17 / 77
家飲み 3(司)
しおりを挟む
「わあっ」
数子が俺の手元を見ながら目をキラキラさせ、女の子らしい声を上げる。
俺が二枚の皿に載せているのは、コンビニで買った二個入りのショートケーキで、片方に蝋燭を挿して火を点けた。
「誕生日おめでとう。願い事して火ぃ消して」
バースデーケーキがコンビニスイーツじゃ、嫌かもな……なんて思ったが、
「わ、嬉しい!! さっきカゴには入れてなかったから、もともとお家にあったものですか?」
予想外の明るい反応に面食らってしまった。
「いや、数子がお泊りグッズ買いに行った後、デザートコーナーで見つけて入れたんだよ。おっと、蝋が垂れて来てるから早くしな……」
数秒後、彼女は嬉しそうな顔をしながらふーっと火を吹き消した。
「頂きます」とパクリ。
目を細めて「美味し……ふふっ」
見ているこっちがハッピーな気分になる。
「コンビニのでごめんな。それに蝋燭も白くて太くて長いし……」
数子はアハハと楽し気に笑ってくれた。
「無いより有った方が良いかなと思ったけど、こうやって見ると、ちょっと痛々しいものがあるかもな?」
数子は頭を左右に振って、
「そんな事ないですよ。お祝いしようとしてくれた気持ちが伝わって来ますし、とっても嬉しいです」
優しい表情で言ってニッコリ微笑んだ。
「そう言えば、私が小五の時に母が男の人作って出て行っちゃったんですけど、それが誕生日の一週間前で、選りによって酷いでしょう……」
数子は自嘲気味にアハハと乾いた声で笑い、全ての鬼ころしを飲み干した。
にしても、行き成りもの凄い爆弾ぶっこんできたな……。さすがだ。
「大変だったんだな……」
海老沢先生が離婚してるのは、高校時代から知っていたが、奥さんの浮気が原因とは知らなかった。
数子は曖昧に微笑み、すっと立ち上がって部屋の隅まで行くと、自分で買った物が入っているコンビニのレジ袋をゴソゴソして戻って来た。
えええーっ、次は麦焼酎かよお嬢さんっ!!!
ミネラルウォータと梅干しも買ってきたようで、裂きイカを食べながら慣れた手つきで水割りを作り、梅干しを沈めコンビニで貰ったらしき割り箸でガシガシ潰す。
やさぐれ感が半端ないし、自然体過ぎて、この子マジで超ウケる!!
あ、目が合った。話しかけても良いかな?
「お母さんとは、その後連絡取ってるのか?」
数子は頭を横に振り、ぐいっと焼酎を呷った。
「父には言って無いんですけど、母が出て行った1年後くらいに家に電話がかかって来たんです。『数子ごめんね』って言って泣いてました。でも私『2度とかけて来ないで!』って一方的に切っちゃったんです。捨てられたみたいで、寂しかったし悲しかったし、子供心に母の女の部分も知りたく無かったし、とにかく許せなくて」
傷付いた数子の気持ちが、痛いくらいに伝わって来る。
俺は気の利いた言葉を言う事も出来ず、ただ小さく二度頷いた。
「でも電話くれて、本当は嬉しかったんです。また掛かってこないかな……なんて、高校生の頃までしょっちゅう思ってました。自分で電話切ったくせに馬鹿ですよね……」
「馬鹿なんかじゃないよ……」
数子はハハハと寂しそうに笑った。
「大学一年の時、偶然東京駅で母を見かけたんです。旦那さんと娘2人に囲まれた幸せそうな奥さん、て感じでした……。でもどう見ても母で、私は直ぐに分かりました」
「声かけたのか!?」
思わず身を乗り出すように聞くと、数子は否定するように頭を振った。
「懐かしい声を聞きながら、ゆっくり目の前を通ったけど、母は私に気付きもせず、女の子と楽しそうにおしゃべりしてました。悲しくて後から涙がこぼれたけど、それで妙に吹っ切れたんです」
瞼の淵にせり上がった涙が、チークとアルコールで赤く染まった頬を伝う。
吹っ切れたと言ったけれど、これから先もお母さんへの思いは、数子の胸に棘のように刺さり続けるのだろう。
「その一年後くらいに、父方の親戚のおばさんが口を滑らせたんですけど、母はずっと前に浮気相手と再婚してたそうです。旦那さんになった人には、死別した奥さんとの間に、私より年下の娘さんが二人いるって。やっぱりね、って思いました。おばさん、私が母の再婚の事、聞かされてないと思ってなかったみたいです」
今までこの子は明るい笑顔の奥で、いったいどれだけ傷つき、一人で耐えてきたのだろう……。
俺はみぞおちに感じる鈍い痛みを誤魔化すように、一気にサワーを飲み干した。
数子が俺の手元を見ながら目をキラキラさせ、女の子らしい声を上げる。
俺が二枚の皿に載せているのは、コンビニで買った二個入りのショートケーキで、片方に蝋燭を挿して火を点けた。
「誕生日おめでとう。願い事して火ぃ消して」
バースデーケーキがコンビニスイーツじゃ、嫌かもな……なんて思ったが、
「わ、嬉しい!! さっきカゴには入れてなかったから、もともとお家にあったものですか?」
予想外の明るい反応に面食らってしまった。
「いや、数子がお泊りグッズ買いに行った後、デザートコーナーで見つけて入れたんだよ。おっと、蝋が垂れて来てるから早くしな……」
数秒後、彼女は嬉しそうな顔をしながらふーっと火を吹き消した。
「頂きます」とパクリ。
目を細めて「美味し……ふふっ」
見ているこっちがハッピーな気分になる。
「コンビニのでごめんな。それに蝋燭も白くて太くて長いし……」
数子はアハハと楽し気に笑ってくれた。
「無いより有った方が良いかなと思ったけど、こうやって見ると、ちょっと痛々しいものがあるかもな?」
数子は頭を左右に振って、
「そんな事ないですよ。お祝いしようとしてくれた気持ちが伝わって来ますし、とっても嬉しいです」
優しい表情で言ってニッコリ微笑んだ。
「そう言えば、私が小五の時に母が男の人作って出て行っちゃったんですけど、それが誕生日の一週間前で、選りによって酷いでしょう……」
数子は自嘲気味にアハハと乾いた声で笑い、全ての鬼ころしを飲み干した。
にしても、行き成りもの凄い爆弾ぶっこんできたな……。さすがだ。
「大変だったんだな……」
海老沢先生が離婚してるのは、高校時代から知っていたが、奥さんの浮気が原因とは知らなかった。
数子は曖昧に微笑み、すっと立ち上がって部屋の隅まで行くと、自分で買った物が入っているコンビニのレジ袋をゴソゴソして戻って来た。
えええーっ、次は麦焼酎かよお嬢さんっ!!!
ミネラルウォータと梅干しも買ってきたようで、裂きイカを食べながら慣れた手つきで水割りを作り、梅干しを沈めコンビニで貰ったらしき割り箸でガシガシ潰す。
やさぐれ感が半端ないし、自然体過ぎて、この子マジで超ウケる!!
あ、目が合った。話しかけても良いかな?
「お母さんとは、その後連絡取ってるのか?」
数子は頭を横に振り、ぐいっと焼酎を呷った。
「父には言って無いんですけど、母が出て行った1年後くらいに家に電話がかかって来たんです。『数子ごめんね』って言って泣いてました。でも私『2度とかけて来ないで!』って一方的に切っちゃったんです。捨てられたみたいで、寂しかったし悲しかったし、子供心に母の女の部分も知りたく無かったし、とにかく許せなくて」
傷付いた数子の気持ちが、痛いくらいに伝わって来る。
俺は気の利いた言葉を言う事も出来ず、ただ小さく二度頷いた。
「でも電話くれて、本当は嬉しかったんです。また掛かってこないかな……なんて、高校生の頃までしょっちゅう思ってました。自分で電話切ったくせに馬鹿ですよね……」
「馬鹿なんかじゃないよ……」
数子はハハハと寂しそうに笑った。
「大学一年の時、偶然東京駅で母を見かけたんです。旦那さんと娘2人に囲まれた幸せそうな奥さん、て感じでした……。でもどう見ても母で、私は直ぐに分かりました」
「声かけたのか!?」
思わず身を乗り出すように聞くと、数子は否定するように頭を振った。
「懐かしい声を聞きながら、ゆっくり目の前を通ったけど、母は私に気付きもせず、女の子と楽しそうにおしゃべりしてました。悲しくて後から涙がこぼれたけど、それで妙に吹っ切れたんです」
瞼の淵にせり上がった涙が、チークとアルコールで赤く染まった頬を伝う。
吹っ切れたと言ったけれど、これから先もお母さんへの思いは、数子の胸に棘のように刺さり続けるのだろう。
「その一年後くらいに、父方の親戚のおばさんが口を滑らせたんですけど、母はずっと前に浮気相手と再婚してたそうです。旦那さんになった人には、死別した奥さんとの間に、私より年下の娘さんが二人いるって。やっぱりね、って思いました。おばさん、私が母の再婚の事、聞かされてないと思ってなかったみたいです」
今までこの子は明るい笑顔の奥で、いったいどれだけ傷つき、一人で耐えてきたのだろう……。
俺はみぞおちに感じる鈍い痛みを誤魔化すように、一気にサワーを飲み干した。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1,388
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる