上 下
109 / 119
8章 勇者の国

91.候補同士

しおりを挟む



 表通りは演説会の興奮冷めやらぬ様でどんちゃん騒ぎが繰り広げられ、広場でも各派閥の集いが開かれている中、王城の会議室では険悪な雰囲気が流れていた。
 5つある席に座るのはそれぞれ王候補4人と、元左大臣のルーマットだ。

 「えー、演説会も無事に終わり、皆さんの談話の席としてこの場を用意してもらったのですが....」
 「「「「・・・・・・・」」」」

 額に汗を浮かべるルーマットの心中は「誰か喋れよおぉぉぉぉぉお!!!!」ただ1つであった。

 「ふん、話すことなんて何もないわ」
 「おや、ユーリーーーユーリス殿?」
 「何よ?」

 ルーマットはユーリスを二度見した。なぜならユーリスは先ほどのアイドルじみた身振りからは想像もできないぐらいに傲慢な態度で足を組んでいたからである。
 基本、対等な相手との場で足を組むのは失礼にあたるのに。

 「いやはや先ほどとは違うのですな」
 「ふんっ、当たり前でしょ?なんで裏でまであんなに媚び売らなくちゃダメなのよ」
 「あ、そうですか.....」

 ルーマットは心の中で「マジかよ」と思った。

 「まあいいわ!折角だから私の引き立て役になってくれる貴方達には私の偉大さを教えてあげる」
 「へえ、是非聞きたいね」

 ユーリスの挑発に微笑みながら乗っかったのは現在の最有力候補レストである。
 対してハガーリーとマーリは沈黙を貫く。

 「なら教えてあげるわ。私はこの王選に2年前から仕込みをしているわ。それも貴方達がもっとも苦労するであろう"商業者の票"に対してね」

 「へぇ!それはすごいね!」

 「でしょう?実際、今この都にいる商業者の3割は私の手下。そして商業者は利益に乗る奴らだと相場は決まっているわ。
 だから3割を使って全体を誘導するなんて簡単。商業者の10票は貰ったも同然よ!」

 これには他の候補も素直に感心した。そして手の内を明かしたユーリスを内心で嘲る。ただ1人を除いて。

 「ハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!!」

 突然マーリが笑い出した。
 そんな彼を見てユーリスは怪訝な顔をする。

 「なによ変な人」
 「はははは!誰のことだね?」
 「あんたよ」
 「ご冗談を!!!はははは!!」

 ユーリスは一瞬でマーリが嫌いになった。

 「マーリ、だっけ?さっきから笑い方キモいからやめてくれない?悪寒が止まらないんだけど」
 「「「同意」」」

 レストとハガーリーとルーマットが同意するも、マーリは笑いを止めない。

 「ハハハハハ!ユーリスと言ったな!?お前は壮絶な勘違いをしているぞ?これが笑わずに居られるか!ハハハハハ!!」

 「・・・・勘違いですって?なら言ってみなさいよ」

 「誰が手の内を明かすようなことをするか!ハハッ、俺はバカじゃないんでね」 

 「ふん、結局はただのこけおどしじゃない。それとも言い負かされるのが怖いだけ?あらあら、外面に似合わず中身は随分と弱っちいのね。いえ、外面もよく見れば弱っちかったわ」

 「んっだとおおお!!!??」

 マーリがキレる。
 その時、レストとルーマットは同時に「チョロい」と思った。

 「いいだろう!言ってやろうじゃないか!お前は2年かけて3割と言ったな?はっ!笑わせるな!俺は一年で6割だバーカ!それも俺の商会だけの話!傘下の商会合わせれば7割だよバーカ!」

 その話を聞いてユーリスの顔が曇る。確かに、手下から「なぜかこれ以上勢力を伸ばせない」と聞いていたからだ。
 しかし、マーリなんて名前も聞いたことがない。ただのハッタリだと願いつつ言う。

 「・・・・・な、なにを言っているのかしら?突然出てきたただの凡人が商会なんて持っているわけーーー」

 「ま、まさか!!!」

 ルーマットは気づいた。それを見たマーリはニヤリと笑う。

 「あの"マーガレット商会"の"覇王"とはあなたのことかっ!!」

 「ははは!!!その通りだやっと気づいたか馬鹿者達め!!」

 「な、なんですって!?」
 「ま、まじか!」
 「・・・・」

 マーガレット商会といえば世界で一二を争う大商会だ。特に、その会長の"覇王"の手腕は冴え渡っていると世の中では有名な話だった。
 すれば当然彼らも知っているわけで、こんなに驚いたわけである。

 その反応に思わずマーリは得意顔。内心いつ気づいてくれるのかとヒヤヒヤしていたのは遠い昔のことである。

 「だからお前の計画は破綻だバーカ!!ざまあ!!!」

 「ぬっ!ぐっ.....ぐぬぬぬっ!!!」

 子供みたいなマーリに対して悔しそうに顔を歪めるユーリス。単純にマーリの方が一枚上手だったのだ。

 「よ、夜道に注意することね!ふん!」

 あまりに悔しすぎたのかユーリスは机を蹴って痛みに悶えた後、プンプンしながら部屋を出て行った。
 そのまま、自然に談話は解散の流れとなる。

 「マーリ君、君はすごいね。僕も見習わなくちゃね!」
 「はは、それほどでもあるかな」

 自然な爽やかボーイ、レストはマーリに話しかける。それを見てますますルーマットのレストに対する好感度は上昇した。
 対して、ずっと席に座ったままのハガーリーを疑問に思ってルーマットは近づいていく。すると、ハガーリーは何かをぶつぶつ言っていた。

 「・・・ふう、やっと終わった。みんな個性強すぎないか?それに"あの"レストに"覇王"のマーリ、そして"アイドル"のユーリス。
 すごいメンバーだ。とても話せない・・」

 「実はクールじゃなくて小心者っっっ!!!」とルーマットは心で思うもなんとか表情には出さない。中立を保たなくてはならないのだ。1人の候補者が不利になるような情報は避けなくてはならない。

 さて、ではその頃マーリの心中はというと。

 「ああ、夜道怖いからレイに護衛を頼もう」

 と、こちらもある意味動揺してたのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。

モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。 日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。 今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。 そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。 特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から「破壊神」と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

婚約破棄されたけど前世が伝説の魔法使いだったので楽勝です

sai
ファンタジー
公爵令嬢であるオレリア・アールグレーンは魔力が多く魔法が得意な者が多い公爵家に産まれたが、魔法が一切使えなかった。 そんな中婚約者である第二王子に婚約破棄をされた衝撃で、前世で公爵家を興した伝説の魔法使いだったということを思い出す。 冤罪で国外追放になったけど、もしかしてこれだけ魔法が使えれば楽勝じゃない?

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ
ファンタジー
 助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。  *話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。  *他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。  *頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。  *無断転載、無断翻訳を禁止します。   小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。 カクヨムにても公開しています。 更新は不定期です。

処理中です...