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8章 勇者の国

91.候補同士

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 表通りは演説会の興奮冷めやらぬ様でどんちゃん騒ぎが繰り広げられ、広場でも各派閥の集いが開かれている中、王城の会議室では険悪な雰囲気が流れていた。
 5つある席に座るのはそれぞれ王候補4人と、元左大臣のルーマットだ。

 「えー、演説会も無事に終わり、皆さんの談話の席としてこの場を用意してもらったのですが....」
 「「「「・・・・・・・」」」」

 額に汗を浮かべるルーマットの心中は「誰か喋れよおぉぉぉぉぉお!!!!」ただ1つであった。

 「ふん、話すことなんて何もないわ」
 「おや、ユーリーーーユーリス殿?」
 「何よ?」

 ルーマットはユーリスを二度見した。なぜならユーリスは先ほどのアイドルじみた身振りからは想像もできないぐらいに傲慢な態度で足を組んでいたからである。
 基本、対等な相手との場で足を組むのは失礼にあたるのに。

 「いやはや先ほどとは違うのですな」
 「ふんっ、当たり前でしょ?なんで裏でまであんなに媚び売らなくちゃダメなのよ」
 「あ、そうですか.....」

 ルーマットは心の中で「マジかよ」と思った。

 「まあいいわ!折角だから私の引き立て役になってくれる貴方達には私の偉大さを教えてあげる」
 「へえ、是非聞きたいね」

 ユーリスの挑発に微笑みながら乗っかったのは現在の最有力候補レストである。
 対してハガーリーとマーリは沈黙を貫く。

 「なら教えてあげるわ。私はこの王選に2年前から仕込みをしているわ。それも貴方達がもっとも苦労するであろう"商業者の票"に対してね」

 「へぇ!それはすごいね!」

 「でしょう?実際、今この都にいる商業者の3割は私の手下。そして商業者は利益に乗る奴らだと相場は決まっているわ。
 だから3割を使って全体を誘導するなんて簡単。商業者の10票は貰ったも同然よ!」

 これには他の候補も素直に感心した。そして手の内を明かしたユーリスを内心で嘲る。ただ1人を除いて。

 「ハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!!」

 突然マーリが笑い出した。
 そんな彼を見てユーリスは怪訝な顔をする。

 「なによ変な人」
 「はははは!誰のことだね?」
 「あんたよ」
 「ご冗談を!!!はははは!!」

 ユーリスは一瞬でマーリが嫌いになった。

 「マーリ、だっけ?さっきから笑い方キモいからやめてくれない?悪寒が止まらないんだけど」
 「「「同意」」」

 レストとハガーリーとルーマットが同意するも、マーリは笑いを止めない。

 「ハハハハハ!ユーリスと言ったな!?お前は壮絶な勘違いをしているぞ?これが笑わずに居られるか!ハハハハハ!!」

 「・・・・勘違いですって?なら言ってみなさいよ」

 「誰が手の内を明かすようなことをするか!ハハッ、俺はバカじゃないんでね」 

 「ふん、結局はただのこけおどしじゃない。それとも言い負かされるのが怖いだけ?あらあら、外面に似合わず中身は随分と弱っちいのね。いえ、外面もよく見れば弱っちかったわ」

 「んっだとおおお!!!??」

 マーリがキレる。
 その時、レストとルーマットは同時に「チョロい」と思った。

 「いいだろう!言ってやろうじゃないか!お前は2年かけて3割と言ったな?はっ!笑わせるな!俺は一年で6割だバーカ!それも俺の商会だけの話!傘下の商会合わせれば7割だよバーカ!」

 その話を聞いてユーリスの顔が曇る。確かに、手下から「なぜかこれ以上勢力を伸ばせない」と聞いていたからだ。
 しかし、マーリなんて名前も聞いたことがない。ただのハッタリだと願いつつ言う。

 「・・・・・な、なにを言っているのかしら?突然出てきたただの凡人が商会なんて持っているわけーーー」

 「ま、まさか!!!」

 ルーマットは気づいた。それを見たマーリはニヤリと笑う。

 「あの"マーガレット商会"の"覇王"とはあなたのことかっ!!」

 「ははは!!!その通りだやっと気づいたか馬鹿者達め!!」

 「な、なんですって!?」
 「ま、まじか!」
 「・・・・」

 マーガレット商会といえば世界で一二を争う大商会だ。特に、その会長の"覇王"の手腕は冴え渡っていると世の中では有名な話だった。
 すれば当然彼らも知っているわけで、こんなに驚いたわけである。

 その反応に思わずマーリは得意顔。内心いつ気づいてくれるのかとヒヤヒヤしていたのは遠い昔のことである。

 「だからお前の計画は破綻だバーカ!!ざまあ!!!」

 「ぬっ!ぐっ.....ぐぬぬぬっ!!!」

 子供みたいなマーリに対して悔しそうに顔を歪めるユーリス。単純にマーリの方が一枚上手だったのだ。

 「よ、夜道に注意することね!ふん!」

 あまりに悔しすぎたのかユーリスは机を蹴って痛みに悶えた後、プンプンしながら部屋を出て行った。
 そのまま、自然に談話は解散の流れとなる。

 「マーリ君、君はすごいね。僕も見習わなくちゃね!」
 「はは、それほどでもあるかな」

 自然な爽やかボーイ、レストはマーリに話しかける。それを見てますますルーマットのレストに対する好感度は上昇した。
 対して、ずっと席に座ったままのハガーリーを疑問に思ってルーマットは近づいていく。すると、ハガーリーは何かをぶつぶつ言っていた。

 「・・・ふう、やっと終わった。みんな個性強すぎないか?それに"あの"レストに"覇王"のマーリ、そして"アイドル"のユーリス。
 すごいメンバーだ。とても話せない・・」

 「実はクールじゃなくて小心者っっっ!!!」とルーマットは心で思うもなんとか表情には出さない。中立を保たなくてはならないのだ。1人の候補者が不利になるような情報は避けなくてはならない。

 さて、ではその頃マーリの心中はというと。

 「ああ、夜道怖いからレイに護衛を頼もう」

 と、こちらもある意味動揺してたのであった。
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