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8章 勇者の国
97.捉えられた黒幕
しおりを挟むだいぶ期間が開いてしまったのであらすじ
選挙まで残り一週間を控えた日、マーリの傘下(ハクリ・レイ・火神・トールストン)がとある館に集まり、これからの針路を決めていた。しかし突然、何者かにより館が襲撃される。レイはなんとか敵を倒すも ハクリが苦戦しているのを目撃し、館に入っていく・・・
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
何者かによって燃やされ、さらにどこのどいつかに水浸しにされた館は既に崩れかけであった。一部一部では骨組みすら溶解している。今にでも崩壊してもおかしくない。
「いっそのこと崩壊させて襲撃者を押しつぶすか?」
だがマーリも餌食となりそうだ。アイツ、剣さばきは中々だが崩壊してくる建物に剣など突き立てたところで、のれんに腕押し・・・いや焼け石に水?
つまり死ぬ。ダメだな。
手っ取り早い解決案を諦め、館に入る。入るといっても各地に大穴が開いているので入りたい放題だ。実に開放的で宜しい。
「・・・ん? これは・・・腕?」
連続的に開いた穴の近くに片腕が落ちていた。最近のものだ。細くて色白で、まるで見たことがない。
まあ、アレだ。多分ゼリーとかそんなんだろう。
気にしないで進む。
「うぷっ、気持ち悪っ・・・」
なぜかゼリーで気持ち悪くはなったが、ようやく誰かと合流できそうな気配は感じた。
肌にヒリヒリと感じる熱気。先ほどの爆発の熱気とはまた違ったものだ。荒れ狂い、渦巻くような熱気。こんな熱気を出すやつは1人しか思い浮かばない。
「・・・火神」
原型は大広間だったであろう部屋には炎が渦巻き、梁が剥き出しになった状態で火神が中央に立ち尽くしていた。
炎の中には黒い何かが横たわっており、何やら変な臭いもする。
「・・・お前はーーーー」
火神が俺の姿を見て口を開く。
しかし、一向に名前は出てこない。
「レイ。レイ・スペルガーだよ。いい加減覚えろ」
「ああ。態度が大きい小僧だな」
「訂正。器も大きいレイ・スペルガーだ」
もちろん冗談である。
どうやら火神は興味のある者の名前しか覚えないようで、彼曰く小僧には興味がないらしい。
よって、俺の名前は覚えられないわけだ。決して存在が薄いとかではない。決して。
「・・・てかマーリの護衛はどうしたんだよ?」
火神の仕事はマーリの護衛。任務放棄とは言わせないぞ。
「・・・? 今しているが」
火神は左を指差す。しかしそこには火が渦巻いているだけでーーーー
「熱い熱い熱い怖い熱い怖い熱い。何これ?地獄?終焉?ここって俺の館だよな?」
マーリが頭を抱えて蹲っているだけでもあった。
器用にそこだけ火が迫っていない。が、マーリの顔は真っ青だ。綺麗な対比である。
「・・・ま、いいか。火神。ハクリを見なかった?」
「彼女なら先ほど満面の笑みで男を引きずっていた。"やっと美味い血が飲める"とな」
「ああ、そう」
心配して損した気分である。
なんだ、やはり誰も誰にも負けない。これは勝ち戦なのだ。
しかし、当のマーリは死んだような顔をしている。
「おーいマーリ。生きてるか?」
「生きてる?まず生きてるってなんだ?息をしてること?存在すること?生きてるとはなんだ・・・?」
「いつの間に哲学者になったんだ?」
頭の上から水をかけ、目を覚まさせる。途端にマーリはハッとしたようで立ち上がった。
「危ねえ危ねえ。哲学にのめり込むとこだったぜ・・・」
「のめり込んでたけどな」
そんな冗談はさておき、現在の状況を確認すべく口を開く。
「マーリ、今の状況は?」
「ああ、多分・・・というか襲撃してきたのはレストで間違いない。俺を狙ってきた手練れの連中は火神が全滅。レスト本人もハクリが対応してる。あとはギルド長のおっさんだが・・・」
「そいつは俺が倒した」
といって血まみれの仮面を見せる。するとマーリは露骨に顔をしかめて見せた。
「よくお前そんなの持てるな・・・」
「迷宮で慣れたからな」
迷宮ではお風呂が通常仕様で血だからな。飲み物も血。そりゃ頭おかしくなるはずだ。
「じゃあつまり襲撃を鎮圧したと?」
「そういう事だ」
そう言ってマーリは炎の中を歩き始める。
「どこに行くんだ?」
「ああ?決まってんだろ」
そう言ってマーリはニヤリと笑う。
「レスト様に色々吐いて貰わないとなぁ?」
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「うははははは!! 全く笑いが止まらんわい!」
「ははは!そうですな! 我々の思うがままに動くレストにも、思い通りに争ってくれるマーリにも笑いが止まりませんわい!」
シュウスイの三大貴族、ガルフォンス家の元家長であるリーベットは、下院貴族のジェンダーとともに下品な笑いで彼方に燃えゆく館を肴にして飲み合っていた。
「がはは、全く国民どももレストがただの操り人形とは知らずよく盲信してくれる! もはやクソマーリを潰せば我らの天下だな!」
「はは、そうですぞ!」
天下に名を轟かせる武豪レスト。しかし彼らにとっては政権を握るための駒でしか無かったのだ。
外見も良い。脳筋だが態度は良い。何故か溢れるカリスマオーラ。これらを利用しないわけがない。
己に信望がない限り王にはなれないが、操り人形に信望があれば王にはなれるのだ。
「しかし全くマーリとやらも大したことございませんなあ!! 今頃は奇襲に慌てて討ち取られている事でしょう!」
「全くだ! 商人の出だが知らないが貴族様に勝とうとする事が間違いないなのだよ。がははは!!!」
そう言ってリーベットは酒を煽る。側には大量の酒瓶が転がっていた。
「これも付き従ってくれたお前のお陰でもあろう!」
「いえいえリーベット殿の手腕の成果ですよ。うははは!」
「そうかそうか!では、我々の輝かしい未来に向かって、乾杯!」
カチリ、とグラスを合わせる2人。完全に勝利を疑う事なく信じ、そしてその余韻に浸っていた。
ーーー破滅が迫っている事も知らず・・・
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