあるダンジョンで体を動かしてきたことだ。
自然と共に生き、魔物たちとも触れ合ってきた。
だが、エアルは知らない。
ただの“遊び場”と化していたダンジョンは、攻略不可能のSSSランクであることを。
遊び相手たちは、全て最低でもAランクオーバーの凶暴な魔物たちであることを。
これは、故郷のダンジョンで力をつけすぎた少年エアルが、大都会で無自覚に無双し、羽ばたいていく物語──。
【書籍化決定】神様お願い!〜神様のトバッチリを受けた定年おっさんは異世界に転生して心穏やかにスローライフを送りたい〜
きのこのこ
ファンタジー
突然白い発光体の強い光を浴びせられ異世界転移?した俺事、石原那由多(55)は安住の地を求めて異世界を冒険する…?
え?謎の子供の体?謎の都市?魔法?剣?魔獣??何それ美味しいの??
俺は心穏やかに過ごしたいだけなんだ!
____________________________________________
突然謎の白い発光体の強い光を浴びせられ強制的に魂だけで異世界転移した石原那由多(55)は、よちよち捨て子幼児の身体に入っちゃった!
那由多は左眼に居座っている神様のカケラのツクヨミを頼りに異世界で生きていく。
しかし左眼の相棒、ツクヨミの暴走を阻止できず、チート?な棲家を得て、チート?能力を次々開花させ異世界をイージーモードで過ごす那由多。「こいつ《ツクヨミ》は勝手に俺の記憶を見るプライバシークラッシャーな奴なんだ!」
そんな異世界は優しさで満ち溢れていた(え?本当に?)
呪われてもっふもふになっちゃったママン(産みの親)と御親戚一行様(やっとこ呪いがどうにか出来そう?!)に、異世界のめくるめくグルメ(やっと片鱗が見えて作者も安心)でも突然真夜中に食べたくなっちゃう日本食も完全完備(どこに?!)!異世界日本発福利厚生は完璧(ばっちり)です!(うまい話ほど裏がある!)
謎のアイテム御朱印帳を胸に(え?)今日も平穏?無事に那由多は異世界で日々を暮らします。
※一つの目的にどんどん事を突っ込むのでスローな展開が大丈夫な方向けです。
※他サイト先行にて配信してますが、他サイトと気が付かない程度に微妙に変えてます。
※昭和〜平成の頭ら辺のアレコレ入ってます。わかる方だけアハ体験⭐︎
⭐︎第16回ファンタジー小説大賞にて奨励賞受賞を頂きました!読んで投票して下さった読者様、並びに選考してくださったスタッフ様に御礼申し上げますm(_ _)m今後とも宜しくお願い致します。
天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生
西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。
彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。
精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。
晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。
死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。
「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」
晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる