異世界に行ったら才能に満ち溢れていました

みずうし

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8章 勇者の国

95.卑怯者

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 「さて、これでほとんどの準備は整ったな」

  選挙開始から二週間。期間は残り半月を切り、どの候補者も積極的に行動することを控え、水面下での工作をする時期だ。

 そんな中、俺たちマーリ派の一党は屋敷に集まり、机を囲んで着席していた。
 机には飲料と、少しのお菓子。俺が持ってきた。

 そしてメンバーは、マーリ、トールストン、俺、ハクリ、そして火神の5人。カルナとアンは家でお留守番をしている。

 「もちろん勝てる算段はついた。あとは各々間違えなきゃ確実に勝てるぜ!」

 おっと、早速フラグが。
 眩しいマーリの笑顔を見ながらそんなことを思うと、無言を貫く火神をちらりと見る。

 赤い髪、赤いヒゲ、それ熱くないの?と思わず言いたくなるようなオジさんである。
  彼が、マーリ支持を宣言したのはつい二週間前のことだ。

 「勝てる算段というのは、例えば?」
 「数え切れないほどあるぜ?」

 マーリがペラペラと喋りだす。
 火神が支持したことで国民票が傾きつつあること。さらに国民に様々な政策を約束したことで、それが加速していること。
 あとは貴族票や他候補の揺さぶりなどだ。

 それらを合わせると勝ちが十分見えてきたらしい。
 まあコイツマーリはほぼ何もしてないけどな。

 「んで、今日伝えたいのは俺の警護よろしく頼むってことだ!多分、予想以上の俺の優勢っぷりを見て他は慌ててんだ。なりふり構わず来るぜ?」
 「結局俺ら任せなんかい・・・」

 つまりはマーリの暗殺。なりふり構わずというのはそういう事だ。

 「まあでもこっちは負ける気はしないがな!ハッハッハッ!」
 「そりゃあ、旧新七大列強と勇者がいたらまず負けないわな」
 「戦力と金だけはあるからのう」
 「ハッハッ!そりゃそうだ!」

 それ褒められてんの? と思ったけどマーリが嬉しそうだったので言わないでおいた。
 しかし、そんなマーリを冷ますように火神が口を開く。

 「だが余裕というわけでもあるまい」
 「そう!そこなんだよ火神殿!さすがよくわかってらっしゃる!」
 「態度がコロコロ変わるのう」
 「だな」

 「やっぱ問題はレストなんだよな!戦力で俺らをタメ張れるのはあそこだけだ」

 1番人気、レスト。この国の三大上院貴族の一つ、ガルフォンス家の若き天才。幼い頃から剣の才能を発揮し、今では“武人”と称されるほどの人物だ。
 さらに大会でも負けなしで、闇討ちも無傷で切り抜けること数十回。その強さの域は次期七大列強候補とも言われている。

 要約するとつまりチート野郎だ。

 「レストも強いし、あとは敵さんに回っちゃった・・・」
 「冒険者ギルドのギルド長じゃな」
 「本当にあいつ強いのか?」

 シルクハットの爺さん。以前、俺に啖呵切ってきたやつだ。覚えておけ!みたいなセリフを捨て去っていったきり何の音沙汰もない。
 まさかレスト一党を支持することが仕返し、とか?
 どちらにせよ強いのか、情報が幾分少ない。
  
 「“術師ペルシル”。奴が若い頃言われていた名だ」
 「おや、火神殿知っていられるので?」
 「ああ、昔一度戦ったことがある。確か魔法を巧みに扱う魔法使いだったはずだ」
 「ちなみに勝敗のほどは?」
 「俺の火魔法一つで終わりだ。実力は知らん」
 「おうふ・・・・」

 さすが火神。ぱねえな。
 火魔法一つで終わりと聞くとペルシルが弱く感じるが、火魔法一つというのはSSS級の黒龍を一発で沈めるほどの魔法だ。
 それをくらって生きているということは強いんだろう。

 そのことを聞いたマーリは突如立ち上がる。

 「ともかくレストには注意だ!ハガーリーとユーリスは問題ない、この二週間の間に俺が沈めておく。
 要はレストとの一対一!勝負所だぜ!」


 「ーーーああ、その勝負所が早速やってきたようだ」

 「「「「!!??」」」」


 ゴオオオオオオオオオオオオ


 火神が謎の言葉を告げた瞬間、窓の外が赤く燃え上がった。同時に爆発音が轟、悲鳴が上がる。

 「いきなり敵襲か!?」
 「ずいぶんと早いなおい」
 
 予想では暗殺、もとい奇襲は発表の一週間前ぐらいだと踏んでいた。裏をつかれた感じだ。

 「チッ、取り敢えずレイ、お前は消火を頼む!火神殿は俺の警護を、トールストンとハクリっちは敵へと応酬を!」

 「「「「了解!」」」」

 部屋を出る。俺の仕事は消火。
 いやあ、俺って小さい頃から消防団に憧れていたんだよなーーーーって俺の仕事だけショぼくね!!??
 差別反対!人権侵害だーー!!

 「って熱っ!!」

 言ってる場合ではなかった。
 火は火薬が使われているのかどんどん燃え上り、すでに館は火に包まれている。閉じ込められているようだ。
  
 ま、だから?、って話だが。


 「転移っ!!」

 お久しぶりの転移で屋敷の上空へ移動。屋敷から脱出する。
 少しの嘔吐感に耐えながら、なんとか空中で体勢を立て直し、風魔法を使って浮遊する事に成功した。
 ただし、止まるだけで動くことは出来ない。まだ練習不十分だ。動いたら落ちる。

 「おお、燃えてるなあ」

 屋敷は外から見れば火だるまだった。
 すでに半分以上に火が付いていて、あと数分すれば全てを飲み込み、焼き尽くすだろう。
 一体誰の仕業かわからないが、焼き殺しとは不粋な趣味である。

 「水球ウォーターボール

 火を消すために大きな魔法はいらない。ただ、でかい水球を落とすだけだ。

 「いけっ!」

 プールサイズはあろうかという水球を複数生成し、火だるまの屋敷に落とす。
 空中でゲリラ豪雨のようになったそれはジュッと音を立てて火を鎮火していった。
 ・・・屋敷はビチャビチャになったけど。

 さて、俺の仕事終了。あとは他が頑張ればいいはずだ。余計な介入は混乱を生むからな。
 と、言っておけばサボっても問題ないはずだ。

 「見つけましたよ。レイ・スペルガー殿」

 「はい?」

 そんなサボりモードに移行した俺の目の前に現れたのは仮面をかぶるシルクハットの男。
 なんでもないように空中に浮いている。

 そんな仮面の男は異様な気配を出していた。

 「あなたの故郷のご令嬢エミリア様が地獄でお待ちですよ?」
 「は?お前なにいってーーーッ!!?」

 咄嗟に体を捻った俺の前を、とんでもないスピードで刃が通り過ぎる。
 レイピア。ヨーロッパで使われるあの剣を仮面の男、もといギルド長ペルシルは握っていた。

 ・・・ペルシルは魔法使いって話じゃねえのかよ!
 いや、そんなことよりコイツ、今さっき・・・

 「ははは! そのギラついた目!面白いですねえ!!!」
 「ああ?うるせえよ」

 空中で姿勢を保ちながら氷槍アイスランスを放つ。
 しかしそれはレイピアで簡単に防がれてしまった。

 「ははは、まさかこの程度で?ならばすぐに終わらせてあげましょう。同じ死を迎える仲間とともにね!」

 ペルシルがそういった途端、屋敷から爆発音が轟いた。そして、ハクリが屋敷の壁を突き破って転がってくる。身体中には打撃痕。吹っ飛ばされたらしい。
 ・・・向こうにも強い奴がいるのか。

 「はは!言ったとおりでしょう? しかし心配しないでもすぐに会えますよ。ーーー地獄でね!」

 「は、やれるもんならやってみろよ・・・!」



 その日、屋敷の上空で3度目の爆発が起こった。



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