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給湯室にて(数子)
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翌朝(月曜日) 会社の給湯室
お茶当番の作業をしながら、今朝の事が切れ切れに頭に浮かんで、顔が火照ってしまう。
いつも六時四十五分には家を出るという鈴田先生に合わせて、私も一緒に出ることにした。
『ここオートロックだから、数子はゆっくり出ればいいのに』
そう言ってくれたけれど、首筋の真っ赤な痣を早く何とかしたかった。
今朝洗面所で鏡を見た時は、目を見開いて硬直すると同時に、
ギャー! なんでこんなにくっきり、まったくどんなつけ方したのよーっ!
と、思わず心の中で叫んでしまった。
刻み込まれた時のチリっとした痛みだけではなく、外から見えるところに痕が残る恥かしさも、お仕置きの一環てこと!?
ファンデでは今いちカバーしきれず、出社する前に何処かのドラッグストアに駆け込んで、コンシーラーを買って塗り込まないと、どうにもならない。
先生に文句の一つも言いたかったけれど、キスマークの話なんて気恥ずかしいし、それに今朝は何だか優しかったし結局、
『今日はお茶当番だし、早めに片づけたい仕事もあるので』
とお茶を濁した。
そして家を出る直前、解散へのカウントダウンが聞こえる玄関で、いきなり唇にキスされた。
触れるだけの軽いものだったけれど、体温に混じる仄かな草原のような香りと柔らかな感触に、トクンと心臓が跳ね上がった。
驚いて声も出せない私に、先生は『予行演習だから慣れろ……』と、さらっと言って微笑した。
問題なのは、少しも嫌じゃなかったこと。それどころか不思議と胸がときめいてしまった。
そのあと直ぐに解散にはならず、最寄りの駅まで車で送って貰ったけれど、車の中でもドキドキが止まらなかった。
癪だから、先生には絶対教えてあげないけど。
お父さんが退院したら、先生との事は自然消滅させるつもりなのに……。
「おはよっ!」
明るく声をかけながら給湯室に入って来たのは、同じ半導体営業課で3年先輩の鈴木怜花さん。
「あ……、お早うございます! 怜花さん早いですね」
「うん、午後半休取るから、ちょっと早く来たの。エビちゃん、昨日披露宴どうだった?」
年頃の女性なら興味がある話題だけれど、怜花さんは来月挙式を控えているから尚更だと思う。
ちなみに今日は午後、ホテルのスタッフと披露宴の打ち合わせがあるそうだ。
「凄く煌びやかで素敵でしたよ~。私の友達、もともと美人なんですけど、昨日は溜め息が出るくらい綺麗でしたし、リッチランドも凄く高級感があって流石って感じでした」
一呼吸おいて話しを続けようとした時
「ねえエビちゃん声、風邪? あれあれ髪が……」
怜花さんは、そう言うなりニヤッと悪戯っぽい笑みを浮かべている。
彼女は女子力が凄く高くて勘が鋭いので、場合によってはちょっと怖~い存在だ。
「私も彼のシャンプー使うと、そんな感じでちょっとごわつくから、って失礼な事言ってゴメンネ、でも彼氏ので洗ったでしょー? 昨日彼氏の家にお泊りして、その声、朝まで寝かせませんよコース?」
と、目をキラッキラ輝かせて楽しそう。
「ちがっ」酒焼けです。
と反論しようとした瞬間、「ちょ、エビちゃん首!」
「え?」
「コンシーラーでキスマーク隠してるでしょ!? 超ラブラブ~」
溜め息交じりの声に、
「あ、いえあの…そうじゃ無くて、これはお仕置きで」
言った瞬間まずいと思ったけれど、あとの祭り。
「お仕置きっ!? 嫉妬されてとか? めっっっちゃくちゃ愛されてるね~! 身も心もぉぉ」
くすくす笑う先輩に、金魚のように口をパクパクさせ真っ赤になる私。数子のバカ!
「あ、あの私、氷とって来なきゃいけないから、ちょ、ちょっと行って来ます」
「はいはい、いってらっしゃーい」
明るい声を聞きながらボックス型の氷入れを持ち、給湯室を後にした。
頭を空っぽにしたくて、重い扉を開け非常階段を利用して六階から地下一階まで一気に駆け下りる。
まさか怜花さんとの会話を、近くの自販機の前にいた優君に聞かれていたなんて、夢にも思わなかった。
お茶当番の作業をしながら、今朝の事が切れ切れに頭に浮かんで、顔が火照ってしまう。
いつも六時四十五分には家を出るという鈴田先生に合わせて、私も一緒に出ることにした。
『ここオートロックだから、数子はゆっくり出ればいいのに』
そう言ってくれたけれど、首筋の真っ赤な痣を早く何とかしたかった。
今朝洗面所で鏡を見た時は、目を見開いて硬直すると同時に、
ギャー! なんでこんなにくっきり、まったくどんなつけ方したのよーっ!
と、思わず心の中で叫んでしまった。
刻み込まれた時のチリっとした痛みだけではなく、外から見えるところに痕が残る恥かしさも、お仕置きの一環てこと!?
ファンデでは今いちカバーしきれず、出社する前に何処かのドラッグストアに駆け込んで、コンシーラーを買って塗り込まないと、どうにもならない。
先生に文句の一つも言いたかったけれど、キスマークの話なんて気恥ずかしいし、それに今朝は何だか優しかったし結局、
『今日はお茶当番だし、早めに片づけたい仕事もあるので』
とお茶を濁した。
そして家を出る直前、解散へのカウントダウンが聞こえる玄関で、いきなり唇にキスされた。
触れるだけの軽いものだったけれど、体温に混じる仄かな草原のような香りと柔らかな感触に、トクンと心臓が跳ね上がった。
驚いて声も出せない私に、先生は『予行演習だから慣れろ……』と、さらっと言って微笑した。
問題なのは、少しも嫌じゃなかったこと。それどころか不思議と胸がときめいてしまった。
そのあと直ぐに解散にはならず、最寄りの駅まで車で送って貰ったけれど、車の中でもドキドキが止まらなかった。
癪だから、先生には絶対教えてあげないけど。
お父さんが退院したら、先生との事は自然消滅させるつもりなのに……。
「おはよっ!」
明るく声をかけながら給湯室に入って来たのは、同じ半導体営業課で3年先輩の鈴木怜花さん。
「あ……、お早うございます! 怜花さん早いですね」
「うん、午後半休取るから、ちょっと早く来たの。エビちゃん、昨日披露宴どうだった?」
年頃の女性なら興味がある話題だけれど、怜花さんは来月挙式を控えているから尚更だと思う。
ちなみに今日は午後、ホテルのスタッフと披露宴の打ち合わせがあるそうだ。
「凄く煌びやかで素敵でしたよ~。私の友達、もともと美人なんですけど、昨日は溜め息が出るくらい綺麗でしたし、リッチランドも凄く高級感があって流石って感じでした」
一呼吸おいて話しを続けようとした時
「ねえエビちゃん声、風邪? あれあれ髪が……」
怜花さんは、そう言うなりニヤッと悪戯っぽい笑みを浮かべている。
彼女は女子力が凄く高くて勘が鋭いので、場合によってはちょっと怖~い存在だ。
「私も彼のシャンプー使うと、そんな感じでちょっとごわつくから、って失礼な事言ってゴメンネ、でも彼氏ので洗ったでしょー? 昨日彼氏の家にお泊りして、その声、朝まで寝かせませんよコース?」
と、目をキラッキラ輝かせて楽しそう。
「ちがっ」酒焼けです。
と反論しようとした瞬間、「ちょ、エビちゃん首!」
「え?」
「コンシーラーでキスマーク隠してるでしょ!? 超ラブラブ~」
溜め息交じりの声に、
「あ、いえあの…そうじゃ無くて、これはお仕置きで」
言った瞬間まずいと思ったけれど、あとの祭り。
「お仕置きっ!? 嫉妬されてとか? めっっっちゃくちゃ愛されてるね~! 身も心もぉぉ」
くすくす笑う先輩に、金魚のように口をパクパクさせ真っ赤になる私。数子のバカ!
「あ、あの私、氷とって来なきゃいけないから、ちょ、ちょっと行って来ます」
「はいはい、いってらっしゃーい」
明るい声を聞きながらボックス型の氷入れを持ち、給湯室を後にした。
頭を空っぽにしたくて、重い扉を開け非常階段を利用して六階から地下一階まで一気に駆け下りる。
まさか怜花さんとの会話を、近くの自販機の前にいた優君に聞かれていたなんて、夢にも思わなかった。
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