30 / 36
29.シニガミ
しおりを挟む――暗闇の店内。微かな時計の進む音。
視界を照らす入る月明かり。
見れば覆いかぶさるようにミオちゃんが眠っている。スースーと寝息をたて、まるで赤ん坊のよう。なまらめんこい。
(っていうか、あれ?そういえばタケさん...どうしたんだろ。居ないみたいだけど...)
ミオちゃんを起こさないよう、視線をうごかし店内をみる。気配も感じない。
(私が寝てるから気を利かせてそのままにしてくれてるのかな...でも起きなきゃ。せっかくタケさんが傭兵を準備してくれたんだから)
「ミオちゃーん...」
「...ん...ぅ」
私の呼びかけに気がついたミオちゃん。こしこしと目をこする。猫みたい。かわいーっ。
「アカリ...あ、もう夜」
「うん。だからそろそろ街を出る準備しなきゃね」
「...わかったわ」
起きてソファへ腰掛ける。まあ、準備といっても特に何も準備することはないんすけどね。
「タケさん多分二階の自室にいるはずだから、呼んでくる」
「あ、あたしもついてく」
「ん」
タケさんの家は一階がお店で二階がお家。コンコンと扉をノックするが返事はない。
「...?」
ドアノブを回してみると、すんなり回った。ガチャリと扉を開け呼びかけるが、反応がない。と、いうか人の気配もない。
「居ないみたいね」と、ミオちゃんが。
「どうしたんだろ。何か用事ができてどっか出かけてるのかな?」
「その可能性はあるけど...もしかして、昼間に護衛所へ行ったきりだったり?」
「...こんな遅くまで...」
「メッセージは...通話してみたら?」
「あ、そっか」
私は登録してあったタケさんの名前を開く。通話マークを押し、コール音が鳴る。と、意外にも二コールですぐに繋がった。
「あ、もしもし、タケさん?」
『...』
「?...どうしたの?なんで黙ってるの」
『アカリちゃん』
その声色から重苦しい雰囲気が伝わってくる。もしかして、お金が足りなかったのかな?
「ん、なに?」
『...い、今すぐ、逃げるんじゃ!』
「え?」
と、その直後。
――ゴンッッ、と鈍い音がした。
『――ぐっ、ああっ、ああ!!』
タケさんの絶叫。
「...え、え、え?な、なに?」
そして、すぐにその叫びの理由を知ることになった。
『おー、アカリィ!お前、なんで俺からの着信拒否してんだよ??』
この声、ミノル!?
「な、なんで、っていうか、着信拒否なんて」
あ、もしかして。と、ダンジョンに居たことに思い当たる。確かダンジョン内では通信の類が行えない。そのタイミングで私にコンタクトをとったのか。
でも、私がダンジョンに居たなんて彼は信じない。
「ま、待って...ごめん、逃げる気はないの」
『おいおい、そりゃ無理だろ。このジイさんがお前の名前で護衛登録済ませるのを見たんだぜ?つーことは逃げるって事だろーが!』
護衛登録はその護衛をつける人間の名義でないとダメだ。それを逆手に取られた。私がもし逃げるとしたら、戦えないから必ず護衛をつけようとする...それを読まれて。
(...私が、そもそも護衛なんてお願いしなければ...タケさんに甘えなければ...)
「わかった...私、いまから行くから。ついたらタケさんを解放して...私はどうなっても良いから」
『おーおー、物分りがいいねえ。じゃ、護衛所近くまで来い。そこらへんにクランメンバーがいるからな。つーか、てめえ敬語つかえよ。おれはクランのマスターだぞコラ』
「...はい...すみません」
『それくらい考えて喋れよ、テーノーが。さっさと来い。このジジイが死なねえ内にな――プッ』
通話が切れた。
「...アカリ...」
「行く」
店の扉を開いた。
10
お気に入りに追加
359
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
無能扱いされ会社を辞めさせられ、モフモフがさみしさで命の危機に陥るが懸命なナデナデ配信によりバズる~色々あって心と音速の壁を突破するまで~
ぐうのすけ
ファンタジー
大岩翔(オオイワ カケル・20才)は部長の悪知恵により会社を辞めて家に帰った。
玄関を開けるとモフモフ用座布団の上にペットが座って待っているのだが様子がおかしい。
「きゅう、痩せたか?それに元気もない」
ペットをさみしくさせていたと反省したカケルはペットを頭に乗せて大穴(ダンジョン)へと走った。
だが、大穴に向かう途中で小麦粉の大袋を担いだJKとぶつかりそうになる。
「パンを咥えて遅刻遅刻~ではなく原材料を担ぐJKだと!」
この奇妙な出会いによりカケルはヒロイン達と心を通わせ、心に抱えた闇を超え、心と音速の壁を突破する。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる