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食べたい、食べてやる(優一郎&数子)
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同じ頃、優一郎もBMWの助手席に花音を乗せていた。
「披露宴、どうだった?」
「まあまあかな。リッチランドだから期待してたけど、お料理とかケチってるのが見え見えだったし」
数子なら、ゼッタイこんな事は言わないのに……。
「ふぅん、ねえ花音、どうしてさっき数子にあんな事言ったの?」
「え、あんな事って?」
「レンタル彼氏とかホストとか、数子を侮辱するような事言ったろう?」
「……だって全然似合ってなかったし、数子が大金使って見栄張ってニセ物の彼氏連れて来たと思ったから」
数子はそんな事しない。
「私にも責任があるわけだし、なんだかあの子の事が心配になっちゃって、回りくどい言い方だと伝わらないと思ったから、言いにくかったけど敢えてズバッと聞いたの」
数子の事が心配? よく言うよ。
「俺にはそうは聞こえなかったけど」
「優君、なに言ってるの? あんなルックスの良い人がわざわざ数子と付き合うなんて、魂胆があるとしか思えないし、私は本当に友達として数子の事が心配なだけ!」
花音は拗ねたように言った。
単に数子が自分の彼氏よりカッコ良い男といるのが、許せなかっただけだろう?
「ふぅんそう……。俺は数子の人柄に惹かれて付き合ってたけどね」
数子に別れを告げた直後から、霧が晴れたように色々なものが見えて来た。
あの時までは数子が傍にいる事が当たり前すぎて、有り難みなんて感じなかった。
数子と話したり抱き締めたりキス出来ない事が、これ程寂しいなんて思いもしなかった。
彼女の声や笑顔や仕草や優しさ、温もりや肌の香りにどれだけ癒され、満たされていたか、失って初めて気付くなんて、俺は本当に馬鹿だった。
一方的に手を離したのは俺の方だけど、なんであんなに簡単に他の男と付き合い始めるんだよ。
あの男に大人しく手を引かれているのを見た時は、血が煮え滾り逆流しそうな思いがした。
くそっ、数子が俺以外の男と付き合うなんて絶対に嫌だ。
ふと幸せな食卓の光景が頭をよぎる。
ハンバーグも肉じゃがもビーフシチューも、数子が作ったものは全部旨かった。
卵焼きは、甘くて絶品だったな。
差し向かいに座って、冗談や他愛もない話をしながら、あの笑顔を見ながら、また彼女の手料理が食べたい。
今度こそ大切にするから……
*****
「数子、俺一,二時間寝るから、掃除と洗濯よろしく!」
鈴田先生の住んでいる2LDKのファミリータイプのマンションは、男性の一人暮らしにしては、パッと見片付いている方だった。
が、ががが、洗濯物の量が半端ない!
「どれだけ溜めたんですか!!?」
「三週間くらいぃ?」
いけしゃあしゃあと語尾を上げてニッコリ。
この人、ホントに私のこと小間使いとしてこき使う気だわ。
ハハハ……笑うしかないやぁねぇ~。
「寝る前に、なんか食おうかな……。考えてみたらオレ今日、イチゴ牛乳しか飲んでないしなぁ」
と独り言のようにブツブツ。
ちょっと可哀想かも……。
「何か作りましょうか? こう見えてお料理結構得意なんですよ」
と微笑めば、「ああ頼む」と機嫌良さそうに言って、棚からカップ麺を取り出し、私に向かってポイッ。
えー、この人家でも!?
こんなものばっかりじゃ栄養取れないのに……。
「数子も食べる?」
「私はお腹いっぱい食べて来たので、いいです」
「そぉ、じゃ俺着替えてくるから、それ作っといて」
七,八分後、Tシャツとスウェットに着替えた鈴田先生が戻って来た。
「数子、サンキュー」
歌うような声に、「ちょうど出来上がるところですよ」と微笑みながら言う。
それにしてもこの人何着ても似合うな~、羨ましい。
なんて考えながら、調味料の入った小袋を開ける。
「喉乾いた」
先生はそう言って、冷蔵庫のドアに手をかけたけど、あれ? ドア開けずに、私の手元2度見した?
不思議に思った瞬間、慌てた声が飛んできた。
「おまっ、なにお湯捨てる前に、しれっとソース入れちゃってんだよっ!?」
「え? あっ!」
しまった、カップ焼きそば作るの初めてだったから、作り方ちゃんと読んだ筈なのに、ついつい惰性で、お湯を捨てるの忘れてたーーー!!
「お前ぇぇ、さっき料理得意とかほざきやがったよなぁ!?」
「ごめんなさいっっ、直ぐに新しいの作りますから!」
先生はくすっと笑って、二つのコップにペットボトルのお茶を注ぎながら、
「まぁ、食えればいいさ。お湯捨ててそこ置いて」
と、さらりと言った。
「これ食べるんですか?」
目をしばたかせながら聞くと、「食べるけど?」と小首を傾げる。
「一粒のコメには八十八人の神様が宿ってるんだぞ、粗末には出来ないだろう?」
「あぁあ成る程ねって、これ麺ですよ」
「似たようなもんだ。……頂きます」
意外と美味しそうに食べる顔にホッとして、
「お味、大丈夫ですか?」と聞けば、
「作ったアホに殺意を感じるほど激マズだ! ったくお前、ルール無視にもほどがあんだろぅっ!?」
と揶揄うように毒舌を吐きながら完食。
くぅぅ、数子痛恨のミス、言い返せませーん!
「ごちそう様。料理下手な彼女が作ったくっそ不味い料理を旨そ~に食べてやるのも、彼氏…将来的には夫のつとめだ」
先生は私の顔を見ながら、口の端を上げて悪戯っぽく笑っている。
きっと私いま色んな意味で恥ずかしくて、熟れすぎたトマトよりも真っ赤なはず。
「じゃ、俺寝るから、掃除と洗濯よろしく。ああ、足りないものあったら下のコンビニで買って来て。じゃ、お休み~」
言いながら、お気楽な感じで去って行った。
自分勝手で物凄く変わった人だけど、たまに優しいかも……。
さっきもホテルのロビーで助けてくれたし。
ま、そういうつもりじゃなかったみたいだけど。
にしても下着まで洗わせるって……もぉぉ、いったい何枚あるのよぉぉ!!
私は立て続けに、ボクサーパンツを洗濯機に放りこんだ。
「披露宴、どうだった?」
「まあまあかな。リッチランドだから期待してたけど、お料理とかケチってるのが見え見えだったし」
数子なら、ゼッタイこんな事は言わないのに……。
「ふぅん、ねえ花音、どうしてさっき数子にあんな事言ったの?」
「え、あんな事って?」
「レンタル彼氏とかホストとか、数子を侮辱するような事言ったろう?」
「……だって全然似合ってなかったし、数子が大金使って見栄張ってニセ物の彼氏連れて来たと思ったから」
数子はそんな事しない。
「私にも責任があるわけだし、なんだかあの子の事が心配になっちゃって、回りくどい言い方だと伝わらないと思ったから、言いにくかったけど敢えてズバッと聞いたの」
数子の事が心配? よく言うよ。
「俺にはそうは聞こえなかったけど」
「優君、なに言ってるの? あんなルックスの良い人がわざわざ数子と付き合うなんて、魂胆があるとしか思えないし、私は本当に友達として数子の事が心配なだけ!」
花音は拗ねたように言った。
単に数子が自分の彼氏よりカッコ良い男といるのが、許せなかっただけだろう?
「ふぅんそう……。俺は数子の人柄に惹かれて付き合ってたけどね」
数子に別れを告げた直後から、霧が晴れたように色々なものが見えて来た。
あの時までは数子が傍にいる事が当たり前すぎて、有り難みなんて感じなかった。
数子と話したり抱き締めたりキス出来ない事が、これ程寂しいなんて思いもしなかった。
彼女の声や笑顔や仕草や優しさ、温もりや肌の香りにどれだけ癒され、満たされていたか、失って初めて気付くなんて、俺は本当に馬鹿だった。
一方的に手を離したのは俺の方だけど、なんであんなに簡単に他の男と付き合い始めるんだよ。
あの男に大人しく手を引かれているのを見た時は、血が煮え滾り逆流しそうな思いがした。
くそっ、数子が俺以外の男と付き合うなんて絶対に嫌だ。
ふと幸せな食卓の光景が頭をよぎる。
ハンバーグも肉じゃがもビーフシチューも、数子が作ったものは全部旨かった。
卵焼きは、甘くて絶品だったな。
差し向かいに座って、冗談や他愛もない話をしながら、あの笑顔を見ながら、また彼女の手料理が食べたい。
今度こそ大切にするから……
*****
「数子、俺一,二時間寝るから、掃除と洗濯よろしく!」
鈴田先生の住んでいる2LDKのファミリータイプのマンションは、男性の一人暮らしにしては、パッと見片付いている方だった。
が、ががが、洗濯物の量が半端ない!
「どれだけ溜めたんですか!!?」
「三週間くらいぃ?」
いけしゃあしゃあと語尾を上げてニッコリ。
この人、ホントに私のこと小間使いとしてこき使う気だわ。
ハハハ……笑うしかないやぁねぇ~。
「寝る前に、なんか食おうかな……。考えてみたらオレ今日、イチゴ牛乳しか飲んでないしなぁ」
と独り言のようにブツブツ。
ちょっと可哀想かも……。
「何か作りましょうか? こう見えてお料理結構得意なんですよ」
と微笑めば、「ああ頼む」と機嫌良さそうに言って、棚からカップ麺を取り出し、私に向かってポイッ。
えー、この人家でも!?
こんなものばっかりじゃ栄養取れないのに……。
「数子も食べる?」
「私はお腹いっぱい食べて来たので、いいです」
「そぉ、じゃ俺着替えてくるから、それ作っといて」
七,八分後、Tシャツとスウェットに着替えた鈴田先生が戻って来た。
「数子、サンキュー」
歌うような声に、「ちょうど出来上がるところですよ」と微笑みながら言う。
それにしてもこの人何着ても似合うな~、羨ましい。
なんて考えながら、調味料の入った小袋を開ける。
「喉乾いた」
先生はそう言って、冷蔵庫のドアに手をかけたけど、あれ? ドア開けずに、私の手元2度見した?
不思議に思った瞬間、慌てた声が飛んできた。
「おまっ、なにお湯捨てる前に、しれっとソース入れちゃってんだよっ!?」
「え? あっ!」
しまった、カップ焼きそば作るの初めてだったから、作り方ちゃんと読んだ筈なのに、ついつい惰性で、お湯を捨てるの忘れてたーーー!!
「お前ぇぇ、さっき料理得意とかほざきやがったよなぁ!?」
「ごめんなさいっっ、直ぐに新しいの作りますから!」
先生はくすっと笑って、二つのコップにペットボトルのお茶を注ぎながら、
「まぁ、食えればいいさ。お湯捨ててそこ置いて」
と、さらりと言った。
「これ食べるんですか?」
目をしばたかせながら聞くと、「食べるけど?」と小首を傾げる。
「一粒のコメには八十八人の神様が宿ってるんだぞ、粗末には出来ないだろう?」
「あぁあ成る程ねって、これ麺ですよ」
「似たようなもんだ。……頂きます」
意外と美味しそうに食べる顔にホッとして、
「お味、大丈夫ですか?」と聞けば、
「作ったアホに殺意を感じるほど激マズだ! ったくお前、ルール無視にもほどがあんだろぅっ!?」
と揶揄うように毒舌を吐きながら完食。
くぅぅ、数子痛恨のミス、言い返せませーん!
「ごちそう様。料理下手な彼女が作ったくっそ不味い料理を旨そ~に食べてやるのも、彼氏…将来的には夫のつとめだ」
先生は私の顔を見ながら、口の端を上げて悪戯っぽく笑っている。
きっと私いま色んな意味で恥ずかしくて、熟れすぎたトマトよりも真っ赤なはず。
「じゃ、俺寝るから、掃除と洗濯よろしく。ああ、足りないものあったら下のコンビニで買って来て。じゃ、お休み~」
言いながら、お気楽な感じで去って行った。
自分勝手で物凄く変わった人だけど、たまに優しいかも……。
さっきもホテルのロビーで助けてくれたし。
ま、そういうつもりじゃなかったみたいだけど。
にしても下着まで洗わせるって……もぉぉ、いったい何枚あるのよぉぉ!!
私は立て続けに、ボクサーパンツを洗濯機に放りこんだ。
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