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外来(数子&守)

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木曜日の早朝、昨日お父さんと話し合った結果を、電話で鈴田先生に報告した。

『そうか……、分かった』

驚いているけれど、冷静に受け止めてくれたのが分かる。

「今日午前中休みがとれたから、お父さんと一緒に病院に行くつもり……あ、そうだ言い忘れるどころだった。お父さんからの伝言でね、なるべく早いうちに家に将棋を指しに来なさいって」

『ホントに?』

嬉しさの滲む声を聞きながら、緊張の糸が少しだけほぐれた。



電子カルテには海老沢さんの画像が映っている。何度見ても気持ちが重くなる。

今日、海老沢さんはどんな答えを持って来たのだろう。
マウスで海老沢さんの名前をクリックし、診察室へと案内した。

すーっと扉が開いて、海老沢さんが入ってくる。
いつも通りしっかりした表情だ。

「佐藤先生、私も一緒にいいですか?」

朗らかな声と共に、海老沢さんの後ろからもう一人。

「あれれっ、数子ちゃん!? もちろんどうぞ、二人とも座って下さい」

数秒後、正面に座る二人の顔をかわるがわる見つめた。とても落ち着いた表情だ。

「二人で話し合われたんですね?」

どんな話し合いをしたかは分からない。
ただ、じゅうぶん話し合って答えを持ってこられたのは分かる。

「ええ、先生のとってもよく知っている人が言っちゃったもんだから、ははは……」

海老沢さんは、まったく怒っていない。
どんないきさつでそうなったかは、司から聞いてご存知だろうし、むしろ言葉に愛情を感じるくらいだ。

そうですか……と言って深く嘆息し、
「ったくホンっトに悪い奴ですね。守秘義務違反で訴えちゃって下さい!」

「ま~、あいつが悪い奴なのは、昔っからですからね~、慣れてますよ」
言った海老沢さんも、数子ちゃんもクスクス笑っている。もちろん俺もつられてしまった。


そして、笑いが一段落したすぐあと、海老沢さんは真剣な顔に戻ってこう切り出した。
「佐藤先生……、手術を受けようと思います」
その言葉を引き継ぐように数子ちゃんも真っすぐに俺を見つめ
「先生、よろしくお願いします」
ハッキリと言って、折り目正しく頭を下げた。

二人の迷いの無い表情を見れば分かる。
もう、それ以上何も聞く必要はない。

「分かりました。命懸けの手術になります。でも精一杯お手伝いさせて頂きます」




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