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8章 勇者の国

82ー2.異世界道中膝栗毛4

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 例のバーニング野郎の護衛をしつつ、近くの都市まで移動となった。
 その間にも馬車の女性は姿を見せず、どうやら面会を拒否られているようである。無念!

 まあ、そのまま旅は続き、護衛を始めてから5日ほど経った日にようやく都市の輪郭が見えてきた。
 中央には某ネズミキャッスルのような城が存在感を示し、高い城郭はその都市の大きさを表している。

 「ようやく見えたな。あれがシュウスイ王国の王都、シュウスイだ」
 「へえ、変な名前なんだな」
 「はは、そりゃそうだろうよ。なんせあの勇者様が建国した国だからな」
 「へえ、本当にそうとはな」

 俺は勇者の謎ネーミングに苦笑いを浮かべながら"東の勇者"ことトールストンをちらりと見る。
 するとトールストンは俺の言いたいことがわかったのか、焦って首をブンブン振った。

 「も、もちろん俺じゃない!アレを作ったのは!」
 「んなもんわかってるよ。どうせアレだろ?先祖とか」
 「いやいやまさか!」

 台風が発生しそうなぐらい首を振るトールストン。
 あれ、違うの?勇者って言うからてっきり先祖が国王でトールストンはその末裔かと思ってたが....。

 「シュウスイ王国の建国者は異世界の召喚者だぞ!?俺ごときが一緒になるなどとんでもない!!」
 「ん、ずいぶんな謙虚ぶりなことでーーーって、え?」

 今なんつった?

 「い、今なんて言った?」
 「え?だから俺ごときが一緒などーーー
 「違う!!!その後だ!!!」
 「っ!!?」

 思わず怒鳴る。トールストンが怯えたような顔をするが知ったことではない。
 俺はとんでもない事実を今更聞いたのではないか?

 「い、いやだから異世界の召喚者が建国したとーーー」

 まるで全身を揺さぶられたようだった。頭には理解不能の警笛が鳴らされ、全身が酷い風邪を引いたかのように震える。
 
 異世界の召喚者.....だと?確かに俺は転生のような条件で異世界へと来た。別に召喚ぐらいされていてもなんら不思議はない。
 しかし、俺はどこかで諦めていた。
 「この世界で地球人は俺だけだ」と。
 それと同時に吹っ切れて俺は異世界生活に馴染んだのだ。
 しかし、同郷の召喚者がいるのならば、もし本当に地球人ならば。
 俺の頭をそんな思いがよぎる。

 俺は欲しかったのだ。
 同じ世界で生まれ、同じ常識、同じ考えを身につけた人が。
 相談できる、良き相手がーーー


 「い、一応聞く。そ、その召喚者の出身はわかるか?」

 尋ねる声が震える。
 しかし、俺は尋ねる前に直感していた。
 出身が「地球」であると。

 トールストンが口を開く。
 その言葉は俺が待ちに待ったものだった。

 「ニホンだーーーー


 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 
 「ねえ、アン。レイさんの様子おかしくないですか?」
 「え、そお?いつも通りじゃない?」

 体調が悪いと言って、普段は率先して行っているアンのおんぶを放棄したレイさんの様子は見ればすぐにわかるほどおかしかった。
 ただ、間違いの可能性もあるのでアンに聞くと、安直な答えが返ってくる。
 これは聞く人を間違えた。

 「あ、あのハクリさん、レイさんの様子ってアレで普通ですか?」

 気を取り直し、2人目。今度は思慮深いハクリさんだ。いつも私に良くしてくれるいい人。

 「ん、レイの様子かの......。んーーーーーー」

 ハクリさんは考え込み、閃いた!という風に不敵に笑う。

 「妾には普通に思えるぞ?しかし、そんなに心配なら本人に聞いてくればどうじゃ、カルナよ?」

 途端に私の顔が赤くなる。
 この人に聞いた私がバカだった!この人はいっつも私とレイさんの仲の気まずさを案じていた。
 事あるごとに私にこうやれこうしろ、と言うぐらいに。だいたい、あの戦闘の時も気づいたのは私じゃないのに!

 「も、もういいですじゃあ!」

 だいたい本人に聞けるぐらい仲が良ければすぐに聞いてる。
 もう.....。なんで私の周りはこんな変な人ばかりなの?
 ま、まあいいし。それほど心配してないし。どうせあのレイさんのことだからヒョロっと回復してすぐに元気になるに違いない!

 け、けど.....まあ様子を聞くぐらいならしてあげてもいいかも。

 「れ、レイさん!ど、どうしたんですか?」

 意を決して尋ねる。
 が、返ってくる返事はない。本当に危ない気がする。

 「・・・・・・・・・・あ"あ"」

 しかもようやく返ってきたのは死人のような声。
 こ、この人ほんとに大丈夫!?

 「は、ハクリさん!レイさんがやっぱり大変なんですが!?」
 「ん?」

 私が助けを求めると、ハクリさんはレイさんを一瞥して、納得したように笑う。

 「なんじゃ、いつも通りじゃよ?」
 「ええええええええ!!!!????」

 本当に大丈夫この人たち!!??




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
更新遅くなりました。
次回からも別視点書きが入ります!
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