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9章 王都攻略戦
101.想い
しおりを挟む「エミリア様!いけません!」
こっそり部屋を出ようとしていた私を侍女のセレナが阻む。また見つかってしまった。
彼女は私とドアの間に立ち、私の腕を掴む。
「これで何度目ですか!次に見つかったら.....次に見つかったら何をされるか、わからないんですよ...?」
「・・・そんな表情で言うのは卑怯だわ」
セレナは涙目だった。恐らく前回、3回目の脱出を試みた時に、兵士に見つかった私が斬られそうになったことが原因だろう。
それ以来、彼女は私の脱出を阻もうとしてくる。
「大人しくこの部屋で待っていましょう?きっとボルトン様が助け出してくれます!」
「・・・もう1ヶ月も経つのよ?崩壊するどころか力を増してる王都には誰も近づけるわけないわ。わかってるでしょ!?」
少しキツイ物言いになってしまい、セレナがビクッと肩を震わせる。
ああ、私は嫌な女だ。セレナの言う通り、ここで待っていれば無事なものを、勝手にイライラして危険な目にあって、そして私を心配してくれるセレナに対して怯えさせるようなことをするなんて。
「・・・ごめんなさい。私、あなたに当たるつもりは」
「いえ、私が悪いんです。簡単に適当なことを言って...」
お互い下を向き、すっかり空気が悪くなってしまった。
ああ、こんなときにレイくんが居れば、きっと場が和やかになって解決策も簡単に見つけるんだろうな。
あの子はーーー強いから。
彼のことを思い出すと、まるで何もない私が嫌になってしまう。魔法の才能もなく、特に才女というわけでもない。
ここにいるのだって、ただ長女だから。別に私が危険因子になると判断された訳でも私を捕らえなければならなかった訳でもない。ただ、長女だからここにいる。
・・・でもメアリーやルシアじゃなくて良かった。私で良かった。あの子たちじゃなくて良かった。
そうだ。ここを出たら旅に出よう。まずは行方不明のレイくんを探して、きっと彼はどこかでピンピンしてるだろうから、レイくんと一緒に世界を回るんだ。
見たこともない美しい景色を見て回って、トラップだらけのダンジョンを冒険して、前人未到の地を踏破して...。
そうだ、そうしよう。彼とならきっと楽しい。彼も私とならーーー
「ーーーリア様?エミリア様?」
肩を揺さぶられ、ハッとした。セレナが心配そうな顔で私を覗き込んでいる。
「ど、どうかしたの?」
「い、いえどうかしたと言うか」
「?」
彼女は狼狽るようにオロオロしている。
「ど、どうしてーーー泣いているんですか?」
「ーーーえ?」
びっくりして、手を目にやると、たしかに私は泣いていた。
泣いている感覚はなかった。
「あ、あれ? なんで?」
止まらない涙に思わず少し笑ってしまう。なんで私は泣いているのだろう?
「ふふっ」
「エ、エミリア様?」
突然笑った私にセレナは驚いているようだった。
「だって面白いじゃない?泣いてるつもりは無かったのに泣いているなんて」
「そ、そうですか?」
どうやらセレナは涙の理由ではなく私の頭を気にしているようだ。
あまりにも「あとで医者に見せよう」という目をしているセレナに再び笑ってしまう。
「・・・もう、何笑ってるんですか!」
「ご、ごめんなさい!でも面白くて...ふふっ」
笑って、泣いて、止めどなく溢れる涙と一緒に暗い感情は全て外に出てしまった。
ああ、これもレイくんのおかげだなあ。彼は近くにいても、遠くにいても、私を助けてくれる。きっと、今回も。
早くレイくんに会いたい。
☆
「ッックション!!」
くしゃみが出た。全く、だれか俺の噂でもしてるのか?
いやー!モテ男は困っちゃうなあ!!
・・・まあ大方カルナが俺の話でもーーーって何かそれは怖い。くしゃみは無かったことにしよう。
「レイ、集中せんかい」
「あ、ごめん」
ハクリに睨まれてしまった。
今、ドラゴンを引き連れてきた神(自称)と小さな個室で対面している。向こうはキョロキョロと落ち着きなく周りを見渡し、こっちは奴をガン見状態。
それもそのはず、俺以外のハクリやマーリは初対面なんだからな。警戒するはずだ。
「・・・なんか、久しぶりだな」
俺のその一言で奴は動きを止めた。やっと話し始めてくれたね?という風に微笑む。
「だいたい1年ぶりくらいかな? 見ないうちにすっかり成長しちゃって」
「あんま変わんねーよ」
孫を見るような目が鬱陶しかったので睨む。奴は余計微笑んだ。ムカつく奴め。
「で? ゲアボルグとやらは一体何のようなんじゃ?」
ふふん、とハクリは偉そうに物申した。神がなんぼのもんじゃい、と。
「・・・用があるのはレイ・スペルガーだけだから黙っていてくれないかな?」
しかしゲアボルグの一言で露骨にハクリは機嫌を悪くした。後に八つ当たりで嬲られそう...。
「・・・じゃあ俺に一体何のようなんだ?」
俺がそう聞くと奴はニヤリと笑う。
あ、これは面倒ごとに巻き込まれるパターンだ。
なんて、簡単に考えていた俺は、この後ずっと奴に振り回されることになる。
全ては、奴のこの一言から始まったのだ。
「僕と一緒に世界を獲ろう」
その一言から。
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