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土曜日の晩餐 1(司)
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築四十年は優に経っているであろう海老沢家は、玄関も俺が通された居間も、すっきりと片付いていて落ち着いた雰囲気の家だ。
家の中にはカレーの香りが漂っており、家庭的な温もりが感じられる。
夕食の用意をすると言う先生に、「手伝います」と言ったが、「温めるだけだからいい、いい」と、笑顔で返された。
先生は、気を遣うなと言うように俺の肩を優しく叩き、座布団と新聞を勧め部屋から出て行った。
新聞を読み始めて十分くらい経った頃、先生がカレーとサラダの載ったお盆を手に戻って来た。
えっ!?
俺の為の大皿には山盛りのご飯がのり、大きめの肉や野菜や丸ごと一個の茹で卵がゴロンと入ったカレーが、並々とかかっている。
大皿の隣にのった白いボウルには、カラフルな野菜をたっぷり使ったサラダが盛ってある。
俺は食べ盛りの中高生か?
なんて思いつつも、「それくらい食べられるだろう?」と笑いかけられれば、「ええ」と反射的に唇が動き、つられてニコッと微笑み返していた。
何言っちゃってんだよ、オレ!
本音を言えばこのところ先生の事で食欲が無く、食事らしい食事をしていない。
今日も朝からコーヒーとコーラとクラッカー二枚しか口にしていないし、急にこんな量食べられるだろうか。
「美味しそうですね」
「ああ、かなり旨いと思うよ……。ははは、親バカだな」
嬉しそうに声を弾ませる先生の目の前の皿には、二,三口で終わってしまいそうな量しかのっておらず、サラダは無い。
「ああそうだ、さっき佐藤先生は『生活面での制限は特にありません』て言ってくれたけど、酒も良いのかな? 沢山飲むわけじゃないんだが」
「ええ、大丈夫ですよ」
「その…飲んでも一気に進行したりはしないかい?」
「(進行具合は)変わりませんよ」
深刻な話だからこそ、敢えて軽めに言って微笑した。
「はは、そうか……。じゃあ今、少しだけビールを飲んでも良いかな? 運転があって飲めない君の前で悪いんだが」
飲まないと、やりきれない気分なのだろう……
「好きなだけ飲んで下さい。僕も数子さんのカレーを沢山頂きますから」
俺は少しおどけて言って、目の前の山盛りのカレーを見詰めた。
お、多い……噴火した山みたいだ。
数分後
二人そろって「頂きます」
山の頂上近くをすくって、パクリ
おっ!!
更に一口…二口…
数子のカレーはしっかり辛さがある反面、具材の甘味が溶け込んでいるせいか、コクがあってまろやかだ。
それでいて不思議と野菜は煮崩れておらず、ゴロゴロしていた。
「どうだ?」
心配そうな声に、
「今まで食べたカレーの中で、マジで一番旨いです」
考えるより先に言葉が出た。
「そうか、マジで一番旨いか」
先生は、目が無くなってしまいそうなほど嬉しそうに顔を綻ばせた。
「肉は歯が必要無いほど柔らかいですし、卵の入ったカレーは初めて食べましたけど、凄く合いますねぇ……」
ちょっと感動しながら言った。
「だろう? ははは」
その後先生は嬉しそうに、数子の卵焼きやコロッケは絶品だとか、数子は学生時代にうどん屋で仕込みと調理のバイトをしてたから、手打ちうどんはプロ並みだとか、色々話をしてくれた。
「ああ見えて結構酒が強いんだぞ」
結構どころか蟒蛇だ!
なんてツッコミは勿論入れなかった。
スプーン片手に相槌を打ちつつ楽しく話を聞いていたが、気付けばカレーの山は俺の腹に消えていて、かなり満腹になっていた。
最後のひと匙を口に運びながら、苦も無く完食し、満足している自分にクスリとした。
その後も先生は、数子についての思い出話を、懐かしそうにあれこれ聞かせてくれたが、ある瞬間、纏った空気が急に硬く重たくなった。
「鈴田先生、何もしない場合、私はどういう経過を辿るのかな?」
家の中にはカレーの香りが漂っており、家庭的な温もりが感じられる。
夕食の用意をすると言う先生に、「手伝います」と言ったが、「温めるだけだからいい、いい」と、笑顔で返された。
先生は、気を遣うなと言うように俺の肩を優しく叩き、座布団と新聞を勧め部屋から出て行った。
新聞を読み始めて十分くらい経った頃、先生がカレーとサラダの載ったお盆を手に戻って来た。
えっ!?
俺の為の大皿には山盛りのご飯がのり、大きめの肉や野菜や丸ごと一個の茹で卵がゴロンと入ったカレーが、並々とかかっている。
大皿の隣にのった白いボウルには、カラフルな野菜をたっぷり使ったサラダが盛ってある。
俺は食べ盛りの中高生か?
なんて思いつつも、「それくらい食べられるだろう?」と笑いかけられれば、「ええ」と反射的に唇が動き、つられてニコッと微笑み返していた。
何言っちゃってんだよ、オレ!
本音を言えばこのところ先生の事で食欲が無く、食事らしい食事をしていない。
今日も朝からコーヒーとコーラとクラッカー二枚しか口にしていないし、急にこんな量食べられるだろうか。
「美味しそうですね」
「ああ、かなり旨いと思うよ……。ははは、親バカだな」
嬉しそうに声を弾ませる先生の目の前の皿には、二,三口で終わってしまいそうな量しかのっておらず、サラダは無い。
「ああそうだ、さっき佐藤先生は『生活面での制限は特にありません』て言ってくれたけど、酒も良いのかな? 沢山飲むわけじゃないんだが」
「ええ、大丈夫ですよ」
「その…飲んでも一気に進行したりはしないかい?」
「(進行具合は)変わりませんよ」
深刻な話だからこそ、敢えて軽めに言って微笑した。
「はは、そうか……。じゃあ今、少しだけビールを飲んでも良いかな? 運転があって飲めない君の前で悪いんだが」
飲まないと、やりきれない気分なのだろう……
「好きなだけ飲んで下さい。僕も数子さんのカレーを沢山頂きますから」
俺は少しおどけて言って、目の前の山盛りのカレーを見詰めた。
お、多い……噴火した山みたいだ。
数分後
二人そろって「頂きます」
山の頂上近くをすくって、パクリ
おっ!!
更に一口…二口…
数子のカレーはしっかり辛さがある反面、具材の甘味が溶け込んでいるせいか、コクがあってまろやかだ。
それでいて不思議と野菜は煮崩れておらず、ゴロゴロしていた。
「どうだ?」
心配そうな声に、
「今まで食べたカレーの中で、マジで一番旨いです」
考えるより先に言葉が出た。
「そうか、マジで一番旨いか」
先生は、目が無くなってしまいそうなほど嬉しそうに顔を綻ばせた。
「肉は歯が必要無いほど柔らかいですし、卵の入ったカレーは初めて食べましたけど、凄く合いますねぇ……」
ちょっと感動しながら言った。
「だろう? ははは」
その後先生は嬉しそうに、数子の卵焼きやコロッケは絶品だとか、数子は学生時代にうどん屋で仕込みと調理のバイトをしてたから、手打ちうどんはプロ並みだとか、色々話をしてくれた。
「ああ見えて結構酒が強いんだぞ」
結構どころか蟒蛇だ!
なんてツッコミは勿論入れなかった。
スプーン片手に相槌を打ちつつ楽しく話を聞いていたが、気付けばカレーの山は俺の腹に消えていて、かなり満腹になっていた。
最後のひと匙を口に運びながら、苦も無く完食し、満足している自分にクスリとした。
その後も先生は、数子についての思い出話を、懐かしそうにあれこれ聞かせてくれたが、ある瞬間、纏った空気が急に硬く重たくなった。
「鈴田先生、何もしない場合、私はどういう経過を辿るのかな?」
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