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8章 勇者の国

83.勇者の国、シュウスイ

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 少し予定とは違ったが、目的通りシュウスイに到着した。
 少し異文化が混ざる城下町はいつ見ても気分を高揚させ、そんな奴らの落とす金でこの国は成り立っている。

 そして空を見上げれば、爽快としたスカイブルーの王城が目に焼きつく。あれには超高度な結界が張られ、それは例え七大列強であっても破るのは難しいらしい。
 そんな結界を張れるほどこの国は強かった。

 ーーーそんなこの国の王が死んだ。

 俺がトールストンとこの国にやってきたのもそれが理由、そしてあることを成し遂げるためであった。
 きっと、俺とトールストンならそれを成し遂げられる。なりより、道中面白い拾い物をしたからな。

 さて、面白くなるぞ。

 「・・・マーリ様、心が顔に出ておりますよ」

 トールストンが苦笑いしながらそう言う。

 それほどまでに俺は煮えたぎっていた。
 これから始まる熱い熱い戦いに。その髪の毛と同じ色をした、赤色の情熱を俺は燃やす。

 商人はもう終わりだ。




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 「ぎょええええ!な、なんだあれは!さ、魚が野ざらしで置いてあるぞ!
 ねえレイ!あれって勝手に取っていいってことなのだな!」
 「いや違うな。あれは魚じゃなくて絵だ。魚の絵だ」
 「ひょええええ!そうなのだな!ではあれ食えるのだな!?」
 「いや食えねえよ」

 シュウスイに着いてからアンがとてもうるさい。まるで田舎者の東京見物だ。
 まあ、おかげで俺の正気が戻ったんだけど。いや、正気に戻らざるに得なかった。

 「にしてもこの活気は凄いな。王国が東京だったらこっちはまるで大阪か...」

 商人たちの声があちこち飛び交い、旅行者のような大荷物を持つものも多く見かける。
 こんだけ繁盛してればバーニングたちがここへ商売しにくるのも納得である。

 そんな様子をぼけーと眺めていた俺に、ハクリがにまにまして話しかけてきた。

 「お、レイよ。お主正気に戻ったんじゃな」
 「え、ああ。アンが騒がしすぎてな」
 「ほうほう、じゃってよカルナ」

 突然振られたカルナは見るからに動揺した。

 「な!なんで私に振るんですか!」
 「・・・カルナ?」
 「な、なんでもないですごめんなさい!」

 そしてなぜかそそくさと逃げるカルナ。俺も嫌われたもんだ。何かしたっけなぁ?
 せいぜい、お婆様とか婆とか言ったぐらい....

 「お主今失礼なこと考えているじゃろう」
 「え、うちには婆さんいっぱいいるなぁと思って」
 「お主は一度死んだほうがいい」
 
 ジト目をしてくるハクリもなかなか絵になる美人である。それに新しい癖を発掘しそうな....いやいやそれ以上はダメだ俺!

 「あれ、そういえばトールストン達はどこ行ったんだ?」
 「ん?先ほど用があると言って抜けていったぞ。夜になったら王城近くの酒場に来い、と話してのぅ」
 「あいつら落ち着きってもんがないのかよ.....」

 道中でもバーニングは自由気ままに動くやつだった。
 あ、そういえばバーニングの名前聞いてない。

 「レイ!レイ!!!なんなのだあれ!」
 「そういえば落ち着きないのはお前もだったなアン」
 「えーーー?そんなことよりアレはなんなのだ!」

 アンが指差したのは黒装束を着た者達だった。それも集団だ。2~30人はいるだろうか。
 
 「あれは葬式だよ。多分、結構偉い人が死んだんだろ」
 「へぇー」

 聞いときながら一瞬で興味を損なうアン。
 気まますぎてついていけない。

 「しかしそれにしても確かに空気がな.....」

 なんだかこの国、活気はあるが空気は重い。
 まるで何か悲しいことを無理やり活気で塗り消そうとしているみたいだ。
 そして、何より黒装束の人間が多いのだ。

 「こりゃ結構お偉いさんが死んだのかね....」

 どうでもいいけども。
 そんなことよりも活気がある分、少し荒くれどもがいることも心配だ。
 アンやカルナにぶつかって喧嘩売ってきたらどうなることやら。

 いや、相手の方が。

 「おうおう痛えな姉ちゃん?何ぶつかってくれとんやあぁん?」
 「ご、ごめんなさいいいい!!!!」

 こんな風になったら最悪だからなほんと.....

 ってうん?

 「おう俺の服が汚れたじゃねえかよ!どうしてくれんだこのオトシマエ!なんだ?体で払ってくれんのかアァン?」
 「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
 「え........お、おう」

 見ると、一心不乱に土下座するカルナに荒くれどもも軽く引いていた。
 そりゃそうなりますよねー。

 って、そんなこと言っとる場合じゃねえか。

 「....アアッ!?こんな事で惑わされねえぞ?きっちりオトシマエは付けさせて貰うぞオラァ!」

 威圧する荒くれどもに完全にカルナは怯えていた。カルナも戦えば一発なのだろうが、なんとなくわかる。
 カルナはできるだけ戦いたくないのだろう。もともとそういうのに嫌悪していた子だからな。

 んで、まあさて。さっきからチラチラ「どうするのじゃ?」と俺を試すような視線を向けるハクリと、食べ物につられてまったく騒動に気づかないアンは使えない。
 んじゃ俺がやるしかないだろ。

 取り敢えず騒ぎが起きても面倒だし下手に下手に.....。

 「あのーーー?」
 「アアン?なんじゃこのガキィ!!」

 荒くれ野郎が顔面を近づけてきた。
 唾がビュンビュン飛んでくる。

 「息が臭いんじゃ消えろ」

 思わずイラッとしちゃった俺のビンタにより荒くれ野郎は吹っ飛んだ。
 その辺のお店に突っ込み、ギャアギャア騒ぎが起きる。
 
 「大丈夫か、カルナ」
 「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 俺の声にも気づかずカルナは土下座し続ける。まるで南無阿弥陀を唱える僧のように。

 「おいカルナ!」
 「ごめんなさーーーふぇ?ど、どうしたんですかレイさん?あ、あれ?さっきのチンピラは?」
 「俺が始末した」

 トドメに吹っ飛んでいった方向へ氷槍アイスランスを数発撃っておく。
 例え手は出していなくても俺の仲間に喧嘩を売ったやつは死あるのみだ。
 ま、殺す気はないんだけど。たぶん、あのクソ野郎も生きていることだろうし。五体満足かは知らないが。

 「あ、ありがとうございます....?」
 「ん、ああ仲間だろ、当たり前の事をしただけだ」

 俺はポカンとするカルナの髪を撫でる。
 さらさらとしていて気持ちがいい。やはり銀髪エルフっ子に限るぜ。

 「え、え?え?」

 その下の顔は真っ赤で見事な対比だし......。

 トマトかと思うぐらい真っ赤になったカルナは俺をチロリとにらみ、涙目の目を潤ませる。

 「レ、レイさん!!!」
 「うん」
 「せ、責任とってくださいよぅ」
 
 「ーーーうん?」

 え、なんの?
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