113 / 119
8章 勇者の国
95.卑怯者
しおりを挟む「さて、これでほとんどの準備は整ったな」
選挙開始から二週間。期間は残り半月を切り、どの候補者も積極的に行動することを控え、水面下での工作をする時期だ。
そんな中、俺たちマーリ派の一党は屋敷に集まり、机を囲んで着席していた。
机には飲料と、少しのお菓子。俺が持ってきた。
そしてメンバーは、マーリ、トールストン、俺、ハクリ、そして火神の5人。カルナとアンは家でお留守番をしている。
「もちろん勝てる算段はついた。あとは各々間違えなきゃ確実に勝てるぜ!」
おっと、早速フラグが。
眩しいマーリの笑顔を見ながらそんなことを思うと、無言を貫く火神をちらりと見る。
赤い髪、赤いヒゲ、それ熱くないの?と思わず言いたくなるようなオジさんである。
彼が、マーリ支持を宣言したのはつい二週間前のことだ。
「勝てる算段というのは、例えば?」
「数え切れないほどあるぜ?」
マーリがペラペラと喋りだす。
火神が支持したことで国民票が傾きつつあること。さらに国民に様々な政策を約束したことで、それが加速していること。
あとは貴族票や他候補の揺さぶりなどだ。
それらを合わせると勝ちが十分見えてきたらしい。
まあコイツはほぼ何もしてないけどな。
「んで、今日伝えたいのは俺の警護よろしく頼むってことだ!多分、予想以上の俺の優勢っぷりを見て他は慌ててんだ。なりふり構わず来るぜ?」
「結局俺ら任せなんかい・・・」
つまりはマーリの暗殺。なりふり構わずというのはそういう事だ。
「まあでもこっちは負ける気はしないがな!ハッハッハッ!」
「そりゃあ、旧新七大列強と勇者がいたらまず負けないわな」
「戦力と金だけはあるからのう」
「ハッハッ!そりゃそうだ!」
それ褒められてんの? と思ったけどマーリが嬉しそうだったので言わないでおいた。
しかし、そんなマーリを冷ますように火神が口を開く。
「だが余裕というわけでもあるまい」
「そう!そこなんだよ火神殿!さすがよくわかってらっしゃる!」
「態度がコロコロ変わるのう」
「だな」
「やっぱ問題はレストなんだよな!戦力で俺らをタメ張れるのはあそこだけだ」
1番人気、レスト。この国の三大上院貴族の一つ、ガルフォンス家の若き天才。幼い頃から剣の才能を発揮し、今では“武人”と称されるほどの人物だ。
さらに大会でも負けなしで、闇討ちも無傷で切り抜けること数十回。その強さの域は次期七大列強候補とも言われている。
要約するとつまりチート野郎だ。
「レストも強いし、あとは敵さんに回っちゃった・・・」
「冒険者ギルドのギルド長じゃな」
「本当にあいつ強いのか?」
シルクハットの爺さん。以前、俺に啖呵切ってきたやつだ。覚えておけ!みたいなセリフを捨て去っていったきり何の音沙汰もない。
まさかレスト一党を支持することが仕返し、とか?
どちらにせよ強いのか、情報が幾分少ない。
「“術師ペルシル”。奴が若い頃言われていた名だ」
「おや、火神殿知っていられるので?」
「ああ、昔一度戦ったことがある。確か魔法を巧みに扱う魔法使いだったはずだ」
「ちなみに勝敗のほどは?」
「俺の火魔法一つで終わりだ。実力は知らん」
「おうふ・・・・」
さすが火神。ぱねえな。
火魔法一つで終わりと聞くとペルシルが弱く感じるが、火魔法一つというのはSSS級の黒龍を一発で沈めるほどの魔法だ。
それをくらって生きているということは強いんだろう。
そのことを聞いたマーリは突如立ち上がる。
「ともかくレストには注意だ!ハガーリーとユーリスは問題ない、この二週間の間に俺が沈めておく。
要はレストとの一対一!勝負所だぜ!」
「ーーーああ、その勝負所が早速やってきたようだ」
「「「「!!??」」」」
ゴオオオオオオオオオオオオ
火神が謎の言葉を告げた瞬間、窓の外が赤く燃え上がった。同時に爆発音が轟、悲鳴が上がる。
「いきなり敵襲か!?」
「ずいぶんと早いなおい」
予想では暗殺、もとい奇襲は発表の一週間前ぐらいだと踏んでいた。裏をつかれた感じだ。
「チッ、取り敢えずレイ、お前は消火を頼む!火神殿は俺の警護を、トールストンとハクリっちは敵へと応酬を!」
「「「「了解!」」」」
部屋を出る。俺の仕事は消火。
いやあ、俺って小さい頃から消防団に憧れていたんだよなーーーーって俺の仕事だけショぼくね!!??
差別反対!人権侵害だーー!!
「って熱っ!!」
言ってる場合ではなかった。
火は火薬が使われているのかどんどん燃え上り、すでに館は火に包まれている。閉じ込められているようだ。
ま、だから?、って話だが。
「転移っ!!」
お久しぶりの転移で屋敷の上空へ移動。屋敷から脱出する。
少しの嘔吐感に耐えながら、なんとか空中で体勢を立て直し、風魔法を使って浮遊する事に成功した。
ただし、止まるだけで動くことは出来ない。まだ練習不十分だ。動いたら落ちる。
「おお、燃えてるなあ」
屋敷は外から見れば火だるまだった。
すでに半分以上に火が付いていて、あと数分すれば全てを飲み込み、焼き尽くすだろう。
一体誰の仕業かわからないが、焼き殺しとは不粋な趣味である。
「水球」
火を消すために大きな魔法はいらない。ただ、でかい水球を落とすだけだ。
「いけっ!」
プールサイズはあろうかという水球を複数生成し、火だるまの屋敷に落とす。
空中でゲリラ豪雨のようになったそれはジュッと音を立てて火を鎮火していった。
・・・屋敷はビチャビチャになったけど。
さて、俺の仕事終了。あとは他が頑張ればいいはずだ。余計な介入は混乱を生むからな。
と、言っておけばサボっても問題ないはずだ。
「見つけましたよ。レイ・スペルガー殿」
「はい?」
そんなサボりモードに移行した俺の目の前に現れたのは仮面をかぶるシルクハットの男。
なんでもないように空中に浮いている。
そんな仮面の男は異様な気配を出していた。
「あなたの故郷のご令嬢エミリア様が地獄でお待ちですよ?」
「は?お前なにいってーーーッ!!?」
咄嗟に体を捻った俺の前を、とんでもないスピードで刃が通り過ぎる。
レイピア。ヨーロッパで使われるあの剣を仮面の男、もといギルド長ペルシルは握っていた。
・・・ペルシルは魔法使いって話じゃねえのかよ!
いや、そんなことよりコイツ、今さっき・・・
「ははは! そのギラついた目!面白いですねえ!!!」
「ああ?うるせえよ」
空中で姿勢を保ちながら氷槍を放つ。
しかしそれはレイピアで簡単に防がれてしまった。
「ははは、まさかこの程度で?ならばすぐに終わらせてあげましょう。同じ死を迎える仲間とともにね!」
ペルシルがそういった途端、屋敷から爆発音が轟いた。そして、ハクリが屋敷の壁を突き破って転がってくる。身体中には打撃痕。吹っ飛ばされたらしい。
・・・向こうにも強い奴がいるのか。
「はは!言ったとおりでしょう? しかし心配しないでもすぐに会えますよ。ーーー地獄でね!」
「は、やれるもんならやってみろよ・・・!」
その日、屋敷の上空で3度目の爆発が起こった。
12
お気に入りに追加
5,137
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
神に同情された転生者物語
チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。
すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。
悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
お願いだから俺に構わないで下さい
大味貞世氏
ファンタジー
高校2年の9月。
17歳の誕生日に甲殻類アレルギーショックで死去してしまった燻木智哉。
高校1年から始まったハブりイジメが原因で自室に引き籠もるようになっていた彼は。
本来の明るい楽観的な性格を失い、自棄から自滅願望が芽生え。
折角貰った転生のチャンスを不意に捨て去り、転生ではなく自滅を望んだ。
それは出来ないと天使は言い、人間以外の道を示した。
これは転生後の彼の魂が辿る再生の物語。
有り触れた異世界で迎えた新たな第一歩。その姿は一匹の…
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
加護とスキルでチートな異世界生活
どど
ファンタジー
高校1年生の新崎 玲緒(にいざき れお)が学校からの帰宅中にトラックに跳ねられる!?
目を覚ますと真っ白い世界にいた!
そこにやってきた神様に転生か消滅するかの2択に迫られ転生する!
そんな玲緒のチートな異世界生活が始まる
初めての作品なので誤字脱字、ストーリーぐだぐだが多々あると思いますが気に入って頂けると幸いです
ノベルバ様にも公開しております。
※キャラの名前や街の名前は基本的に私が思いついたやつなので特に意味はありません
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~
繭
ファンタジー
高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。
見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に
え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。
確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!?
ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・
気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。
誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!?
女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話
保険でR15
タイトル変更の可能性あり
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
神の加護を受けて異世界に
モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。
その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。
そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!
あるちゃいる
ファンタジー
山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。
気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。
不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。
どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。
その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。
『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。
が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。
そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。
そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。
⚠️超絶不定期更新⚠️
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~
海道一人
ファンタジー
俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。
地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。
俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。
だけど悔しくはない。
何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。
そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。
ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。
アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。
フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。
※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
前世は最強の宝の持ち腐れ!?二度目の人生は創造神が書き換えた神級スキルで気ままに冒険者します!!
yoshikazu
ファンタジー
主人公クレイは幼い頃に両親を盗賊に殺され物心付いた時には孤児院にいた。このライリー孤児院は子供達に客の依頼仕事をさせ手間賃を稼ぐ商売を生業にしていた。しかしクレイは仕事も遅く何をやっても上手く出来なかった。そしてある日の夜、無実の罪で雪が積もる極寒の夜へと放り出されてしまう。そしてクレイは極寒の中一人寂しく路地裏で生涯を閉じた。
だがクレイの中には創造神アルフェリアが創造した神の称号とスキルが眠っていた。しかし創造神アルフェリアの手違いで神のスキルが使いたくても使えなかったのだ。
創造神アルフェリアはクレイの魂を呼び寄せお詫びに神の称号とスキルを書き換える。それは経験したスキルを自分のものに出来るものであった。
そしてクレイは元居た世界に転生しゼノアとして二度目の人生を始める。ここから前世での惨めな人生を振り払うように神級スキルを引っ提げて冒険者として突き進む少年ゼノアの物語が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる