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横浜デート 1(数子)

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翌日(水曜日) 十九時半 

オレンジ、ゴールド、シルバー、ブルー、首都高湾岸線から見える色とりどりの夜景に溜め息が零れる。


本当なら今ごろ家で、お父さんとささやかな退院祝いをしている筈だったけれど、お父さんが昨日の夕方三十八度七分の熱を出したため、退院は延期になってしまった。

幸い今日は熱も下がり食欲もあるため、明日(木曜日)の午前中には退院して良いと、さっきの回診の時に鈴田先生からお墨付きを貰えたけれど。

「君、外勤の後、また大学病院こっちで仕事か、大変だなぁ」

主治医に対する言葉にしては、かなり礼儀を欠いていると思う。

でも鈴田先生への失礼な言葉遣いを注意するたびに、逆に先生から、敬語を使われる方が困ると言われ、今では私も何も言わなくなった。

恐らくお父さんにとって鈴田先生は、いつまでたっても可愛い生徒のままなのだろうし、先生にとってもお父さんは、良くも悪くも先生なのだろう。

「今日はもう帰るつもりですよ」

穏やかに言って微笑む鈴田先生。
私の目からは、先生もお父さんを好きなように見えるけれど、演技なのかしらね?

「そうか……なら良いが、無理するなよ」

思わず二人の遣り取りをじぃっと見つめていたら、あらら先生と目が合っちゃった。
何となく決まりが悪くて、嘘臭い笑みを浮かべて視線を逸らす私。

「数子も今日はもう帰ってゆっくりしなさい。昨夜は遅くまでいてくれたから」

お父さんからそう言われ、七時ごろには病室を後にした。

その数分後、鈴田先生からラインにメッセージが届いた。

『決定事項:今夜横浜デート! 七時十五分病院ロビー待ち合わせ』

このデートの相手って、私……よね?

正直鈴田先生と付き合っているという実感が殆ど無くて、デートと言われても、どこか他人事のように思えてピンとこない。
かと言って、一緒に出掛けるのが嫌なわけではない。

おととい迄だったら確実に
『私の予定も聞かずに決定事項って、勝手過ぎるでしょー!』
と思った筈なのに、ライン見ながらちょっと心が躍ったのは、どうしてだろう……?
自分の気持ちを量りかね、戸惑ってしまう。

そんなフワフワと曖昧な気持ちを抱えたまま、私は白のボルボの助手席に乗り、行きたい場所はと聞かれれば、笑顔で『横浜水族館』と答えていた。

「でも時間的に無理だよね」と付け加えると、
「無理じゃないよ。さっきちらっと横浜情報ググったけど、夏休み期間中金曜土曜は十時まで、それ以外の日は九時まで営業してるってさ。夕食遅くなるけど行こ、俺も行きたいし」

その明るい声や上向いた唇の端に、何だかとても嬉しくなった。


この後何が起こるかなんて、知る由もなく。




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