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検討会そして(司)

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守は木曜日その日のうちに、海老沢先生の手術を肝胆膵外科に依頼した。

その夜は、ちょうど週に一度の外科全体の検討会があり、海老沢先生の手術は、再来週の月曜日 朝十時からということに決まった。

病院全体で手術はかなり立て込んでいるが、麻酔科とオペ室も協力してくれたため、どうにか手術を組み込む事ができた。

執刀医は肝胆膵外科の赤木教授、第一助手は教授のお気に入りで講師の安西あんざい先生、第二助手は新庄、第三助手は、患者が恩師という理由で、科は違うものの俺がやらせてもらう事になった。麻酔は『術師』と異名をとる、麻酔科の新見にいみ助教授だ。

因みに赤木教授は、夏休みを一日返上して執刀して下さる予定で、本当に有り難い限りだ。

診断が出た時点で守が教授に、『手術をお願いするかも知れません……』と、根回ししてくれていたのは知っている。
最終的にどんな頼み方をしたかは知らないが、あいつは本当に頼りになる。


検討会が終わって直ぐに、俺は海老沢先生に電話をかけ、内々に手術の日取りを連絡した。

先生は心からの感謝を口にしてから、「迷惑かけてすまないなぁ」と侘しい声でポツリと言った。
その瞬間、俺の胸に何かがつかえ、気づけば俺はそれを吐き出すかのように、言葉を迸らせていた。

「先生、僕が高校生のころ、ヤクザみたいな教師にこう言われた事があるんです。『教師ってのは生徒に寄り添うのが仕事だ、くだらないこと言ってんじゃねぇ』って。なんで言われたかまでは忘れちゃいましたけど。でも、医者も同じだと思いませんか?」

いや、医者だからじゃない、単純に俺があなたに寄り添いたいだけだ。

電話の向こうで、はなをすする微かな音が聞こえる。

思いがこみ上げてきて溢れ出しそうになり、俺は慌てて話題を切り変えた。

「そうだ、数子さんから聞きましたけど、将棋のお誘い有り難うございます。来週の水曜日に伺っても良いですか? 今週末は仕事で身動きがとれなさそうなので」

意識的に口の端を上向かせ、明るい声で尋ねると、
「あぁ、楽しみにしてるよ……」

先生の穏やかな声が、俺の胸に優しく響いた。


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